見出し画像

北海道の進学校Mapその2(道南・道央)

※この記事は、『北海道の進学校Mapその1(道北・道東)』の続きです。

Map(道南・道央)

【道南】

北海道(道南)2cud

【道央】

北海道(道央)2cud

【道央のうち、札幌市周辺を拡大したもの】

北海道(道央中心部)2cud

※道北・道東の進学校Mapは「北海道の進学校Mapその1」の記事に掲載。

※地図は『MANDARA』で作成。進学校を中心とした同心円は、すべて半径20kmで描いている。

※赤字は公立進学校、青字は国立・私立進学校。♂を付けた学校は男子校。下線を引いた学校は、中高一貫教育を行っていることを示す。

鉄道路線が命綱

道南の最大都市である函館市には、人口20万人台ながら全日制の私立高校が8校もあり(2020年3月末時点。公立高校は7校)、北海道では例外的に私立高校の勢力が強い。その中でもとくに有名なのが、函館ラ・サール高校だ。その名の通り、鹿児島県にあるラ・サール高校の兄弟校で、私立の中高一貫男子校である。函館ラ・サール高校の生徒の過半数は渡島学区外の出身で、全道、さらには全国から集まった生徒が学園寮で生活している。渡島学区の10%erの男子が少なからず函館ラ・サール高校を志望するのに対し、渡島学区の10%erの女子は、一部が私立の中高一貫女子校である遺愛女子高校(函館市)の普通科特別進学コースを志望する。

もっとも、渡島学区の10%erのうち、高校受験をする生徒の間では、公立の函館中部高校(函館市)に進学するケースが最も多い。函館中部高校には、JR函館本線を使えば森町から、道南いさりび鉄道を使えば木古内町から通学可能である。さらに、隣接する檜山学区からの進学者も少数ながら恒常的に存在する。渡島学区の公立高校のうち函館中部高校の次に合格難易度が高いのは市立函館高校(函館市)だが、函館工業高等専門学校(函館市)と競合することもあり10%erの入学者数は多くない。

胆振西学区には室蘭栄高校(室蘭市)、胆振東学区には苫小牧東高校(苫小牧市)がそれぞれ地元の公立進学校として鎮座する。中学校卒業者数(2017年3月。以下同様)を比較すると、胆振西学区は1521人、胆振東学区は1846人と、胆振東学区の方が多い。ところが大学合格実績、とくにいわゆる難関大学の合格実績では、室蘭栄高校の方が見栄えが良い。この背景には、胆振東学区からは札幌市がある石狩学区内の進学校に比較的流出しやすいことと、胆振東学区から室蘭栄高校の理数科に進学する10%erが少なからずいることがある。室蘭栄高校の理数科は学区制限がかからず、定員も1学年80人と理数科としては多い。室蘭栄高校の最寄り駅はJR東室蘭駅で、JR苫小牧駅からはJR室蘭本線で片道1時間強で到着できる。決して近くはないが、札幌に比べれば若干近いということで、毎年10人余りの生徒が苫小牧市から室蘭栄高校に進学している。

胆振東学区の東隣に位置する日高学区(中学校卒業者数604人)は、人口の少なさゆえに高校の選択肢が少ない。従来から、日高学区の10%erが学区外受検を経て苫小牧東高校に進学し、JR日高本線を使って通学するケースが見られる。しかし、2021年には日高本線のうちJR鵡川駅以南が廃線となり、日高学区内を走る鉄道路線は存在しなくなった。代替バスが走っており、日高町からならかろうじて苫小牧市まで通学できるものの、自宅通学のハードルが上がったことは確実だ。「どうせ自宅外通学なら札幌に行こう」と考える日高学区の10%erが増えると考えられる。

「東西南北」を軸として

道央の進学校としてまず名前が挙がるのが「東西南北」だ。北海道の高校受験の文脈では、札幌東高校札幌西高校札幌南高校札幌北高校の4つの公立(道立)高校を指す。札幌東高校は札幌市白石区、札幌西高校と札幌南高校は札幌市中央区、札幌北高校は札幌市北区にあり、4校でちょうど札幌市の中心部を取り囲むように位置している。いずれも戦前の旧制中学校・高等女学校を前身としているが、1950年にこの4校は一斉に男女共学となり、居住地に基づいて4校間で生徒がシャッフルされた。以後、一時期を除いて「東西南北」は別々の学区に分かれていたものの、2009年に石狩振興局全域からなる石狩学区が生まれたことで、石狩学区の受検生は「東西南北」を自由に選べるようになった。現在、「東西南北」を合格難易度の順に並べると、札幌南高校、札幌北高校、札幌西高校、札幌東高校となっている。「東西南北」は石狩学区外の生徒にも人気があり、全道からは幅広く進学者がいるが、石狩学区の道立高校普通科では学区外枠を定員の5%に設定しているため、石狩学区外から合格するハードルは高い。

