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兵庫県の進学校Mapその2(丹波・淡路・神戸・阪神)

※この記事は、『兵庫県の進学校Mapその1(播磨・但馬)』の続きです。

Map(兵庫県丹波・淡路・神戸・阪神)

兵庫(第1第2学区のうち丹波淡路)1cud

↓神戸・阪神を拡大したもの↓

兵庫(第1第2学区のうち神戸阪神)2cud

※兵庫県播磨・但馬の進学校Mapは「兵庫県の進学校Mapその1」の記事に掲載。

※地図は『MANDARA』で作成。丹波・淡路の進学校を示したMapには、高校を中心とする同心円(半径20km)を描いた。

※赤字は公立進学校、青字は国立・私立進学校。♂を付けた学校は男子校、♀を付けた学校は女子校。下線を引いた学校は、中高一貫教育を行っていることを示す。

丹波・淡路地域:学区の制約より地理的制約

令制国のひとつだった丹波国は、現在の京都府福知山市・綾部市・京丹波町・南丹市・亀岡市と、兵庫県丹波市・丹波篠山市を含んでいた。このため、兵庫県で「丹波地域」と言えば、一般的に丹波市・丹波篠山市を指す。しかし、兵庫県公立高校入試で2014年度まで採用されていた旧学区制度では、丹波市・丹波篠山市(当時は篠山市)・三田市で「丹有学区」というひとつの学区を形成していた。そこで本稿では、丹波市・丹波篠山市・三田市の3市を丹波地域とみなす。

旧丹有学区の公立高校普通科で最も合格難易度が高いのは北摂三田高校(三田市)である。北摂三田高校は三田市の南端にあるため、丹波篠山市からはどうにか通学できるが、丹波市からの通学は難しい。そこで、丹波市の10%erは丹波市内にある公立の柏原高校普通科知の探究コースに進学するか、京都府福知山市にある私立の京都共栄学園高校普通科バタビアコースを目指す傾向にある。丹波篠山市にある篠山鳳鳴高校普通科総合科学コースも、市内の10%erのために設けられた普通科特進クラスだが、通学圏内の中学校卒業者が少ない影響で、10%erの数も少ない。

2015年の学区再編により旧丹有学区は第2学区に入れられたので、三田市から南下して阪神地域(とくに宝塚市)の公立高校に進学する生徒が増えている。一方、北摂三田高校は特例で神戸市北区に居住する受検者も学区内扱いで受検できるので、神戸市北区の10%erを確保し、進学校として一定の勢力を保っている。

北摂三田高校の近くにある私立の三田学園高校(三田市)は、旧丹有学区からの通学は3割程度に留まり、神戸市や阪神地域からの通学が多い。とくに併設の三田学園中学校からの内部進学者のうち学力上位の生徒で構成される普通科S特進が顕著な大学合格実績を残していることから、このクラスを進学校Mapにおける進学校に選定した。

淡路島に属する3市(淡路市・洲本市・南あわじ市)は、かつて「淡路学区」という単独の学区を形成していた。淡路市内には鉄道がなく、公共交通機関がバスに限定されているため、島内で市をまたいだ通学も手間がかかる。そこで旧淡路学区では3市にそれぞれある唯一の公立高校普通科に特進クラスを作り、各市の10%erのニーズに応えてきた。淡路市の津名高校では総合科学コース、洲本市の洲本高校では総合探究類型、南あわじ市の淡路三原高校ではサイエンスコースがこれに該当する。ただし、淡路島の北部を占める淡路市の受検者は、特例で明石市の公立高校普通科が学区内扱いで志願できたので、淡路市から高速バスまたはフェリーで明石北高校(明石市)に通う生徒はいた。

