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深谷大橋(島根県道・山口県道16号 六日市錦線)

山口県岩国市というのはおもしろい形をしていて、その北部が楔のように広島県と島根県との堺にグイっと割り込んでいる。今回は、その島根県吉賀町と山口県岩国市錦町との県境にかかる橋について。

島根県道・山口県道16号六日市錦線(以下まとめて「県道16号」)は、島根県吉賀町六日市と山口県岩国市錦町宇佐郷を結ぶ県道(主要地方道)である。総延長は地図読みで約14kmと主要地方道としては短い部類だ。

地理院地図に起点と終点を示す

上記地図にこの路線全体が載っている。山口県側はいかにもな九十九折の山道の線形をしており、実際にいわゆる険道と呼べるような狭隘区間が頻発する。対して島根県側は、急カーブがいくつかあるものの、特に恐怖や困難を感じることのない比較的優しい道路となっている。
六日市から東へ伸びる一般道路としては唯一のものではあるが、車の流れはというと中国自動車道に加えて整備状況のいい国道187号、同434号に流れており、この道を利用するのは狭い範囲の地元民が中心となるだろう。実際交通量は少なかった。
まあ、この道路がある区間に用事があるという人はほとんどいないだろうから、山口県民でも通行経験のある人は稀だろう。

私はこの短い主要地方道を2023年9月に終点から起点に向かって全線走破した。その際、上記地図の星印の位置で印象的な橋を見つけたので、それを簡単に紹介する。旧道でも何でもない現役の橋なのだが、実物を見た人は少ないだろうし、見ればなかなかの物語性に魅力を感じざるを得ない橋であった。

その橋は深谷(ふかたに)大橋と言う。深谷といえば、一般的にもっとも知られているのは中国自動車の深谷パーキングエリアだろうか。この辺りを流れる錦川の支流を深谷川と言い、深谷川をまたぐ橋が深谷大橋である。
実際に見てみると、この「深谷」という地名が真に迫ってくるような、まさに名は体を表す場所であった。
それでは現地の様子をご覧いただこう。

ここは深谷大橋の島根県側、すなわち南端にある広場である。車が10台以上余裕で停められそうな広場があったので、ここに愛車を停めて徒歩で橋へ向かうことに。

上の写真にも写っているバス停とヘキサ。コミュニティバスが走っているようだが、さすがに時刻表はガラガラだった。周辺に民家は見当たらないが、どういう人が使っているのだろう。橋があるのは、この反対側。

広場にあった深谷渓谷の案内板。予備知識無しでドライブがてら立ち寄った場所だったが、意外とすごい背景があるのか。河川争奪という耳慣れない言葉についてはこちら。要するに、深谷川は元々日本海へ流れ込む高津川水系の吉賀川だったところが、瀬戸内海へ流れ込む錦川水系の上流が浸食作用で割り込んできて吉賀川の水流を奪い取り、これが深谷川(深谷渓谷)となったということか。なんとも壮大な地形学のロマンである。
そしてこれから歩く深谷大橋の高さは80m。数字を見ただけでは3代目ゴジラの身長と同じ高さかーとしか思わなかったが・・・。

さて、広場で見るべきものは見たので、橋へ行こう。

深谷大橋南側から見た全景。
鮮やかな赤の欄干が目につく。
そして景観を台無しにするような真新しい飲酒運転撲滅の幟w
ここで事故でもあったんかいな。
景観ということで言えば、赤い欄干の外に背の高いフェンスが増設されているようであり、こちらも大いに美観を損ねているが、安全性という観点からは必要と判断されたのだろう。この辺りのことはただのよそ者である私がとやかく言うことではない。

親柱をチェック。昭和37年3月竣工。見た目の印象は60年ものの古さを感じさせない。大切に整備改修されてきた橋なのだと分かる。

幅は目算5m以上で自動車の離合は余裕でできる。紅葉の時期なら人気が出そうだなと思い橋の外の世界に目を向けようと思ったが。

欄干に鶴。こういうものがあると、察しちゃうよね。
心の中で手を合わせ、気を取り直して再び外の世界へ。
しっかし、この黒いフェンスな、鶴などあったし察するところではあるが、あちこち巨大蜘蛛とその巣が張り巡らせてあって、なかなかグロテスクだぞ。巨大蜘蛛の写真は自重するけど、あまり落ち着いて景色を楽しめない。

