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国道489号旧道 5 牢獄編[完]
とうとう国道489号旧道の旅も終わりだ。
現道との立体交差をくぐって旧道の行くべき先を探る私の目の前には・・・
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これが現在地から西向きで撮影した写真だ。
もはやこの位置に道の痕跡を感じることはできない。
しかし私は既に見てしまっているのだ、あの忌々しいガードレールの支柱たちを。このことが呪いとなって私の背中を押してしまう。せっかくここまで来たのだから、少しだけ・・・。
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うおおおおおおお
進みやすそうな場所を見繕い藪に挑みかかった。見ての通りガードレール支柱が生えている地面はこちら側より1mほど高くなっている。峠越えの九十九折りなのだから登りは当然と言えば当然だが、傾斜が急で体を持ち上げるのがきつい。太めの枝を手で掴み、容易には抜けないことを確認して、四肢の力でどうにか体を引っ張り上げていく。
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こんな感じで登ってきた。青のラインは現道である。私の目線と現道を行く車の運転者の目線がほぼフラットな高さとなっている。私の姿は藪に佇む不審者にしか見えないだろうが、こような藪に関心をもって脇見する運転者はおそらくいないので心配は無用だ。
生きた道から廃道へと踏み出すことで、物理的にも精神的にも一つハードルを越えた感はある。しかしもちろんこんな場所で終わるわけにはいかない。先程見たガードレール支柱がある方向へ道は続いているのだ。進行方向の様子は・・・
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なかなか猛烈な廃っぷりじゃないか笑
左に見えるガードレールと右の崖との間は、元々1.5車線ほどの幅はあったようだが、ご覧のとおり今は植物共がやりたい放題の無法地帯へと変わり果てている。
こんな道を進む用件というのは、廃道探索の趣味か山狩りの仕事くらいしかないだろう。皆様にとってはおそらく未知の世界である藪こぎにしばしお付き合いいただく。
ところで、分かりやすく藪の難易度を表せば、
レベル1「容易に進めるレベル」:膝から腰までの高さ、茎は比較的細く自重で折って進める。
レベル2「ちょっと頑張れば何とかなるレベル」:硬い茎や身長を超える枝などがからみ合いやっかいだが、ルートを見つければ多少肘や膝を汚す程度で進める。
レベル3「相当頑張れば進めるレベル」:レベル2より密度が上がり体力の消耗が著しいレベル。枝の反発が強かったり異常な体勢を強いられたりする。全身ボロボロ覚悟。
レベル4「物理的に不可能なレベル」:押しても引いても人力では人間の体を通すだけのスペースを確保できないため踏破不能。
といった感じだろうか。ここに傾斜や棘といった物的障壁、季節や蜘蛛の巣などの心理的障壁の状況が加わることでさらに細かく難易度が変わるが、基本的には4段階だ。
レベル2ならあまり迷わず進むが、レベル3になってくるとかなり厳しい。したがって、レベル3の継続が見込まれるような状況になれば撤退だ。
薮でも斜面でもそうだが、無理をすれば行けないことがないレベルというのもあろうかと思う。レベル3と4の間と言うべきか。しかし素人である私は、無理をしないことが信条である。皆様も廃道で遊ぶ際は、帰りのことも考えて、行けるという確信を持った場合のみ進むよう心がけてほしい。
今目の前に見えている藪は、「ちょっと頑張れば何とかなる」、レベル2の薮である。私の足を止めるほどの藪ではないので、ルートを見つけながら進んでみよう。
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矢印の所に僅かな隙間があるので這いつくばって進行継続。
進めるのは垂壁すれすれの狭い部分だ。
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ここで右の垂壁を離れ、ガードレール方向へ。
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わずかなルートを見つけてかいくぐるしかない。陰湿な罠だ。
正直もう嫌気が差してきたが、ここでやめる選択肢はなかった。
このレベル3の藪の先に気配を感じていたから。
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旧道の辛い激藪を抜けると楽園であった。
皆様からすれば単なる道路の死骸にすぎないかもしれないが、このときの私には本当にここが楽園に思えた。振り返れば、どこを通ってきたのかももはや分からぬ激藪である。大汗を流しゼエゼエ言っている私の、今目の前にある、腰を伸ばして歩けるこの廃道をこそ楽園と言わずして何と言おう。
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現在地はここである。
通ってきた激藪地帯は、まっすぐ進めないことを考慮しても、実は100mにも満たない長さである。そのわずかな距離を進むのに8分を要した。
時速約0.75km。
無理な体勢を続けてきたせいで腰が猛烈に痛く、膝は笑っている。正直引き返すことは考えたくなかった。
楽園のまま、何か上手いこと行って対岸に渡れないかと願った。
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振り返って見た状況。もう戻りたくない!