2015年の学区再編で旧淡路学区が第1学区に入れられると、淡路島全域から神戸市内の公立高校普通科に学区内扱いで通えるようになった。この結果、淡路市からは島外の高校に進学する機運が以前より高まっている。津名高校は淡路市の中でも南寄りにあり、淡路市北部の岩屋中学校区あたりでは、津名高校よりも神戸市内の高校に通う方が交通費が安くて済むケースさえある。一方、洲本市や南あわじ市から島外の高校に進学する機運はあまり高まっていない。洲本市・南あわじ市と神戸市を結ぶ高速バスはあるものの、定期代が月5万円ほどかかるため、高校生が通学に使うのは難しいからだ。このため、洲本高校普通科総合探究類型と、淡路三原高校普通科サイエンスコースは、学区再編後も進学校としての地位を堅持していると考えられる。

神戸・阪神地域:交通の便は大事

神戸・阪神地域は第1学区と第2学区に含まれる。第1学区はかつての「神戸第一・芦屋学区」「神戸第二学区」「神戸第三学区」「淡路学区」が統合されてできた学区で、第2学区はかつての「西宮学区」「宝塚学区」「尼崎学区」「伊丹学区」「丹有学区」が統合されてできた学区である。

神戸市は東から「神戸第一・芦屋学区」「神戸第二学区」「神戸第三学区」と3つの学区に分割されていて、公立中学校卒業者数はそれぞれ、旧神戸第一・芦屋学区が約4000人、旧神戸第二学区が約3000人、旧神戸第三学区は約6000人と、規模に差があった。それぞれの旧学区の公立高校普通科を合格難易度順に並べたとき、1番目の高校をトップ校、2番目の高校を2番手校とよぶことにすると、次の通りになる。

【旧神戸第一・芦屋学区】トップ校:神戸高校/2番手校:御影高校

【旧神戸第二学区】トップ校:兵庫高校/2番手校:夢野台高校

【旧神戸第三学区】トップ校:長田高校/2番手校:星陵高校

旧学区制の下では、公立中学校卒業者数が多いほど、トップ校の合格難易度が高くなる。したがって、トップ校同士の合格難易度は、旧神戸第三学区の長田高校(神戸市長田区)が最も高く、旧神戸第一・芦屋学区の神戸高校(神戸市灘区)がこれに続き、旧神戸第二学区の兵庫高校(神戸市長田区)がその次という順番だった。2番手校同士の合格難易度も同様に、星陵高校(神戸市垂水区)、御影高校(神戸市東灘区)、夢野台高校(神戸市長田区)という順番で、とくに星陵高校の合格難易度は兵庫高校に肉薄していた。旧神戸第三学区の公立中学校卒業者数は旧神戸第二学区の約2倍なので、旧神戸第二学区で兵庫高校1校に受かる生徒の割合が、旧神戸第三学区で長田高校または星陵高校に受かる生徒の割合とほぼ等しいと考えれば、自然な成り行きだったと言える。

2015年の学区再編で神戸市内で学区の垣根が取り払われると、いくつかの興味深い現象が発生した。まず、旧神戸第二学区のトップ校だった兵庫高校に数十人規模の第2志望者が現れた。この第2志望者は、長田高校か神戸高校を第1志望にしたはずだ。長田&神戸と兵庫の合格ラインの間に第1志望加算点(第1学区は25点)ほどの差があるかは微妙だが、兵庫高校が“第1学区の2番手校”と位置付けられたことが浮き彫りになった。この事実は兵庫高校のプライドを傷つけたかもしれないが、必ずしも悪いことばかりではなかった。旧神戸第一・芦屋学区や旧神戸第三学区の10%erが数多く流入するようになったのだ。兵庫高校は神戸市営地下鉄長田駅に近く(長田高校よりも長田駅に近い!)、神戸市の公立進学校の中では交通の便が良い。結果として、兵庫高校の合格難易度は学区再編後も下がっていない。

一方、立地で割を食っているのが星陵高校だ。星陵高校は神戸市の西端に位置し、最寄り駅のJR/山陽電鉄から約2km離れている。旧神戸第一・芦屋学区や旧神戸第二学区からは通いづらいと言わざるを得ない。しかも、旧神戸第三学区の須磨区や西区には神戸市営地下鉄が走っていて、長田駅まで直通で行けてしまう。旧神戸第三学区内の10%erを、兵庫高校に奪われてしまっているのだ。学区再編後、淡路市から星陵高校に進学できるようになったとは言えその数は少数で、星陵高校は10%erを集めるという観点では苦戦を強いられている。以上の状況を踏まえ、星陵高校からは普通科生命科学類型のみを進学校Mapにおける進学校に選定した。

