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非活劇的挙動「これはバラードではない」


やはり、あなたは透明板の向こう、水獣のように囚われているのが正しい。


 ●東京メトロ銀座線渋谷駅ホーム(昼)

 親族の結婚式の司会を務めることになった北見咲(30)は、晴れ着としてチャイナドレスを着用し、司会の台詞を諳んじながら歩いている。従姉妹のエイミ(36)からi phoneにメッセージが入る。 

 ●渋谷・スペイン坂の途中にあるサテライトスタジオ前(昼)

 ガラス張りのラジオ放送スタジオ。観覧客が押し寄せ傘がぶつかりあっている。  
黒留袖を着たエイミ、坂の勾配上からスタジオを見下ろしながら、北見と通話している。

 エイミの視線の先には、スタジオ内で歓談中の東雲利彦(45)の姿。  
エイミの元に、駆け寄る北見。 

 エイミ「咲ちゃん、靴」  
革靴を履いた北見の足元。

 北見「革だめか。今そこ行って買ってくる」 

 エイミ「全然急がなくていいよ」

 エイミ、スタジオ内で待機する東雲を見ている。筋骨逞しい体躯に、ハンサムな顔が載っている。  
その場を立ち去る北見。  
無表情で、スタジオ内を凝視するエイミ。

 ●サテライトスタジオ内(昼) 

 バイリンガルの男性ラジオパーソナリティ(50)が番組名をシャウトする。  
対面して座る東雲、笑い出す。

 ラジオパーソナリティー  
「本日は、ゲストに俳優の東雲利彦さんをお迎えしてお送りしております。先ほど、お話しされていた新作映画についてもう少し色々と伺いたいのですが……どうして笑うんですか?」

 東雲「本物だ、と思って」

 ラジオパーソナリティー「それは僕も思いましたよ」

 東雲「そうですか。新作について」 

 ラジオパーソナリティ「元々、映画を観るのがお好きとのことで」

 東雲「はい」  

ラジオパーソナリティ「今も休日は映画館へ?よく行かれる映画館などありますか」

 東雲「1日に何件も巡って観るので、幕間におむすびとか食べてなんとか」 

 ラジオパーソナリティ「こんなナイスミドルが隣りでおにぎり食べてたら皆さんどうします?」 

 東雲「……全然気づかれませんよ」 

 ラジオパーソナリティ「おにぎりは、どんなのを召し上がっているんでしょうか」  
東雲「普通のやつ」

 ラジオパーソナリティ「と言いますと」

 東雲「映画の話はしなくていいんですか」 

 ラジオパーソナリティ「気になりますよね、おにぎり」

 東雲「ナチュラルローソンの枝豆とひじきが入ってる……あと昔よく行ってた映画館の向かいにおむすび屋さんがあって……青学の方にある映画館」 

 ラジオパーソナリティ「東雲さんは、早稲田を出てらっしゃるんですよね」 

 東雲「建築科なんですけど、近くの高田馬場の名画座もよく行きましたね」 

 ラジオパーソナリティ「おむすび片手に……誰かに握ってもらうこともあったでしょう」

 東雲「……じゃあ、今から買ってきましょうか」

 立ち上がって外を見る東雲。東雲、手元のロレックスを見る。エイミの背後に隠れる北見が見える。  
エイミの肩に置かれた北見の左手首にロレックスが光っている。  
スタジオを立ち去る東雲。

 ラジオパーソナリティ「先に、東雲さんからのリクエスト曲に参りましょう」 

 エイミ、北見の手首を掴み言う。

 エイミ「咲ちゃん、結婚式に、この時計はどうかな。物騒だよ……男でしょ」

 エイミにビンタを喰らわせる北見。 

 北見「私は、あなたを呪う」 

 走り出す北見を確認して、スタジオを抜け出す東雲。

マネージャーに着ていたジャケットを羽織らせ逆方向に走らせることで目くらましに使う東雲。

 ●渋谷スペイン坂周辺(昼) 

 路地から路地へと迂回しながら走り進む北見、追いかける東雲。 

 北見にぶつかり倒れ、散乱したZINEを拾うショートカットの少女(北見咲の一人二役)に声を掛ける東雲。 

 東雲「赤いチャイナドレスを着たひとは見てないか」

 一方向を指差す少女(北見)。 

 東雲「ありがとう」 

 少女(北見)は、映画に関するZINEを拾い終え歩き出す。

 ●246沿いの映画館・ロビー(昼)

