『装甲騎兵ボトムズ ザ・ファーストレッドショルダー』 作者:吉川惣司
「そうだ。俺の過去をズタズタにしたのは、あいつだった」
放送終了後に制作されたOVAの三作目として、1988年3月に発売された『レッドショルダードキュメント 野望のルーツ』。本書も、『ザ・ラストレッドショルダー』同様、OVAの脚本を書いた著者が小説化したものである。
今回は、テレビシリーズ以前の出来事を描くものだ。
シリーズの中でも重要なファクターである特殊任務班、通称レッドショルダーに、主人公キリコ・キュービーが入隊するところから物語はスタートする。
と言うと、厳しい訓練だとか、隊についてのあれこれとか、レッドショルダー自体に焦点を当てたものと思うかもしれないが、実はそうでもない。
飽くまで話の中心となるのはキリコ。
それから、もう一人の主役は、キリコを招じた、部隊の最高責任者、ヨラン・ペールゼンだ。
優れた戦闘能力を有する者を集めて組織された吸血部隊。その中でも、キリコだけがただ一人、ペールゼン自らが調査し、選抜した男だった。
地上最強の部隊の創造。そのことに全てを注ぎ込む彼にとって、キリコとは如何なる存在なのか。キリコにはどれほどの特性があるというのか。
正直、こんなモンを描いてしまったら、もうこれ以上キリコを主人公にした物語を作るのは不可能なんじゃないのか? と思わされる展開を見せるのだ。
と言うことで、『装甲騎兵ボトムズ』は、一旦ここで集結を見る。
「ここまでやってしまった」ということもあるだろうが、そもそも高橋良輔監督としては、テレビシリーズ終了時点で、その続編を描くことを自ら禁忌としていたのだ。
恐らく、キリコとフィアナ、この二人をそっとしておいたかったのだろう。
ところが、どういった心境の変化からか、なんらかの事情からか、テレビシリーズ終了10年後である1994年に、遂に32年後を描いた『赫奕たる異端』が制作された。
その時も脚本は著者が担当したのだったが、この物語の小説化はされていない。
何故ならば、この『赫奕たる異端』。失敗作というか、どうもイマイチであった。制作陣としても同様の扱いだった様で、吉川氏自身も制作終了後に反省の弁を述べている。
小説にするなど、その気にもなれなかったのだろう。
それに引き換え、本作のOVAはとにかくハードで見応えありの逸品だった。脚本のキレ、作画の厚さ、演出の迫力たるや、とにかく圧がもの凄い。
そんな「隙の無い」アニメ版も勿論必見ものだが、細々した挿話も加えられていたりして、色々と納得がいくこの小説版も捨て難い面白さだ。
OVAでは敢えて謎にされていたことも明かされていたりと、精神衛生上的にも非常によろしい一冊となっているのだ。
この記事が参加している募集
この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?