旧神戸第一・芦屋学区の2番手校だった御影高校は阪神電鉄石屋川駅/御影駅から徒歩圏内にあり、旧神戸第二学区で夢野台高校を上回る大学合格実績に引き付けられた10%erの流入が見られるものの、学校全体を進学校Mapにおける進学校に選定するほどには達しておらず、普通科総合人文コースのみを選定した。

阪神地域では2000年代後半まで、旧西宮学区(西宮市)、旧宝塚学区(宝塚市)、旧尼崎学区(尼崎市)、旧伊丹学区(伊丹市・川西市・猪名川町)で総合選抜を実施していて、旧学区ごとに高校間の学力の均等化が図られていたので、突出した進学校は存在していなかった。大阪府に隣接した地域ということもあり、現在でも大阪府の私立進学校に進学する生徒が多い地域である。ただし、総合選抜の対象だったのは普通科だけだったので、各校に設けられた“特進クラス”には10%erが多く集まっており、そこで顕著な大学合格実績を残していた学校が、総合選抜廃止後に進学校として台頭した。その代表格が、グローバル・サイエンス科(略称:GS科)を擁する西宮市立西宮高校(西宮市)と、グローバルサイエンス科(略称:GS科)を擁する宝塚北高校(宝塚市)である。略称は同じでも西宮市立西宮高校の方は「・」が付くのが正式名称なので注意したい。また、進学校としてはカウントしていないが、宝塚北高校には全国的にも珍しい演劇科がある。さすが宝塚歌劇団のお膝元だ。

尼崎稲園高校(尼崎市)は普通科でありながら例外的に旧尼崎学区の総合選抜に参加せず、総合選抜時代から旧尼崎学区の10%erを確保していた。伊丹市との市境そばに位置し、JR猪名寺駅の目の前にある好立地だが、旧伊丹学区民は学区外扱いだったので推薦入試(学区制限なし)で受検するほかなかった。現在は一般入試でも第2学区全域から受検可能になったことで、尼崎稲園高校の生徒の半数近くが旧伊丹学区の生徒で占められている。

旧伊丹学区の公立高校普通科で最も合格難易度が高いのは川西緑台高校(川西市)だが、阪神地域の周縁部に位置し、川西市民や猪名川町民はともかく、伊丹市民が通うのは手間がかかる。2015年の学区再編後、伊丹市民の10%erは川西緑台高校よりも交通の便が良い尼崎稲園高校を選ぶ傾向が強まった。さらに、川西市在住であっても尼崎稲園高校や宝塚北高校を選ぶ10%erが少なくないことから、川西緑台高校からは普通科総合理数コースのみを進学校Mapにおける進学校に選定した。

第2学区の自治体で最も人口が多い西宮市(50万人弱)は、合格難易度が高めな高校もその分多い。西宮市立西宮高校だけでなく、西宮市立西宮東高校の普通科数理・科学コースと人文・社会科学コースは、宝塚北高校や尼崎稲園高校の普通科に匹敵する合格難易度を有すると考えられる。

関西私学のメッカ

大阪都市圏(大阪府の全域、兵庫県の神戸・阪神地域、奈良県の北部)はひとつの巨大な通学圏を形成しており、府県境を超えた通学が日常的に行われている(※京都市から大阪都市圏への通学は意外と多くない)。とくに兵庫県は長らく公立高校の学区を細分化していたこともあり、私立高校が10%erを集めやすい土壌が育ってきた。