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さらに少し進むとご覧のとおり。座って弁当を食べられそうな、のどかな廃道風景である。この楽園はいつまで続くのかという不安は常にあり、先へ先へと私を急き立てた。
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上の写真の中央付近に見えるブッシュ。今更この程度で驚かない。右側のブッシュと垂壁の隙間をかいくぐった。
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そしてこの眺めである。お分かりいただけるだろうか。
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標識!!!標識だよ!!!
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おわあああ〜、と声には出さなかったが、ちょっと感動した。この標識が人目に触れるのは何年ぶりだろう。よくぞ残っていてくれた。
支柱は錆びついており、「山口県」の文字を発見することはできなかった。
しばし標識を眺め、再び進行方向へ向く。
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まだ、進める。進めるなら進む。
ザックザック
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まだ進め、、、ん?
あー
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あああーー、これはちょっといかん気配が・・・(泣
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絶望の檻。
この写真で皆様にどう見えているか分からないが、私の背丈ほどの高さまで密集した茎や枝が人間サイズの生き物の侵入は許すまじとばかりにいきり立っているようだ。
もう私の能力では無理なレベル4の藪であると感覚では理解しつつ、どこかに突破口はないかとしばし観察してみたが、体を通せそうな隙間を作るのは無理であると結論づけた。汗が冷えていくのを感じた。
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地理院地図で、この先道がなくなることは分かっていたのだ。少し早めに終わりが訪れただけのこと、悲観すべくもないはずだった。
しかし、私がここまで越えてきた100m足らずの激藪を思うとき、復路で再び見えることとなる苦しみが心を圧迫した。端的に言って、めんどくせえ!
このときの私は、進むも引くも激藪の格子に遮られた廃道の虜囚のような心持ちだったのである(大袈裟。
傍から見れば馬鹿みたいな葛藤をしながらも、帰らなければならないことは自明であったので、数瞬落ち込んだ後、回れ右。
このとき、ちょっとだけ嬉しい発見があった。
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これは、電柱の根本じゃないかね?
だからどうしたというわけじゃないが、見つけられた道の、人の痕跡。敗北の帰路にも少しだけいいことがあったのがやけに嬉しかった。
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電柱の根本に別れを告げ、元来た道を戻る。目の前の光景は少々威圧的であるが、一度は踏破した道であるから恐れることもない。ただ、体がしんどくて、めんどくさいだけである。
勘違いのないよう願いたいのだが、私は藪こぎは大嫌いである。好きな場所にたまたま藪があるから仕方なくやっているだけで、楽に歩けるなら歩きたいと切実に願っている。だって道なんだから、楽に歩けるに越したことないでしょ。
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戻ってきた。
文章なら一瞬だ笑。矢印のルートを再び藪を漕いで生還してきた。藪からぬぅっと生えてくる私の姿を見た人がいたら、たいそう気味悪い思いをさせたことだろう。安心してください、私ですよ。
今回の探索は道路消失点を前にして、越えられない藪によって敗北という結末を迎えた。もっとも、これ以上は通れないという結論を得たこともまた成果である。
ところで、こう思っている読者の方もおられるかもしれない。
「峠側からのアプローチはしないのか?」と。
鋭いですね。もちろんやってますよ。
まずは以下の写真を見てほしい。
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またしても、檻かwww
峠側から攻めるアプローチの前に立ちはだかったのは、檻、もとい軟弱な金網のゲートと、一跨ぎで越えられる黄色いガードレールだった。「この先に御用の方は」?うん、御用はないんだよな。普通に道路を通りたいだけ。
あらためてゲートとガードレールを観察。立入禁止の文言はなし。
これは、ほんとうに、ひとまたぎで、こえられるな。
ゲートの先の世界について追記するかどうかは、今のところ未定である。
まあ、あまりおもしろくはないかもしれんし。
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ちなみに、ゲートの位置はここである。緑の実線部分、火葬場からゲート前までの道も旧道であるが、ストリートビューもあるし、多少荒れているが私も普通に車で通行できたので、特に取り上げるような楽しさはない(一箇所だけ正体不明の待避所のようなものを見つけたが一切情報も広がりもないので没ネタ)。
とういうわけで、私の敗北というキリのよいところで、国道489号旧道の旅はお開きである。
長らくのお付き合いありがとうございました。
おわり
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