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広報は「露出屋さん」じゃないよねって話

先日、10X CCO中澤さんにお誘いいただき、オンラインイベント「黒子のコーポレート大激論Days」のPR部門で登壇をご一緒させていただきました。

スタートアップPRの役割の変遷や経営陣の巻き込み方、PRトレンドまで幅広くお話しさせていただいたんですが、そのとき話したことの中でも特に印象に残ったこと、「広報=露出屋さんではないよな」ということについて、少し今の考えをまとめてみようかなと思います。

このことについては、複数の参加者さんからのtweetでも触れられていたので、PR的モヤモヤポイントなんだろうなと。

大PR時代の幕開け?

今年「(ひとり)広報」をテーマにした本の出版ラッシュがあったり、週刊東洋経済でPRが特集されたりと、世の中の広報に対する関心と需要の急速な高まりを感じます。

「ひとり広報」をテーマにした書籍が今年立て続けに出版

日本パブリックリレーションズ協会「PR業実態調査報告書」によると、2012年から2020年にかけて3643人から6834人へとおよそ倍近くPR人材の数が増加しているとのこと。今現在はさらに増えていると予想できますし、フリーランスに転身して複数の企業のPR支援を行う方も増えてきた印象です。

SNSの普及やWebサービスの発達による情報発信手段の多様化によってコミュニケーション領域の課題が一気に増加し、メルカリなど急成長ベンチャー企業のトップがPRの重要性を発信し始めるなど、この10年弱くらいでPRの在り方が一つの端境期を迎えいてるんだろうなと。

その背景にある変化の一つに、PR業務の多様化があると思います。
PRの手段がいわゆる4マスと言われるテレビ・新聞・雑誌・ラジオがメインだった一昔前に比べ、今では自社サイト以外にもSNSやブログ・音声・動画メディアなど多種多様な伝達手段があること、そして発信する主語も会社だけでなく個人にも広がったことで、その面の広がりに伴いリスク管理の必要性も格段に増しています。

また、終身雇用時代も終焉を迎えつつあり、今や「大退職時代(グレート・レジグネーション)」とも言われるように、社員のリテンション、エンゲージメントの強化が一層課題になっていることから、インナーコミュニケーション(社内広報)の重要性が高まっていると感じます。
競争が激しい中途採用市場における採用広報の必要性は、言うまでもありません。

PRと一口に言っても、その守備範囲は広域かつ複雑化している昨今。PR需要に対する供給(経験人材)も少ないため、未経験で右も左もわからないまま広報担当として着任するケースが増えているという背景が、冒頭の「ひとり広報」出版ブームにも表れているなと感じます。

そもそもPRってなんだっけ?

なんだかお堅くなってしまいましたが(汗)、ここでそもそもPRってなんだっけ?を再確認したいなと。
いまだにあるあるの誤解ですが、PRはPromotionではなく、Public Relationsなんですよね(スポンサードの記事にもいまだに「PR」表記があることや、「自己PR」みたいな言葉のイメージにが強いことで誤解・誤認が根強く残っているなぁと感じます)。

アメリカのPRSA(アメリカPR協会)でも下記のように定義されています。

Public relations is a strategic communication process that builds mutually
beneficial relationships between organizations and their publics.

PRSA,2022

PRの人にとっては当たり前のことだと思いますが、PRが対峙しているのは幅広いステークホルダーであり、メディアはあくまでその一つであって当然全てではないということ。

対峙する相手が
「採用候補者」であればそれは「採用広報」になるし、
「政府」であれば「ガバメントリレーションズ(GR)」になり、
「社員」であれば「インナーコミュニケーション」になり、
「メディア」であれば「メディアリレーションズ」になり、
「投資家」であれば「インベスターリレーションズ(IR)」になる。

ただそれぞれは互いにオーバーラップするものでもあるので、完全に切り離して考えられるものではなく、それはメディアを介したコミュニケーションにおいても同様です。(対顧客向けの露出も、採用広報として効果があることも当然あるよね、という話)

本当はこれだけ幅広いPRですが、会社からの「PRをしたい!」という期待は得てして「メディア露出したい!」ということとほぼ同義のように使われてしまっている現状があるのもまた事実かなと。

もちろんHowの一つとしてメディアリレーションズに注力することも重要な施策になると思いますが、「PR=露出屋さん」というのは矮小化しすぎよね、というモヤモヤなんだと改めて思いました。

Public Relationsにおける「広さ」と「深さ」

PRには、主に「広さ」をつくる要素(認知獲得)と、「深さ」をつくる要素(認知形成・ファン化)の2種類があると思います。

メディア露出は主にこの「広さ」をつくる"一つの(とても有効な)手段"です。媒体や出し方によってはかなり広い層に一気に認知を広げることが可能です。

しかし認知獲得の手段はメディア露出だけでなく、他にも多岐にわたります。
たとえば、

  • エージェント、採用媒体、ダイレクトリクルーティングなどの活用や採用イベントの開催等で採用候補者さんとの接点を広げる

  •  自社イベント/ウェビナーの開催で新規顧客リードを獲得する(通常マーケが担っていることが多い領域)

