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性癖にぶっ刺さった本や作品を上げてく

身も蓋もないタイトルそのまま、早速行ってみましょう。

銀色夏生『君のそばで会おう』

言わずと知れた詩の名手。
鮮やかで瑞々しい写真と、添えられた丁寧でしずかな、でもどこかあやうい言葉たちに触れて囚われた人も多いことだろう。

いま思えば、写真集のような美しい本、というものに初めて触れた機会でもあった。

掲題の作品は1988年の刊行だそうで、でも知ったのは中学だったかな。
『微笑みながら消えていく』
『わかりやすい恋』
『Go Go Heavenの勇気』
『あの空は夏の中』
『ロマンス』
あたりを買い漁った覚えがある。

その中でも、とりわけ好きだったのがこの『君のそばで会おう』。

タイトルというか、フレーズの大勝利ではないですかね。

『君のそばで会おう』ってなに。
会うならそばなの当然じゃん。

当然なんだけど、当然じゃない、この感じ。
当然だからこその違和感によって、否が応にも「そば」「会う」が字面以上の意味と破壊力を持っていることに気付かされる。

いまでも素晴らしいと思う。

柴門ふみ『恋愛論』

これはたぶん高校の頃読んだ。

『東京ラブストーリー』『同級生』『あすなろ白書』といったトレンディドラマの原作でも知られる柴門ふみのエッセイ。

特に印象的だったのが二つ。

一つは、浮気する人の心理分析。

東京ラブストーリーの三上(ドラマでは江口洋介)についてだったかな。
そういう人は、とにかく目の前の人には一生懸命で誠実なんだと、それがわかって描けるようになった、的なことが書かれていた。

都合のよろしいことで、とは思うけど、なるほどだから余計に無駄にモテるのか、などと変に納得したのを覚えている。

もう一つは、

恋情とは、
「会いたい」
「知りたい」
「触れたい」
が揃った状態のこと

という説。

これはね、今でもそう思いますね。
私はね。

「触れたい」と思っても、別にこれ以上「知りたい」わけじゃなかったら性欲かな、とか
逆に「知りたい」けど「触れたい」とは思わないなら異性であってもよい友人関係が築けるかな、とか

そんな判断基準のひとつに良いんじゃないかと。

いずれ娘たちに話をしてみようかと思っている。

特に高校〜大学になると、想いを交わすだけでは足りなくなることも出てくるだろう。

その時に、果たしてこれらが揃っているかどうか、もしくは、揃った上での関係を望むかどうかを、一度自問して欲しいなと思うわけです。

山田詠美『放課後の音符』

これも高校の頃、いや大学入ってたかな?くらい。

恋愛がわかったようなわかってないような頃に「おっとなー!」と胸をときめかせて読んでいたもの。

紗を纏ったようなソフトカバーの装丁も大のお気に入り。

金木犀は歯が痛い、は今でも意味がわからないけど、恋する2人だけがわかる会話や世界の存在には憧れたなぁ。

靴下の下の細い細い鎖のアンクレットや、
ジャンパトゥのミル(香水)にも。

そして、
「ハイヒールを履いても痛くならない足」はまだ持てていない、
上等にはほど遠い現在、
けどまぁそれほど悪くはないアラフォーの自分を思う。

↓ 持ってるのはこっち。

江國香織『落下する夕方』

これはいつかなーーーたぶん大学。
こちらもタイトルが秀逸。

余談だが、作家の高樹のぶ子氏が、代表作『氷炎』のタイトルに触れて「正反対の言葉を組み合わせて生まれるもの」についてお話しされていたのを聞いたことがある。

確か、飯島愛さんの『プラトニック・セックス』も挙げてらしたんじゃなかったかな。

これは、前述の『君のそばで会おう』や『落下する夕方』にも通じるよなぁと思う。
半端にありえないものを見ると、理解しようと能動的な気持ちが生まれるのだな。

余談おわり。

で、『落下する夕方』よ。
恋愛の残酷さと滑稽さ、執着や熱量をこれでもかと見せつけてくるラストには衝撃しかなかった。

当時はまだ遠く、
身につまされすぎて号泣しながら読んだ数年後を経て、
いまはもう遠い。

そんな忘れられない話。

泉鏡花『外科室』

マンガ(清水玲子『秘密』)で引用されていて、即文庫を買いに走った作品。

ざっくり言えば、手術のための麻酔により、うわごとで秘めた想いを口走ることを恐れた伯爵夫人が、麻酔なしの手術を希望する物語です。

「否、このくらゐ思ってゐれば、屹と謂いますに違いありません。」

想い人である執刀医とのその後のやり取りはぜひ読んでいただきたいのだけど、まぁ、耽美ですね。

奥ゆかしさと激情が生々しい。

たった一度の邂逅がこんなにも、と、恐怖と憧れでゾワゾワさせられる作品。

清水玲子『秘密』もめちゃくちゃ良いのでぜひ。
死者の脳から生前に見ていた景色を再現する、という特殊な手法で捜査をする科学警察研究所・法医第九研究室のお話です。

田辺聖子『恋の棺』/西條八十『恋の棺』

田辺聖子の代表作のひとつ、『ジョゼと虎と魚たち』に収録された短編と、引用されている同名の詩をセットで。

29歳の離婚経験のある独身女性・宇禰(ウネ)が、年の離れた異母姉の子、つまり甥っ子を「可愛がる」物語。

ウネという名前の響きがもう艶めかしいなと思ってしまうわけだけど、10歳下のこの甥っ子を翻弄するさまが、とても勝手でとてもリアルだと思う。

嫌な女と言えばそれまでではある。
ただ、
自分を見てるんだか見てないんだかわからない若い異性を相手に、
消費してるんだかされてるんだかわからない関係を、
確信犯的にコントロールしているところが、強さのように見えて実は弱さのようで、とにかくヒリヒリする。

からの、『恋の棺』である。

『戀の棺』西條八十

語りえぬ二人の戀なれば
われら別るる日にも
絶えて知るひとの無かるべし。

(中略)

われら、山頂の黒き土に巨なる穴をうがち、人知れず戀の棺を埋めむ。
おんみは愛撫の白き鸚鵡を贄とせよ、
われは寂しく黙して金雀兒の花を毟らむ。

かくて谿々に狭霧たちこめ
夕つづほのかに匂ひそむるころ
われら互に微笑みて山を下らむ。

語りえぬ二人の戀なれば
われらが棺の上に草生ふる日にも
絶えて知るひとの無かるべし。
https://nanakama.exblog.jp/11963309/  ←見つけられないので個人ブログを拝借

甥の有二とは絶対に「互に微笑みて山を下」ることはできないだろうな、という確信を抱きつつ、”悦楽の先鋭化”を楽しむ女の凄みに震えていただきたい。

西條八十のは、どれに収録されてるんだったかな…こっちに持ってきてないので不明。見つけたら貼ります。

以上、抉ってくる系や秘めた恋とそれを押し留める葛藤が好きな性癖バレバレの本をご紹介しました!

これ、マンガ編やっても楽しそうだなー

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