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教育系VTuberの出版活動

VTuber(バーチャルYouTuber)の中でも知識伝授に重きを置いて活動しているいわゆる教育系VTuberには、その高い専門性を活かして出版活動をしている人々がいます。この記事では教育系VTuberアンバサダーの朝森久弥が、教育系VTuberの出版活動を事例付きで紹介していきます。
なお、この記事の情報はいずれも2023年5月20日現在のもので、将来変わる可能性があります。

「あのVTuberがついに商業出版!」

商業出版とは、出版社が費用を全額負担して本を出すことです。いわゆるふつうの本屋さんにある本は、ほとんどが商業出版と考えて差し支えありません。出版社が「これは売れる!」と見込んだ企画でないと本にならないので、商業出版する本の著者になることは、出資する価値があると認められたという意味でステータスのひとつになります。また、インターネット全盛期とは言え本は日本の主要メディアのひとつですから、本をきっかけに露出が増えて新たなファンを獲得することも期待できます。

活動実績が評価されて商業出版が実現した教育系VTuberには、カルロ・ピノさん由宇霧さんかなえ先生今酒ハクノさんバーチャル美少女ねむさんなどが挙げられます。

Case1.カルロ・ピノさん

チャンネル登録者数約8万5600人。虫や生き物の話をよくしているVTuberさんです。チャンネルの視聴者は大人(20代以上)が多そうですが、これまでに商業出版した3冊はいずれも児童書となっています。本のイラストを同じ事務所に所属していたVTuber・八重沢なとりさんが手がけているのも興味深いです。

  • 『ぴのらぼ おいしい虫さんたち みんなでやりたい虫クイズ』(2019年、小学館)

  • 『ぴのらぼ 絶対に見つからないいきものさん 隠れているやつらを見つけだせ!』(2019年、KADOKAWA)

  • 『ぴのらぼ キミの町にも恐竜、いる?』(2020年、KADOKAWA)

Case2.由宇霧さん

チャンネル登録者数約22万8000人。花魁のアバターで堅苦しくない性教育をしているVTuberさんです。アバターのキャラクターデザインをホロライブの宝鐘マリンさんと同じあかさあいさんが手がけているため、由宇霧さんの本の表紙もあかさあいさんが描いています。内容にマッチしていてとても映えますよね。

  • 『花魁VTuber由宇霧 みんなで学ぶ性教育』(2020年、笠倉出版社)

  • 『花魁VTuber由宇霧が教える セックスで気持ちよくなる御作法』(2022年、渋谷六花舎)

Case3.かなえ先生

チャンネル登録者数約5万3300人。少年院の先生(法務教官)だった経験を活かし、世の中の犯罪や事件・事故について語っているVTuberさんです。2冊目の著書である『人生がクソゲー~』は発売前重版になったとのこと。つまり出版社の想定以上に予約が集まり追加印刷に至ったということで、先生の人気の高さがうかがえます。

  • 『もしキミが、人を傷つけたなら、傷つけられたなら』(2022年、フォレスト出版)

  • 『人生がクソゲーだと思ったら読む本: 生きづらい世の中の突破術』(2023年、小学館)

Case4.今酒ハクノさん

チャンネル登録者数約14万3000人。お酒やそのつまみのレビューをひたすらしているVTuberさんです。配信を見るとストロング系のレビューが目立ちますが、初出版ではクラフトビールに焦点を当てたのがテクニカルですね。お酒を分かりやすくレビューできるスキルを高く評価されての出版だと思います。

  • 『違いがわかる酒クズのクラフトビール超批評 47都道府県コンプリート版』(2023年、ジー・ビー)

Case5.バーチャル美少女ねむさん

チャンネル登録者数約1万6200人。メタバース文化の普及に尽力しているVTuberさんです。初著書である『メタバース進化論』はITエンジニア本大賞2023 ビジネス書部門大賞を受賞しました。メタバースの実態を自身が手がけた調査の統計データ付きで紹介する体裁の、一種の思想書になっています。

  • 『メタバース進化論――仮想現実の荒野に芽吹く「解放」と「創造」の新世界』(2022年、技術評論社)

「本ですか?前から書いてました」

VTuber活動がきっかけで本を出したというよりは、もともと本や論文を書いていた専門家がVTuberを始めたというケースも見受けられます。教育系VTuberには博士号を持っている人が珍しくないですが、博士号を取得するには原則として学術論文の出版が必須です。彼らにとって出版活動は身近な営みなのです。

もとから本または学術論文を書いていて、VTuberとしても出版活動をしている教育系VTuberには、ゾンビ先生永野亮さんAlcia Solidさんなどが挙げられます。このタイプの教育系VTuberは"中の人"を隠さない傾向があり、出版も中の人名義でしていることが多いです。むしろ、自著の宣伝にVTuberというメディアも使っていると考えたほうが実態に即しているかもしれません。

