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兵庫県の進学校Mapその1(播磨・但馬)

兵庫県の中学生で学力上位10%の子どもたち(10%er)は、どこの高校を選ぶのだろうか?この記事では、10%erが順当に選ぶと考えられる高校を「進学校」と定義し、兵庫県の進学校を紹介する。

※この記事は、2020年3月末時点の情勢に基づいて執筆している。『進学校Map』における進学校の選定基準は、以下の記事を参照のこと。

概要

人口:約550万人 (※2017年10月1日現在。総務省人口推計)

中学校卒業者数:52727人 (※2017年3月。文部科学省学校基本調査)

国公立高校入学定員:36200人 (※2017年4月。文部科学省学校基本調査)

中学校卒業者数に対する国公立高校入学定員比率:68.7%

進学校:36校(公立23+国立2+私立11)

学区再編と複数志願制度

兵庫県の公立高校は2014年度まで16学区に分かれていて、北海道(19学区)に次ぐ全国第2位の学区数だったが、2015年度から5学区に再編された。この結果、兵庫県の多くの地域で志願できる高校の選択肢が増え、進学校の勢力図に変化が生じている。

2015年度以降の5学区の学区割りは、次の通りである。

第1学区:神戸市・芦屋市・淡路市・洲本市・南あわじ市

第2学区:西宮市・宝塚市・尼崎市・伊丹市・川西市・猪名川町・三田さんだ市・丹波篠山市・丹波市

第3学区:明石市・加古川市・高砂市・播磨町・稲美町・小野市・三木市・加西市・加東市・西脇市・多可町

第4学区:姫路市・福崎町・市川町・神河町・たつの市・相生あいおい市・赤穂あこう市・宍粟しそう市・太子町・佐用町・上郡町

第5学区:豊岡市・香美町・新温泉町・養父市・朝来あさご

兵庫県公立高校普通科を志願する場合、原則として居住地の学区内にある高校を志願する必要があるが、学区の境界付近の一部で例外がある。他にも例外事項があるが、それぞれの項で述べよう。

また、兵庫県公立高校入試では、学力検査による入学者選抜(いわゆる一般入試)で複数志願制度を採用している。複数志願制度によって受検者は普通科を一度に2校志望できるが、第1志望にした受検者は、素点に第1志望加算点(学区別に20~30点)を加えた上で合否判定される。たとえば、第1志望加算点が25点に設定されている第1学区にA高校、B高校、C高校があり、それぞれの合格ライン(500点満点)が次の通りだったとしよう。ただしA高校の合格ラインは学区トップなので、第2志望に設定する受検者はいないと仮定する。

A高校:450点  B高校:430点  C高校:410点

第1学区の第1志望加算点は25点なので、A高校が第1志望の受検者は素点で425点以上取れば合格である。ここに、第1志望をA高校、第2志望をB高校にして志願したが、素点が424点だったのでA高校を不合格になった受検者がいるとしよう。この受検者はB高校の合否判定に回されるが、第2志望にした高校では第1志望加算点が付かないので、B高校の合格ラインに到達せず、B高校も不合格になる。この受検者が公立高校に合格するには、第2志望をC高校にするべきだったのだ。もっとも、合格ラインは事前に分からないので、模試などを活用して、第1志望よりも一定以上合格ラインが低くなりそうな高校を見極めて、第2志望を決める必要がある。「第2志望で受かるところまで合格ラインを下げるなら、併願先の私立高校の方がいい」と考える受検者も少なからずいるだろう。結果として、兵庫県公立高校入試で第2志望に合格する受検者は全体の1割弱に留まる。

なお、公立高校を一度に2校志願できる制度は愛知県にもある(複合選抜)。愛知県の制度では第1志望加算点がない分、第2志望で合格する受検者の割合は兵庫県よりも高い。

兵庫県は神戸市(第1学区の一部)と、大阪市に近い阪神地域(第2学区の一部)に人口が集中している。そこで、比較的人口が疎である播磨地域(第3学区・第4学区)と但馬地域(第5学区)の進学校Mapを先に紹介し、記事を改めて第1学区・第2学区の進学校Mapを紹介する。

Map(播磨・但馬)

