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高校の成績の付け方が変わるって知ってた?~2022年度から高校でも観点別評価が必須に~

日本の高校では、履修科目ごとに「5」~「1」の5段階で成績(評定)を付けることになっています。高校でもらう通知表では10段階評価になっている人もいるかもしれませんが、その場合も最終的には5段階に換算されます。この結果が、大学入試で提出する調査書に記載されるわけですね。

では、高校の成績ってどうやって付けているか知っていますか?これは教員によってまちまちですが、2021年の時点では、定期考査の点数と平常点(提出物や授業態度など)の組み合わせが一般的です。たとえば、定期考査の点数を70点満点、平常点を30点満点に換算し、合計100点満点で○点以上なら「5」……というように付けている教員が多いそうです。

一方、小中学校での成績は「観点別評価」に従って付けられます。各科目をいくつかの観点でA・B・Cの3段階評価し、その評価から5~1の5段階評定を導き出すという2段構えになっています。このように、小中学校で既に実施されている観点別評価が、2022年度から高校でも必須になるのです。現在でも、高校で観点別評価を行っている高校は無くはないですが、文部科学省のによると、指導要録(通知表の元になっている書類)に観点別学習状況を記載している高校は13.3%に過ぎませんでした。来年度、多くの高校教員は、観点別評価という初めての経験に右往左往することが予想されます。

観点別評価の新しい3観点

日本の学校でどのような科目をどのような内容で教えるのか、それをどうやって評価するのかを定めているのが学習指導要領です。学習指導要領は約10年に1度改訂され、直近では「平成29・30・31年改訂学習指導要領」が実施されています。学習指導要領は学校種別に段階的に実施されることとなっており、小学校では2020年度、中学校では2021年度、高校では2022年度から、この学習指導要領が適用されます。

平成29・30・31年改訂学習指導要領では、観点別評価で評価する観点を次の3観点と定めました。

○知識・技能

○思考・判断・表現

○主体的に学習に取り組む態度

以前の学習指導要領では、教科ごとに別々の観点(4~5観点)が設けられていましたが、これを教科問わず統一したわけです。小学校と中学校では既に平成29・30・31年改訂学習指導要領が始まっているので、新たな観点で評価し直す作業が行われています。それはそれで大変でしょうが、高校では観点別評価そのものが未体験な教員がほとんどですから、もっと危機感を抱いてもおかしくありません。

文部科学省が公開している「学習評価の在り方ハンドブック(高等学校編)」と「児童生徒の学習評価の在り方について(報告)」(※いずれもpdfファイル)を参照すると、3観点の詳細は次のようにまとめられます。

○知識・技能
・各教科等における学習の過程を通した知識及び技能の習得状況
・習得した知識や技能を既有の知識及び技能と関連付けたり活用したりする中で、他の学習や生活の場面でも活用できる程度に概念等を理解したり、技能を習得したりしているか
○思考・判断・表現
・各教科等の知識及び技能を活用して課題を解決する等のために必要な思考力、判断力、表現力等を身に付けているか
○主体的に学習に取り組む態度
・ 知識及び技能を獲得したり、思考力、判断力、表現力等を身に付けたり
することに向けた粘り強い取組みを行おうとしているか
・粘り強い取組みを行う中で、自らの学習を調整しようとしているか

『知識・技能』は、ペーパーテストや実技テストを中心に評価すればよさそうです。『思考・判断・表現』はペーパーテストに加えて、レポートや発表などの出来栄えが評価の対象になるでしょう。

難しいのは『主体的に学習に取り組む態度』で、一見すると、かつての学習指導要領では観点のひとつだった『関心・意欲・態度』に近いように見えます。ところが、前述の資料「児童生徒の学習評価の在り方について(報告)」の中で、「挙手の回数やノートの取り方などの形式的な活動ではなく」と述べており、『関心・意欲・態度』とイコールではないとクギを刺しています。高評価される『関心・意欲・態度』の表出(≒粘り強い取組み)だけでは足りず、それが学習の成果(≒知識・技能の習得や、思考力・判断力・表現力の育成)につながっていることを求めているのです。たとえ粘り強い取り組みをしていても、それが学習の成果につながっていないとすれば「自らの学習を調整できている」とは言い難いからです。