道央の石狩学区以外、すなわち後志学区と空知南学区には、それぞれ小樽潮陵高校(小樽市)と岩見沢東高校(岩見沢市)という公立進学校がある。ただしいずれの学区でも、学力最上位層は「東西南北」に学区外枠で進学している。後志学区は広く、倶知安町からならJR函館本線でかろうじて小樽潮陵高校に通学できなくはないが、この路線は北海道新幹線の延伸に伴い近い将来廃線になる予定だ。バス転換で引き続き通学できればいいのだが…。

岩見沢東高校がある空知南学区には夕張市も含まれているが、交通の便が悪く通学圏かと言われると微妙である(なおMapでは描かれてしまっているが、JR夕張駅~JR新夕張駅はすでに廃線した)。夕張市を除くと、岩見沢東高校の通学圏内中学校卒業者数は1200人程度で、進学校として成立するにはギリギリの規模になっているのが現状だ。

石狩学区の中学校卒業者数は20124人にも及び、「東西南北」だけでは10%erの需要を賄えない。「東西南北」に次ぐ石狩学区の10%erの選択肢が、市立札幌旭丘高校(札幌市中央区)だ。札幌市立の高校なので、学区を札幌市と設定しており、学区外(=札幌市外)の生徒を定員の20%まで受け入れている。市立札幌旭丘高校の合格難易度は小樽潮陵高校や岩見沢東高校を凌ぐが、石狩学区内かつ札幌市外(江別市や千歳市など)からはまだしも、石狩学区外からの進学は「東西南北」ほど多くない。つまり、後志学区や空知南学区の10%erは、「東西南北」が狙える学力ならば地元の公立進学校よりも優先して目指すが、市立札幌旭丘高校と悩む程度の学力なら地元の進学校を優先する傾向が伺える。

札幌国際情報高校(札幌市北区)は1995年に開校した新しい道立高校ながら、石狩学区では市立札幌旭丘高校に次ぐ合格難易度を保つ。札幌国際情報高校にある4つの学科のうち、学区制限がない国際文化科や理数工学科、グローバルビジネス科が特進クラスのように見えるかもしれないが、実際は、学区制限がある普通科の合格難易度の方が高い。これは、普通科以外の3学科が必ずしも日本の大学の一般入試に最適化されたカリキュラムではないことに起因しているだろう。たとえば、理数工学科は工業の実技科目が必修になっており、工業科と理数科をミックスさせたカリキュラムになっている。以上のことから、札幌国際情報高校からは普通科のみを進学校Mapにおける進学校として選定した。

石狩学区で市立札幌旭丘高校や札幌国際情報高校普通科に次いで合格難易度が高い公立高校には、札幌月寒高校(札幌市豊平区)や北広島高校(北広島市)、札幌啓成高校(札幌市厚別区)理数科の名が挙がる。とくに北広島高校は、かつて石狩学区が7つの学区に分かれていた頃は旧石狩第7学区(北広島市・千歳市・恵庭市)のいわゆる“トップ校”だったので、例年20人以上の北海道大学合格者を輩出していた。しかし、2009年に学区が統合してからは、旧石狩第7学区の10%erが他の進学校に流出している。

石狩学区の私立高校のうち、完全中高一貫男子校である北嶺高校(札幌市清田区)には、寮があることもあって、全道・全国から生徒が集まっている。北嶺高校の大学合格実績を見ると、医学部医学科志向が道内でもひときわ強いことが伺える。

石狩学区にある北嶺高校以外の私立高校が進学校としての立ち位置を得ようとする場合、必然的に「東西南北」と10%erを奪い合うことになる。「東西南北」との10%erの奪い合いという点で近年存在感を示しているのが、江別市にある立命館慶祥高校だ。その名の通り立命館大学の附属校で、卒業生の約半数が立命館大学に内部進学しているほか、普通科SPコースは「東西南北」と比べても遜色ない大学合格実績を出している。進学校Mapでは入試での合格難易度を鑑みて、立命館慶祥高校の普通科SPコースを進学校として選定した。

ところで、立命館慶祥高校は江別市という札幌市から若干外れた位置にあるため、岩見沢市や苫小牧市からも比較的通いやすい(札幌市からでもそこまで不便ではない)。さらに言えば、岩見沢市や苫小牧市からだと「東西南北」は学区外になるが、立命館慶祥高校は私立なので学区の壁を気にしなくていい。つまり、岩見沢市や苫小牧市の10%erにとって、立命館慶祥高校は二重の意味でお手軽な進学校なのだ。