兵庫(第3~第5学区)1cud

※第1学区・第2学区の進学校Mapは「神戸・淡路・阪神・丹波」の記事に掲載。

※地図は『MANDARA』で作成。進学校を中心とした同心円は、すべて半径20kmで描いている。

※赤字は公立進学校、青字は国立・私立進学校。♂を付けた学校は男子校。下線を引いた学校は、中高一貫教育を行っていることを示す。

播磨地域:学区再編効果の地域差

播磨地域に相当する第3学区と第4学区は、旧学区制度下では5つの学区に分かれていた。

旧明石学区:明石市

旧加印学区:加古川市・高砂市・播磨町・稲美町

旧北播学区:小野市・三木市・加西市・加東市・西脇市・多可町

旧姫路・福崎学区:姫路市・福崎町・市川町・神河町

旧西播学区:たつの市・相生市・赤穂市・宍粟市・太子町・佐用町・上郡町

旧明石学区と旧加印学区、旧北播学区を統合したのが第3学区で、旧姫路・福崎学区と旧西播学区を統合したのが第4学区である。

現在、第3学区の公立高校普通科で最も合格難易度が高いのは、加古川市にある加古川東高校だ。第3学区の中学校卒業者数(2017年3月現在。以下同様)10000人弱のうち、旧明石学区が3000人弱、旧加印学区が約4000人、旧北播学区が3000人弱を占めることから、学区再編後の合格難易度が最も高い高校が旧加印学区から出現するのは自然だと言える。加古川東高校は制度上は第3学区全域から通学可能だが、公式サイトで公開されている出身中学校別生徒数を見ると、旧加印学区出身が約7割、旧明石学区出身が3割弱を占め、旧北播学区出身の生徒は少ない。旧北播学区の10%erの大半は、小野市にある小野高校普通科に進学していると考えられる。小野高校は学区再編前から旧北播学区で大学合格実績に最も定評がある高校であり、交通の便を考えると、敢えて加古川市まで出向く必要性が薄いのだろう。同様に、加古川市内の生徒が小野高校に進学するケースも珍しく、加古川東高校の合格ラインに惜しくも届かない生徒は、加古川西高校(加古川市)を志向するのが一般的である。

一方、旧明石学区(=明石市)の10%erが加古川東高校に積極的に流出しているのは、旧明石学区で2007年度まで総合選抜が行われていたことが背景にある。旧明石学区の総合選抜では、明石市内の公立高校普通科を志願して合格すると、合格者の居住地を考慮しつつ、学力が高校間で均一になるように生徒が割り振られていた。自分が志望した高校に必ずしも行けるとは限らなかったのだ。このため、明石市内の公立高校普通科はおしなべて生徒の学力の幅が広く、いわゆる難関大学合格を目指す生徒は、各校に作られた特進クラス的な学科・コースか、明石市外の私立高校に進学する傾向があった。明石市内の公立高校の中では、明石北高校の普通科理数コース(2003年に自然科学コース、2012年に自然科学科に改編)に明石市内の10%erが集結していて、明石北高校の大学合格実績をけん引していた。2008年に総合選抜が廃止され、明石市内の公立高校普通科が自由に志望できるようになると、明石北高校にさらに10%erが集まるようになった。ところが、2015年の学区再編で加古川東高校と競合するようになり、明石市内の10%erが挙って明石北高校に進学するとは言えない状況になっている。さらに言えば、明石市にある国立の明石工業高等専門学校(略称:明石高専)の存在も大きい。明石高専は全国の高専の中でも突出した大学編入実績があるため、明石市内の10%erにとっては有望な“地元の進学校”のひとつである。以上を踏まえて、明石北高校からは自然科学科のみを進学校Mapにおける進学校に選定した。

第4学区の公立高校普通科で最も合格難易度が高いのは姫路西高校(姫路市)で、次点は姫路東高校(姫路市)だ。いわゆる難関大学の合格実績では姫路西高校が大きくリードしているものの、合格難易度では第1志望加算点(第4学区は30点)ほどの差はないので、どちらも第1志望での受検者が圧倒的に多い。学区再編後、旧西播学区から姫路西高校や姫路東高校に通う生徒も見受けられるが、「旧明石学区→加古川東高校」ほど積極的とは言えない。旧西播学区に限ると、たつの市にある龍野高校が進学校として認知されているが、上郡町にある兵庫県立大学附属高校も見逃せない。兵庫県立大学附属高校は播磨地域唯一の公立中高一貫校で、寮があるため兵庫県全域から生徒を集めている。合格難易度のバランスを鑑みて、龍野高校からは総合自然科学科を、兵庫県立大学附属高校では中高一貫組を、進学校Mapにおける進学校に選定した。

兵庫県の神戸市や阪神地域には私立進学校が集中しているが、播磨地域からは(明石市を除けば)通学が面倒である。このため播磨地域の私立進学校志望者にとって、中高一貫共学校の白陵高校(高砂市)は人気の選択肢だ。もっとも、兵庫県の私立進学校は別学が多いためか、共学を求めて神戸市から白陵高校に通う生徒も少なくない。ミッションスクールの男子校である淳心学院高校(姫路市)は完全中高一貫校で、学力上位クラスであるヴェリタスコースの合格難易度がとくに高い。