Case1.ゾンビ先生

チャンネル登録者数約2010人。"中の人"は岡本健さんで、近畿大学の教員をしています。専門は観光学ですが、"聖地巡礼"など日本オタク文化に係る研究に積極的で、YouTubeチャンネルではキャッチーなゾンビ学をメインに押し出しています。

  • 『巡礼ビジネス ポップカルチャーが観光資産になる時代』(2018年、KADOKAWA)

  • 『大学で学ぶゾンビ学~人はなぜゾンビに惹かれるのか~』(2022年、扶桑社)

Case2.永野亮さん

チャンネル登録者数約1940人。中の人は"永野亮"さんで、東京弁護士会所属の弁護士です。YouTubeチャンネルでも法律の話が盛りだくさん。単著(一人で書いた本)としては以下の『環境法令管理実践ガイド』がありますが、ほかに法律系の共著(複数人で書いた本)が何冊かあるそうです。

  • 『見落としがちなポイントがわかる ケーススタディ 環境法令管理実践ガイド』(2019年、第一法規)

Case3.AIcia Solidさん

チャンネル登録者数約4万4500人。VTuberにして美少女AIであるAlcia Solidさんを操る人間が、東京大学大学院で博士(数理科学)を取得したデータサイエンティストの杉山聡さん…という位置づけです。YouTubeチャンネルには機械学習や数学の解説動画が多数あります。

  • 本質を捉えたデータ分析のための分析モデル入門 統計モデル、深層学習、強化学習等 用途・特徴から原理まで一気通貫!』(2022年、ソシム)

「同人誌を出せばいいじゃない」

商業出版は出版社が費用を負担するのに対し、同人誌は著者自身が費用を負担する自費出版です。商業出版はその性質上、出版社が本の内容に干渉したり出版のタイミングをコントロールしたりしますが、同人誌はそれらを著者の好きにできる利点があります。一方、いわゆるふつうの本屋さんで同人誌を売るのは難しいですが、コミックマーケットをはじめとする同人誌即売会や、同人誌に特化した書店や通販サイトを活用することで販路を確保することができます。

同人誌を発行している教育系VTuberには、大谷さん琲煎ひいろまきさんオモイカネさん朝森久弥などが挙げられます。

Case1.大谷さん

チャンネル登録者数約4440人。大谷さんはもともと、サークル「大谷号」で食文化研究の同人誌を出しコミックマーケットなどにも出展していたところ、2018年にVTuberデビューして活動の幅を広げました。とくに炭水化物に造詣が深く、ジャガイモやお米に関する同人誌が多いですね。

  • おいしい!おにぎりファンブック!』(2023年、紙媒体)

Case2.琲煎まきさん

チャンネル登録者数約2790人。料理をメインに活動しているVTuberさんで、クックパッドアンバサダーとして創作料理のレシピも公開しています。その活動を自ら描いたイラストを交えて紹介した同人誌を多く出しています。

  • #エスプレキッチン ログ特別号!~毎日料理配信の思い出26品目~』(2022年、電子媒体)

Case3.オモイカネさん

チャンネル登録者数484人。YouTubeチャンネルでは主にバーチャルクイズ大会「オモイカネ杯」の主催として活動するほか、執筆活動も旺盛に行っています。思惟かねさんを含むVTuberさんたちがメタバースで集い、メタバースをテーマにしたオンライン雑誌を出していますが、2023年5月21日には文学フリマ東京というリアルイベントにも進出することとなりました。

  • メタバース旅行雑誌『Platform』Vol.5 機械と工場の世界』(2023年、電子媒体)

Case4.朝森久弥

この記事を書いている私自身です!
チャンネル登録者数363人。2004年に創作活動を始め、サークルCURIOSISTとしてコミックマーケットなどの同人誌即売会に参加していたところ、コロナ禍で即売会のリアル開催が制限されたことをきっかけに2021年にVTuberとしてデビューしました。日本オタク文化や進学校をテーマにした同人誌を出すほか、パソコン向けのクイズゲームも制作・公開しています。

教科書 日本オタク文化 上巻』(2020年、紙媒体)

進学校Map 三訂版 vol.3[北海道・東北・関東編]』(2022年、紙媒体)

教育系VTuberこそ本を出そう

教育系VTuberは何かしらの専門家であることが多く、その情報発信で多くの人を惹きつけています。ただ、生身を出さずに活動していたり、YouTubeという気軽なメディアを使っていることから、信頼性が低く見られたり、一度きりの出会いに留まったりすることがよくあります。商業出版はこれらの懸念を補完する有力な手段です(その分責任を伴いますが)。同人誌だとしても、自分の発信した情報をファンに繰り返し触れてもらいやすくなる上、本づくりを通して専門知識を洗練させることができます。

これからも多くの教育系VTuberが本を出すことで、世の中に楽しい学びが広がっていけばいいなと思っています。私も今後も同人誌を出し、そして願わくば商業出版したいですね…!

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