『主体的に学習に取り組む態度』の定義を踏まえ、文部科学省は、ひとつの科目の中で3観点の評価に「大きな差は生じないものと考えられる」と述べています。『知識・技能』と『思考・判断・表現』がともにAなのに『主体的に学習に取り組む態度』がCだとか、逆に『知識・技能』と『思考・判断・表現』がともにCなのに『主体的に学習に取り組む態度』だけA、といったことはないはずだ、ということです。

観点別評価は高校をどう変えるか

文部科学省が観点別評価を導入している背景には、授業が知識の習得に偏ってはいけないという思想があります。一方で、『関心・意欲・態度』でAを取ろうと、やたらめったら挙手したり、ノートを無駄にきれいにしたりする生徒がいて、それが学習の成果に必ずしも結びついていないという課題も承知しており、そのために『関心・意欲・態度』に代わる新たな観点、すなわち『主体的に学習に取り組む態度』を持ち出してきたと考えられます。

しかし、現場の高校でこれが正確に運用されるかは未知数です。『主体的に学習に取り組む態度』を『関心・意欲・態度』と同一視する高校教員がいれば、現状よりも『関心・意欲・態度』の重みが増す可能性があります。3観点のうち1つでもCが付いたら、少なくとも評定「5」が付くことはないでしょう。

逆に、『主体的に学習に取り組む態度』の評価が無力化される可能性もあります。文部科学省の見解に基づけば、『主体的に学習に取り組む態度』と『知識・技能』『思考・判断・表現』はある程度連動するはずですから、たとえば定期考査で良い点数を取っていることを根拠にして「『主体的に学習に取り組む態度』が身に付いているな」と捉えることもできるわけです。「『知識・技能』と『思考・判断・表現』がともにAならば『主体的に学習に取り組む態度』もAにしてしまおう。AAAだから評定は5!」と考えてもおかしくないでしょう。つまり、実質的に『知識・技能』と『思考・判断・表現』の2観点評価になるおそれがあるのです。この問題は小中学校でも起こり得ますが、高校では従来から定期考査中心の評価を続けてきたがために、定期考査の点数で評価しやすい2観点で実質的に評価できるならその方が楽だ、と考える教員が多くいても不思議ではありません。

もっとも、高校での観点別評価を考察したり先行実施したりしている人の話を見聞きすると、『主体的に学習に取り組む態度』を極力客観的な指標で評価しようという流れがあります。具体的には、授業の振り返りシートやレポートを提出させ、その記述を根拠に『主体的に学習に取り組む態度』を読み取るということです。

「主体的に学習に取り組む態度」の学習評価の在り方(早稲田大学教職大学院・教授 田中博之)

この手法にしても『主体的に学習に取り組む態度』が読み取れるような文章力を備えた生徒が有利……と考えられなくもないですが、評価の根拠がないよりはマシだということで、今後浸透していく可能性はあるでしょう。何より、今の学校は情報開示徹底主義です。いつ説明を求められてもいいように評価の根拠を揃えておくことは、教育現場の自衛にもつながります。

なお、高校での観点別評価は必須になりますが、大学入試に送られる調査書に観点別評価の結果を載せることは当分の間ありません。つまり、現状と同じように、各科目の評価は5段階の評定だけが調査書に載ります。

ただ、5段階の評定を出す手段として、観点別評価がベースになることは間違いないでしょう。その場合、観点ごとの重みは均等になる傾向があります。別に均等にしなくてもいいのですが、「同じAABでも評定が違う!なぜだ!?」という問い合わせが発生しやすくなるので、均等にしておくのが無難だと言えます。

たとえば神奈川県の公立中学校では、A~Cを点数化し、点数で評定を区切っています。Aを「A○」と「A」、Cを「C○」と「C」に細分化する手間がかかりますが、外部に説明がしやすい方法のひとつでしょう。

いまの高校生は、いわゆる難関大学であっても、総合型選抜(旧・AO入試)や学校推薦型選抜(旧・推薦入試)で大学を目指すことは珍しくありません。そのためには高校で良い成績を取ることが必要不可欠です。一般選抜での大学受験を決め込んでいても、奨学金のことを考えれば評定は高いに越したことはありません。高卒新卒で就職する場合も、学校推薦は成績が良いほど選択肢が増えるのが一般的です。

そして、高校の成績の付け方は2022年度から変わります。これから高校生になる人は、成績の付け方の詳細(具体的にどの課題がどの観点に属するかなど)を担当教員からよく聞いて、授業に臨むようにしたいものです。

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