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美味しく飲んで、意識せずいつの間にか健康に。カテゴリー・クリエイターへの挑戦 Vol.8

その提案とは、サプリメントMCMを配合したお水を作り、ウォーターサーバーを使って販売したい。ついては、I橋を当事業のアドバイザーとする業務委託契約を結びたいとのことであった。

I橋は、2000年に三井物産の社内ベンチャー事業として設立された株式会社アクアクララジャパンにて、拡販のため東海地方に於いて働き、その後も水の業界を渡り歩いてきたと言った。

アクアクララと言えば日本に於けるウォーターサーバー事業の祖とも言うべき会社だ。2010年当時の二強のうちのもう一社であったクリクラも、元々はアクアクララから分岐独立した会社だ。
アクアクララは、2004年に一旦破綻をするが民事再生法で復活をし、以後、現在に至るまで大手の宅配水メーカーとして稼働している。

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私は、即座にNoと言い渡した。

生きていくのに必要なお水に、サプリメントが入っている。お水に勝手に健康が付いてくる。
その発想自体は市場性が有りそうだし、お水が主たるものである故に、サプリメントを単体で売るよりは、その効果・効能を強調せずとも良いかもしれない。

だが、
「お水は良いと思うが、組む相手を選べ」
と、私は言ったのだった。

私の眼から見て、I橋には良い印象は全く持てなかった。ちぃっとも。これっぽっちもだ。
長年水業界を流れ流れてきた『ブローカー』の様な匂いがプンプン漂っていた。加えて言えば、いい加減そうな雰囲気にも満ち満ちていた。

後に知ることになるが、その当時のウォーターサーバー業界というのは碌でもないものであった。
2011年3月の東日本大震災後の水のニーズの高まりを受け、サントリー、キリン、興和などの大手企業が参入してきたり、大分先の話ではあるが、ウォーターサーバー専業で上場する会社が出てきたりもするのであったが、その頃は小さな会社が跋扈している、まだまだ怪しい業界であった。

なお、サントリーのウォーターサーバー事業に於いて、特に話題になったりしたことは全く聞いたことも無いし、定期的に公開されるアニュアルレポートにもウォーターサーバー事業について記述されることは影も形もありはしない。また、キリン、興和に至ってはとっくの昔に撤退済みだ。

しかし、それまでにも度々似た様なことがあったのだが、S藤取締役は自身の意見を主張しようとするあまり、人の言うことを聞く耳を持たない。その上、こちらが述べていることに対しての理解力に欠けるところがあった。
多分に察するところ、一旦想い浮かべたアイデアに頭が占領されてしまうと、そこから修正が利かなくなってしまうのだろう。

つまり、この事業を始めるべきだと、私に何度もなんども主張を繰り返してきたのだ。
だから私も、「相手がI橋でなければ考え直す」と一本調子に答えを返すのみであった。

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暫く日を置いて、或る日S会長から一本の電話が入った。
「水の事業は僕とS藤取締役とでやるから、浅野君はこれには関わらなくて良い」
と、S会長は言った。

S藤取締役は、I橋と二人でS会長に直訴をしたのだった。
「彼ならば上手く売るだろう」
と、S会長は、I橋に対する評価としてそんなことも言った。

頭越しに勝手なことをされて良い気はしない。
本来ならば、上司を納得させられもしない自分を戒めるべきではないのか。これでは、まったくの我儘に過ぎないではないか。

なんだそりゃ、とでもいうものだったが、自分らに任せておけと言うのだ。それならばそうすればいい。
私は、彼らの言うままに勝手にやらせてみることにした。


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