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ダイエット小噺 3話〜増える体重の謎〜
KJD、ジムに通う
KJDであった私は、やはり拗らせを解消できないまま、大学4年生の秋を迎えた。
(KJDの詳細については、前作参考↓)
https://note.com/asazawakano/n/n20f75d187719
大学の授業も少なく、就職先も決まっている大学4年の秋は、時間だけを無限に持っている無敵の状態であった。あとは、卒業式のみ。
つまり、暇で退屈な日々を過ごしていた。
残り少ない学生生活は、冬の卒業旅行に向けてアルバイトに精を出し、友達と遊び倒し、片手間に卒業論文を書くことで、時間を埋めていった。
あまりにも手持ち無沙汰だったので、週に2回ほど、ダイエット目的で、最寄りのジムに通いはじめることにした。
バイクに乗り、ペダルを懸命に廻したり、総合格闘技系のフィットネスプログラムに参加したりした。
いつも約90分間の運動をこなし、Tシャツの背面がびしょびしょになるほど水分を噴き出していた。
「卒業式までに、どれぐらい痩せれるだろう〜顔ってどれぐらい小さくなるんだろう〜みんなびっくりするだろうな〜うわ〜楽しみ〜」
なんて、素晴らしい妄想世界に入り浸って、ジム通いを続けた。
しかし体重は、一向に減る気配を見せなかった。むしろ、増えていってるように見えた。
計画的にジムに通っていたし、運動をさぼっているわけでもなかった。
思い返せば、1日1食の食生活に問題があったのだろう。
ジムを終えた後、「ジムに行ったご褒美☆」と自分に言い訳をしながら、大きいサイズの限定味ポテチと緑の蛍光色をしたメロンソーダをコンビニで買い、帰り道の車で飲み食いしていた。
コンビニの冷凍鍋焼きうどんにハマって、(コンビニの冷凍鍋焼きうどんは麺がモチモチで非合法的に美味いのだ...)一食を済ませていた。
ジムを終えて、家に着いた途端、「今日は何も食べてないし、運動したし〜」と呟きながら、お米を1合炊いて炊飯器ごと平らげたていた。
明らかに食生活が、ダイエットの邪魔をしていた。
しかし、当の本人は、
「一日3食食べてるわけじゃないのに、どうして痩せないのだろうか...」
と、本気で疑問に思っていた。
月に8,450円の会費は、汗として流れるわけではなく、脂肪として消費されるわけでもなく、自分の身体の中にカロリーとして蓄えられていた。
そんな生活を続けていた結果、大学卒業を目前に控えた私は、体重を計るのが怖くて、汗で水分を出して、最も脂肪を消費した直後でなくては、体重を計ることができなくなった。
大学内にときどき来る献血車を見かけると、
「私の身体から1リットルでもいいから血を抜いてくれえ、それで体重を減らしてくれえ」
と献血で体重を減らそうとしていた。
KJD、卒業旅行に行く
大学最後の思い出作りとして、友人達と卒業旅行にも行った。
世間の方々は1日3食、朝ごはん、昼ごはん、晩ごはんを主軸とした生活は、人間であれば当たり前。
それが、健康で文化的な最低限度の生活。
しかし、これまでの私の食生活は、
・1日1〜2食
・不規則な時間
・質の悪い食事
それが、不健康で崩れかけた最悪の生活。
卒業旅行中、健康的な友達の生活スタイルに合わせると、1日3食食べる生活が続く。
1日1食の食生活に慣れていた私の身体は、もうてんやわんや状態でさぞ混乱していただろう。
イタリアではオリーブオイルがたっぷり掛けられた食事をし、札幌では海の幸をたらふく楽しみ、中国ではくるくる回るテーブルを目の前に、悪い成分が入ってそうな油を身体に取り込んでいた。
KJD、卒業式を迎える
そんな感じで時間は経ち、迎えた3月。
無事単位もとりきり、卒業式の日となった。
綺麗な和柄模様や眩しいほど鮮やかな色の袴を着て、普段より少し濃くメイクをした女子。
スーツに勝負ネクタイをつけ、ワックスで髪をびしっと決めた男子。
会場内は、勝負の日に立ち向かう若者の覇気で埋め尽くされ、私の重々しい身体も3㎝ぐらいは浮いていた気がする。
もちろん私もお気に入りの袴を身に纏い、戦いに挑むような気持ちだった。
「○○ちゃんかわいい〜☆」
「その袴、超似合う〜♪」
甲高い声が会場中を飛び交っている。
皆、スマホを持って、あっちに行ったりこっちに行ったり、忙しなく動いていた。
大学で一番仲の良かった親友と卒業式の後どうするかについて話し込んでいると、彼女は一切表情を変えることなく、突如放った一言。
「あんた、女将さんみたいだね。」
当時の私は伸びた前髪を斜め分けにしていて、それが影響してか、老舗の旅館で働く女将さんのように、品のある女性に見えるのだろうとスーパーポジティブに考えていた。
しかし今になって卒業式の写真を見返すと、悪意しか感じないその言葉に笑いがこみ上げてくる。
ぷくぷくのだるまみたいな顔
ごりごりに張った胸
ぱんぱんに膨れたお腹
忍たま乱太郎に出てくる食堂のおばちゃんなのか、
渡る世間は鬼ばかりに出てくる泉ピン子なのか、彼女にはそれらにしか見えなかったのかもしれない。
もちろん私の姿は、ジムに通い始めた頃とはなんら変わらず...
入会時に想像していた卒業式の姿は、まさに甘くてほろほろのソフトクッキーのような幻で、終わった。
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