神戸市東灘区に位置し、地元の酒造メーカー(菊正宗・白鶴・櫻正宗)によって設立された灘高校は、兵庫県内に留まらず大阪大都市圏を代表する私立男子進学校だ。この灘高校と、白鹿で知られる酒造メーカー・辰馬本家酒造の一族が設立した甲陽学院高校(西宮市)、カトリック修道会のイエズス会が設立した六甲学院高校(神戸市灘区)が、俗に関西男子校御三家と総称されてきた。灘高校は現在でも高校入試を行っている併設型中高一貫校だが、甲陽学院高校と六甲学院高校は高校での募集がない完全中高一貫校である。兵庫県内の私立中高一貫男子校というくくりでは、淳心学院高校(姫路市)や滝川高校(神戸市須磨区)が、関西男子校御三家に次ぐ合格難易度となっている。

兵庫県の神戸・阪神地域に留まらず、大阪大都市圏で人気を集めている私立女子進学校が、プロテスタントの完全中高一貫校である神戸女学院高等学部(西宮市)だ。神戸女学院高等学部は高校の公式サイトで大学合格実績を公表しないことでも知られている。大阪大都市圏の中学入試の合格難易度を踏まえると、兵庫県内の私立女子校では神戸女学院高等学部や神戸海星女子学院高校(神戸市灘区)に10%erが多く集まっており、この2校に甲南女子高校(神戸市東灘区)が続くと考えられる。

共学の私立進学校では、須磨学園高校(神戸市須磨区)の存在感が大きい。中学入試では六甲学院中学校や神戸女学院中等部と比較される合格難易度になっており、高校入試では神戸高校や長田高校の併願校として定着している。進学校Mapでは、中高一貫コースと、高校からの入学組の学力上位クラスであるⅢ類(理数/英数)を進学校として選定した。宝塚市にある雲雀丘学園高校は、高校の全体を進学校に選定するには一歩及ばないが、兵庫県だけでなく大阪府北部在住の生徒が多く、大阪府立の北野高校や豊中高校を不合格になった10%erが進学しているようだ。

兵庫県民の大学進学は全体として国公立志向が強い。ただし、関関同立とよばれる私立大学は根強い人気があり、兵庫県民はその中でも、西宮市に本部がある関西かんせい学院大学にブランドを感じる人が多い。結果として、卒業生の大多数が関西学院大学に進学する関西学院高等部(西宮市)は、県内の進学校に匹敵する合格難易度を保っている。

ところで、兵庫県の中高一貫校はほとんどが私立だが、2003年に公立の兵庫県立芦屋国際中等教育学校(芦屋市)が開校し、2009年に国立の神戸大学附属中等教育学校(神戸市東灘区)が開校したことで、国公立学校で中高一貫教育を受ける選択肢が広がった。どちらも神戸・阪神地域からはもちろん、明石市から通学している生徒もいる。とくに神戸大学附属中等教育学校の大学合格実績は県内の公立進学校と肩を並べ、中学入試の合格難易度も高止まりしていることから、進学校Mapにおける進学校に選定した。

兵庫県(丹波・淡路・神戸・阪神)内高校の大学合格実績(2020年春)

兵庫県丹波淡路神戸阪神大学合格実績210925

※進学校は黄色で示す。各高校の公式Webサイトで発表されたものを参照した。原則として現役・浪人の総数で、現役での合格者数が分かる場合は( )内に併記した。★は高校全体の実績を示していることを意味し、星陵高校(1学年定員280人)、御影高校(1学年定員360人)、津名高校(1学年定員200人)、洲本高校(1学年定員240人)、川西緑台高校(1学年定員320人)、西宮市立西宮東高校(1学年定員320人)、柏原高校(1学年定員240人)、篠山鳳鳴高校(1学年定員160人)、滝川高校(1学年約230人)、甲南女子高校(2020年春卒業者数169人)、須磨学園高校(1学年約420人)、三田学園高校(2020年春卒業者数268人)は学校全体の実績である。また、宝塚北高校は演劇科(1学年定員40人)を含んだ実績である。

【2021/12/27追記】この記事を含む中部・関西地方の進学校Mapの記事を、加筆修正して収録した書籍(同人誌)を通販中です。詳細は以下の記事をご覧ください。


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