ノンフィクション連続小説第12話 『妖怪の棲む家』
私は、母方の祖父母の家に行くのが大好きだった。
明るくて、家の中は真っ白に輝いていた。保母をしていて活発で優しい祖母と、読書と勉強が大好きな穏やかで優しい祖父が迎えてくれた。
私達が遊びに行く日には、祖母はいつも"まぜごはん”をこしらえていてくれた。それはおひつに入っていて、干し椎茸、人参、味のついた大根が入っていて上に卵を細く切ったものがたくさんのっている。
私はそれが大好物で、「おかわり!」と5回は大声を出して、祖母を笑かしていた。
祖母の作る、きんぴらごぼうも大好物だった。
帰りはいつも祖父が運転する車で送ってくれる。私は後部座席の真ん中にまずは座り、頭は祖母の膝の上、足は母の膝の上に乗せ、上から毛布をかけてもらう。それから約40分、時々聞こえる話声と振動の暖かみを感じながら、うとうとと眠りにつき気がつけば家の前に着いていた。
こんな祖父母が近くにいたら、私達は、もっと違っただろう。
実際には私たちの住む家のすぐ近くには父方の祖父母の怪しげな家があり、私はできれば行きたくなかった。その家の中は灰色で、陰気で、妖気が漂っていた。妖怪のような声で意地の悪い祖母と薄ら笑いでゾンビのような祖父がいつも薄暗い台所に座っていた。
ゾンビの祖父の妹-目の悪い妹はいつも黒いサングラスをかけて黒くて大きな補助犬を連れていた。その人は明るい性格で子供が好きで、母と仲が良かった。私もその人が好きだった。私達の家に時々遊びに来て、母としきりに意地悪な祖母の悪口とあの旧家にまつわる古く陰湿な話をしたあと、私達とも寸劇をしたりと楽しく遊んでくれた。
でも意地悪な祖母はその人が大嫌いだった。理由は「お金をせびるから。そしてゾンビの祖父がお小遣いをあげてしまうから。」ということだった。
なので母は、祖父母の家でその人と会うとろくに目を合わせず素っ気なかった。私も真似をしていたが、とてもいやな感じがした。そしてその人の明るい声までもが、祖父母の家では奇妙に明るく怪しげな声として私の耳に届き、私は得体がしれぬ恐怖を感じていた。
私たちは憎悪が渦巻き、騙し騙されあう人間関係の中に、暮らしていた。
それは本当に居心地が悪いものだった。
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第12話はここまで。次回もご期待ください。
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