但馬地域:残された進学連携校方式

但馬地域に相当する第5学区は、旧学区制度下では2つの学区に分かれていた。

旧北但学区:豊岡市・香美町・新温泉町

旧南但学区:養父市・朝来市

第5学区は2015年の学区再編後も引き続き進学連携校方式を採用している。第5学区内の公立高校普通科はそれぞれ進学連携中学校を設定していて、その中学校以外からの学力検査での合格者を定員の18%以内に制限しているのだ。つまり、学区の中にさらに学区を設けているようなものと考えればよい。

たとえば、豊岡高校の進学連携中学校は、豊岡南・豊岡北・港・日高東・日高西・城崎・竹野の7校である。また、八鹿高校の進学連携中学校は、八鹿青渓・養父・大屋・関宮・和田山・梁瀬の6校である。次の地図で、青で囲んだ地域が豊岡高校の進学連携中学校の通学区域、緑で囲んだ地域が八鹿高校の進学連携中学校の通学区域だ。なお、地図で赤丸で示した各高校は、それぞれの進学連携中学校を持っている(一部、複数の高校の進学連携中学校になっている中学校もある)。

兵庫(但馬連携校)2cud

地図を見ると、出石いずし高校周辺(出石中学校・但東中学校区)は豊岡市内でありながら、豊岡高校の進学連携中学校の通学区域に入っていないことがわかる。出石中学校と但東中学校を進学連携中学校に定めているのは、地元にある出石高校だけだ。出石中学校と但東中学校の出身者は出石高校には比較的容易に合格できるけれども、豊岡高校に合格するには“18%枠”を乗り越えなければならない。

旧北但学区の中学校卒業者数約1100人のうち、豊岡高校の進学連携中学校の卒業者は約700人、それ以外の中学校の卒業者は約400人だった。豊岡高校普通科の定員は160人なので、豊岡高校の進学連携中学校出身者から132人以上、それ以外の中学校出身者から28人以内合格する。単純計算すれば、進学連携中学校の卒業者のうち132/700≒約19%が、それ以外の中学校の卒業者のうち28/400≒約7%が豊岡高校普通科に受かる計算になる。2014年度までは、進学連携中学校以外からの合格は18%以内ではなく6%以内(旧南但学区は5%以内)とさらに厳しく、出石中学校や香美町、新温泉町から豊岡高校普通科を受検できる(三者面談で中学校の先生からOKが出る)のは、中学校で学年トップを取るような学力が相当高い生徒に限られていた。今ではそこまで厳しくないにせよ、進学連携校方式の存在を理由に地元の高校の受検に誘導される生徒も多いだろう。

なぜ第5学区が進学連携校方式という、学区再編と矛盾する制度を残しているかといえば、「地元の高校を存続させたい」というねらいがあるからだ。第5学区はその広大な面積に対して高校の数が少なく、仮に地元の高校の入学者数が減って廃校になると、他学区とは比較にならない遠距離通学を余儀なくされる。それを阻止するために、地元の子は地元の高校に極力残ってもらいたいと考えるのは不思議なことではないだろう。

このように、豊岡高校や八鹿高校の普通科は、事実上の通学圏が旧学区の一部に限定されることから、10%erがマジョリティにならないと判断した。よって、豊岡高校からは理数科のみを、八鹿高校からは普通科自然科学コースのみを、進学校Mapにおける進学校に選定した。なお、豊岡高校理数科は学区制限がなく、八鹿高校普通科自然科学コースは第5学区全域から同一基準で選抜する。

もっとも、但馬地域で大学進学を見据えて進路を選ぶなら、私立の近畿大学附属豊岡高校(豊岡市)を選ぶのも有力な選択肢のひとつだ。学寮があり、但馬地域以外からの入学者も珍しくない。進学校Mapでは、いわゆる難関国立大学や国公立医学部医学科の合格者がコンスタントに出ている中高一貫コースを進学校に選定した。

兵庫県(播磨・但馬)内高校の大学合格実績(2020年春)

兵庫県播磨但馬大学合格実績210924

※進学校は黄色で示す。各高校の公式Webサイトで発表されたものを参照した。原則として現役・浪人の総数で、現役での合格者数が分かる場合は( )内に併記した。★は高校全体の実績を示していることを意味し、明石北高校は普通科(1学年定員320人)を含んだ実績、小野高校は商業科(1学年定員40人)と国際経済科(1学年定員40人)を含んだ実績、龍野高校は普通科(1学年定員280人)を含んだ実績、豊岡高校は普通科(1学年定員160人)を含んだ実績である。また、兵庫県立大学附属高校(1学年定員160人)、八鹿高校(1学年定員200人)、淳心学院高校(2020年春卒業者数126人)、近畿大学附属豊岡高校(1学年約160人)は学校全体の実績である。

上の表には載せていないが、播磨・但馬では県外の国立大学として、岡山大学も積極的に志向される。

【2021/12/27追記】この記事を含む中部・関西地方の進学校Mapの記事を、加筆修正して収録した書籍(同人誌)を通販中です。詳細は以下の記事をご覧ください。


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