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読書感想文『密会』

初めて ウィリアム・トレバー の作品を読んだ。
この作家の作品はスルメみたいで、噛めば噛むほど味が出る。
全編2度読みして何かしら浮き出てくるものがあった。
特に、アイルランドとイギリスの時代的背景を知っていると、さらに奥行きが出てくるはず。

収録作品は12作品。
気に入った作品をピックアップして感想を書こうと思う。

01. 死者とともに
02. 伝統
03. ジャスティーナの神父
04. 夜の外出
05. グレイリスの遺産
06. 孤独
07. 聖像
08. ローズは泣いた
09. 大金の夢
10. 路上で
11. ダンス教師の音楽
12. 密会

02. 伝統

この中では一番好きな作品。
大学の食堂で長年給仕する、年増だがミステリアスで美しい体つきのメイドの話。
階級制度のあった時代、限られた自由のなか、大学生たちの筆おろしを奉仕し、つかの間でも心を通わせることでアイデンティティを保っている、一人の女性を描いている。
私の脳内では勝手に、映画『愛を読む人』のイメージで上映された。

03. 夜の外出

お互いを利用しようとする、男女のだましあい的な駆け引きが面白い。

06. 孤独

罪悪感を背負ったまま老いて家族を失い、それでも最後に話し相手がそばにいることで救われる話。
それはまるで、味わったことのない郷土料理を、あとからじわじわ好きになるのと似てる感覚。

08. ローズは泣いた

先生の悲しみや、その奥さんの不倫相手との最後の逢瀬を思って共感するその少女に対して共感してしまうという、不思議な気持ちにさせられる話。

* * *

どの作品も、サラッと読んだだけでは掘り起こせない、小さな宝石の粒が埋まっていることを匂わせるものだった。

時間をおいて再読するとまた、新たな発見がありそうな気がする。

こういう味わい深い作品を執筆する作家は好きだ。
深堀するために、アイルランドの歴史を頭に入れたいと思い、ポチっとしてしまった。

図説 アイルランドの歴史 (ふくろうの本)



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