立命館慶祥の立地2_改

札幌市内では複数の私立高校が“特進クラス”を作り、公立高校よりも先に行う入試で、「東西南北」受検者に併願してもらおうと競い合っている。札幌市内の私立高校入試の多くはいわゆる内申点が合否を大きく左右し、高校が定めた基準の内申点をクリアしていればほぼ全員が合格する。一方「東西南北」との併願を見込んだ“特進クラス”の入試では当日の学力試験の結果が重視され、不合格者が普通に発生する。とは言え、どこかの私立高校に合格しておかないと安心して公立高校を受検できないので、“特進クラス”受験者には回し合格制度が用意されている。

現状、「東西南北」受検者の併願先としてポピュラーな“特進クラス”は、札幌光星高校(札幌市東区)の普通科ステラコースと、札幌第一高校(札幌市豊平区)の普通科文理選抜コースだ。いずれもそれぞれの高校の学力最上位クラスであり、一般入試でのみ募集している(推薦入試での募集がない)。これらのコースに合格できるかどうか、合格した場合はさらに特待生に認定されるかどうかで、「東西南北」受検者は公立高校入試での合格可能性を占っている。もっとも、札幌光星高校の普通科ステラコースは「東西南北」合格者でも不合格になるケースがザラにある。「東西南北」の合格難易度の高さを考えると、「東西南北」を不合格になって札幌光星高校の普通科ステラコースや札幌第一高校の普通科文理選抜コースに入学する生徒の中にも少なからず10%erが含まれると考えられるので、進学校Mapではこの2コースを進学校として選定した。

札幌光星高校や札幌第一高校が「東西南北」の不合格者を集める戦略を採っているのに対し、札幌市の東隣・北広島市にある札幌日本大学高校は、「東西南北」の合格者を積極的に奪い取ろうとしているように見える戦略を採っている。具体的には、札幌日本大学高校と「東西南北」の両方に合格した上で札幌日本大学高校に入学した生徒を、特待生に認定しているのだ。公立高校の入試結果を特待生の認定基準にする事例は全国的にもかなり珍しい。さらに興味深いのは、札幌日本大学高校の学校説明会で「東西南北」の受検対策模擬授業が行われていることだ。単に生徒を集めたいだけなら、わざわざ他校の受検を奨励するようなことはしない。なぜ札幌日本大学高校はこのようなことをするのだろうか?

筆者は、札幌日本大学高校に入学する生徒に、公立高校入試が行われる3月まで本気で受験勉強させたいからではないかと考える。私立高校入試は2月で終わるので、私立高校が第一志望の生徒は、高校入学までのブランクが公立高校受検生より空いてしまう。

「下手な春休みの宿題を出すよりは、本番の公立高校入試に挑む方がよっぽど真面目に勉強するし、大学受験を見据えると、良い経験になるのでは?「東西南北」に受かったら特待生にしてあげると言えば、さらにやる気になるだろう」

このような打算が、札幌日本大学高校の教員たちにあるのではないだろうか?つまり、「東西南北」に受かった生徒を特待生認定で釣るためというよりは、札幌日本大学高校に元から入学する気のある生徒に成長の機会を提供する目的で、公立高校入試を利用しているのではないかと思われる。そもそも「東西南北」第一志望の生徒は、たとえ併願先の私立高校から特待生認定を得たとしても、「東西南北」に受かれば「東西南北」に入学してしまうことが多い。私立高校入試が“公立高校直前模試”として使われているならば、逆に公立高校入試を“私立高校入学前実力テスト”として利用しようという発想に至ったのかもしれない。

なお、札幌日本大学高校には実際に「東西南北」に合格した生徒が入学していて、一定の10%erを集めている様子が伺える。ただし、札幌日本大学の学力最上位クラスである普通科プレミアSコースは2017年に設置されたばかりなので、今回の進学校Mapでは選定の対象外とした。

北海道(道南・道南)内高校の大学合格実績(2020年春)

北海道道南道央大学合格実績220424

※進学校は黄色で示す。各高校の公式Webサイトで発表されたものを参照した。原則として現役・浪人の総数で、現役での合格者数が分かる場合は( )内に併記した。★は当該クラス以外の実績を含んでいるもので、札幌啓成高校(1学年定員320人)、遺愛女子高校(1学年約240人)、立命館慶祥高校(1学年約310人)、札幌光星高校(1学年約440人)は学校全体の実績である。

なお、北海道の道立高校の校名は頭に「北海道」(北海道立、ではない)が付くが、本稿では記載を省略した。

【2022/12/30追記】この記事を含む北海道・東北・関東地方の進学校Mapの記事を、加筆修正して収録した書籍(同人誌)を通販中です。詳細は以下の記事をご覧ください。


最後まで読んでいただきありがとうございます。もしサポートいただければ、記事執筆に伴う文献調査や現地取材のためにありがたく使わせていただきます。 もちろん、スキ♡やシェア、コメントも大歓迎です!