下流側
上流側

下流側(東方向)と上流側(西方向)の眺め。
まず下流側であるが、後で地図を見て驚いたことに、この橋から800mも行かぬ場所に集落があるのだ。そのような人里の気配などまったく感じさせない視界いっぱいの山、山、山。これは深谷渓谷が視線を通さないほど狭く深く切り立っていることの証だ。
上流側は蜘蛛の巣がない所を探し、フェンスの外に乗り出して撮影してみた。見渡す限り人工物はない。深く切れ落ちた谷と山々がはるか遠方の雲の下まで続いているようだ。ここは素直に美しいと思った。
思ったんだけど・・・

下を見ると超怖い笑
写真で伝わるか分からないが、80m下の谷底を流れる深谷川を見たならば、その圧倒的な高度感に尻がヒュンとなる。高い所が得意ではない諸兄ならこの尻ヒュンの感覚分かってくれるはずだ。80mというのは3代目ゴジラの身長と同じというだけのただの数字ではなかった。美しい渓谷美から一転、命を刈り取りに来る魔性の高度のように感じられた。
これ以上は下を見ていたくないので、撤退。橋を渡りきってしまおう。

橋の中間を少し過ぎたあたり、下流側のフェンスにこのようなゲートがあった。「危険」という表示が、これ以上ない説得力のある景観の中に掲げられている。
このゲートは踏み出した先にわずか一歩分の足場もない、地獄への玄関口である。というのはさすがにおふざけであり、このゲートは、橋の側面や下面の点検補修を行う際に作業員が出入りするために設置されたものだろう。80mの高さともなると谷底から点検することなんてできないから。

渡りきった。

こちらの親柱には、「深谷川」「深谷大橋」と、予想通りの銘板が収まっていた。それにしてもこの橋の親柱、わざわざ石を銀杏型に削り出し、収まる銘板も同様のアールを持たせて作ってある。なかなか凝っている。赤く塗られた欄干もそうだが、生活橋ではなく観光名所として飾ろうという作り手の確かな意思を感じる。
そんなことを思っていると、こんなものを見つけた。

ひとつ上の写真、「深谷大橋」の親柱から180度振り返ったところ。

途中からかすれて読めなくなっているが、「山口県立自然公園 深谷大橋 観光お土産・・・」とある。間違いなく深谷大橋は観光地の目玉として誕生した橋だったことが確認された!
廃墟となった建屋はかつて土産物屋兼茶店だったのだろう。願わくばこの店が現役であったころの写真を見てみたいものだ。

土産物屋跡の向かいには、山口県と岩国市のカントリーサイン。深谷大橋で県境を超えたのだった。

さて、見るべきものは見たと思うし、引き返そうと橋に向き直って気づいたのが・・・

おおう。まあ、そういうことだよな。
命大事に。
私が橋の上をうろうろと歩き回ってるとき、2台の車が通ったが、自殺志願者だと思われて通報されていないか、にわかに心配になった。私は笑顔というかニヤケ顔だったので、大丈夫だと思いたいが。

さて、私が撮影できた深谷大橋の様子は以上である。残念なことに現地では下に降りる道を見つけられず、橋の横や下からというもっとも魅惑的なアングルでの写真を撮影できていない。
最後は他所様から引用させていただく。

まっぷるトラベルガイドより
島根県西部公式観光サイトなつかしの国石見より

美しいですねー。工法としては上路アーチとトラスの併用になるのかな。その辺り詳しくないけど。上記引用元サイト様によると、深谷大橋は現在でも知る人ぞ知る紅葉の名所らしいから、もう少し秋が深まったらドライブがてら行ってみてもいいんじゃないだろうか。私が車を停めた広場に駐車して徒歩でゆっくり橋を往復しても、10分くらいだよ。
私は人が多い所は嫌いなので、紅葉の時期には絶対に近づかないが。



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