  • 社員や会社公式アカウントやインフルエンサーによるSNSシェアの輪を広げ認知を広げる
    などなど。

他にもペイドパブリシティの活用や記事の寄稿、他社主催のイベントへの登壇なども同様に認知獲得の手段となります。

同時に「深さ」をつくる活動やその設計も非常に重要です。
たとえば、

  • 自社サイトの情報を最新の状態に保ったり、都度掲載情報を見直して動線を整えたりすることで興味を持って調べてくれた人がほしい情報に早く辿り着けるようにデザインする

  • 採用デックや募集要項、エージェント向け資料の作成・ブラッシュアップを行うことで採用候補者の意向度を高め、より応援してもらえるようなコミュニケーション強化を推進する

  • 自社開催イベントや展示会に足を運んでいただいた方にプレゼントできるオリジナルグッズを作成し、ファン化を促す

  • 社内表彰者のインタビュー記事を作成して自社のカルチャー醸成やエンゲージメント強化に貢献する

あえてメディア露出から遠いところの例をいくつか挙げましたが、メディア露出においてもその露出の質を高める(=「深さ」をつくる)活動はもちろんあります。
たとえば「会社、サービス、ステークホルダーを取り巻く業界の最新の情報を把握し、タイムリーに必要な情報を提供できる日々のインプット」や、「取り上げたくなる・時事に沿った旬なネタの企画」や「伝えたいメッセージを意図した形で取り上げてもらえるようなコミュニケーションの工夫」などがそれにあたります。

とはいえ、(もちろん)メディア露出も大事

「広報は露出屋さんじゃない」ということを言うと、「パブリシティを獲得する活動はそれほど重要じゃないってこと?」と思われてしまうかもしれないのでちゃんと断っておくと、めちゃくちゃ重要です(笑)。
なので正確には「広報は露出屋さんでもあるけど、それが全てではなくてPRの仕事のほんの一部」ということですね。

下記の図は、元リブセンス広報IRの真鍋順子氏が社会情報大学院大学の修士論文として作成されたものです。この図は、スタートアップが成長ステージごとに、どのような広報活動をすべきなのかというモデルケースをあらわしています。

出典:「スタートアップ・ベンチャー企業を成功に導く広報戦略 --経営戦略と広報活動の一体化の重要性」(真鍋 順子氏)

往々にしてスタートアップ初期フェーズのPR活動で優先順位が高いのは事業広報や採用広報で、結果多くのスタートアップ・ベンチャー企業にとってメディア露出が一番にくるのも頷けるところです。

大事なのは、注力することを決めたとき、「あえて今は捨てていること」にも同時に自覚的になることかなと思います。
その線引きができていないと、ありとあらゆるところからくる多種多様なボールをとにかく打ち返すことに精一杯になり、本当に時間を割くべきことも十分にできず結果中途半端に。そしてちゃんと積み上がってる手応えも薄ければ課題の質も上がらない、なのにいつも忙殺されている・・・ということになりかねません。

何を隠そう、かくいう私自身が過去何度もそういう状況に陥っていました(汗)その度に、「今注力すべきは何か?」に立ち返り、それ以外はやらないぞ、としつこく意識し続けました。

キャディ在籍4年の中でも、その時々のフェーズに合わせて絶えずフォーカスを変えてきましたが、やるべきことが明確に定まっている時ほど大きな成果に繋がりやすかったと思います。

変遷の詳細(経営課題ごとのフォーカスと目標設定について)は広報会議2022年12月号でお取上げいただいたのでよかったらそちらも参照していただければ幸いです。

おわりに

長年PRに従事している人はおそらく感じているであろう、近年の「PR熱」の高まり。実際のPRが担う業務の多様さとは裏腹に、「メディア露出偏重」の周囲の理解(期待)とのギャップに対して、多くのPR担当者が感じているっぽいモヤモヤについて、今回は取り上げてみました。

「広さ」をつくる活動はどちらかといえばわかりやすく、計測もしやすい一方、「深さ」をつくる活動は数値化しづらく、手間ひまかかるわりにあまり目立たない影の活動になりがちだったりする。

しかし裏表のないコミュニケーションの重要性がかつてないほど高まっている今だからこそ、「深さ」をつくる仕事をおざなりにしてしまってはいけないよなとしみじみ思います。そこに劇的なショートカットはなくて、いかに丁寧に、誠実にステークホルダーに向き合えるか。ある意味、PRの真価が問われる時代になってきているのかもしれないですね。

長文お付き合いいただきありがとうございました!

この記事は #PRLTアドベントカレンダー2022 の10日目にエントリーしています。


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