 鉄筋コンクリート構造が剥き出しの外観。 

 刷り上がったばかりのZINEを持った北見(20)が入ってくる。  
映画館主の男性(65)が、受付のアクリル板を拭く手を止めて挨拶する。

 館主「おはこんばんちわ」 

 真顔の北見。

 館主「ジェネレーションギャップ!地下は、あと20分で上映終わるから、物販よろしくねぇ」

 北見、ネームプレートを左胸に着ける。

1階のシアター上映前、数名の観客がチラシを見るため、ロビーにたむろしている。  
受付でスタンプの押印作業を行う北見。北見、アクリル板をティッシュで拭く。 

 東雲「レビュー読みました。ロブグリエって映画撮ってたんですね」 

 北見、作業を止め男を見る。見事に生白く肥えた男性がZINEを広げ迫ってくる。男は、リュックを背負い、肩に掛けたトートバッグにはクッションを詰め込んでいる。

 東雲「北見さん」

 ネームプレートを手で隠そうとする北見。

 東雲「ここ、他男ばっかでしょ」 

 北見「女だから私に話しかけてくるんですか?」 

 東雲「それは絶対に無い」 

 スタンプを押し出す北見。 

 北見「ご用件をどうぞ」 

 東雲「膝掛けを貸してください」 

 膝掛けを2枚貸し出す北見。

 東雲「ちゃんと2枚返します」 

 北見「ごゆっくりどうぞ」 

 立ち去る東雲、振り返って言う。 

 東雲「北見さん青学?」 

 北見「いいえ、違います」 

 去っていく東雲。受付に入ってくる館主。

 館主「気を付けた方が良いよ」 

 北見「宗教とかマルチですか?学生運動とか」 

 館主「えー。あの人幾つに見えてるの」

 北見「青学の人じゃ無いんですか?」

 検索してウィキペディアの「東雲利彦」のページを北見に見せる館主。  
プロフィールのトップを眉目秀麗な男性画像が飾っている。

 北見「高校生のとき、すごい観たんですけど。従姉妹がファンレター送るからって、書いたのを清書させられたました」 

 館主「東雲さん!」

 振り返る東雲。唖然とする北見。 

 東雲「はい」 

 館主「あとで感想聞かせてね」

 東雲「俺なんかでよかったら」 

 シアターに入っていく東雲。  
プロフィール画像の目元や口元を拡大する北見。

 北見「やれば出来る人ってことですか?」 

 館主「何その感想。出てる映画、データで観る?会社の人にレビュー書くって言ったら貰えると思うけど。あと昔うちの会社ので出てもらってるやつなら仕事終わったあと、僕が映写にかけても良いよ」 

 北見「大丈夫です。今新宿でやってるみたいです」

 ●文化村通り(夜) 

 占い師の女(70)の元に、北見が現れる。  
手相を見てもらう北見。手の平を返す北見。 

 北見「先週友達だと思ってた人から告白されたんですけど」 

 占い師「恋愛運ね」 

 北見「違うんです」

 占い師「何が知りたいの」

 北見「好きですって言われて、私も私が好きですってキレちゃって」

 占い師「あら、悪くないじゃない」

 北見「好きってなんですか。付き合うってなんですか」

 占い師「欲しいものは何かしら?」 

 北見「要らないものは分かります」

 北見を見つめる占い師。北見の手を取りながら言う。

 占い師「セックスが嫌い?」

 北見「嫌いでも出来ます。でもしたくは無いです」

 占い師、北見を見つめる。

 ●新宿・靖国通り(夜)

 雨の中、赤いハイヒールを履いた北見、傘を差し急ぎ歩く。  
階段を降り、地下の映画館へ入っていく北見。

 ●新宿の映画館 

 劇場に入って席を探す北見。北見、最後列の東雲に気がつき、静かに前方、遠くの席に腰掛ける。 

 終映後、放たれた劇場のドアから観客が流れ出てくる。  
東雲と北見だけが座っている場内。 

 北見、i phoneにレビューの下書きをしている。  
周りを見渡すと、客席には、北見と東雲しかいない。身を隠す北見。  
北見、東雲が出ていくタイミングを見計らっている。  
席を立つ東雲。振り返る東雲。身を隠す北見。

 ●新宿の映画館・ロビー 

 閑散としたロビーで、チラシとポスターを回収する東雲のもとに、女性客1(30)が歩いてくる。  
物陰から、東雲の様子を伺い見る北見。

 女性客1「東雲さん、サイン貰えますか?」 

 東雲「よく分かりましたね。なんか最近面白い映画ありましたか?」 

 女性客1「ロブグリエ特集は評判良いみたいですよね」  
東雲「あそこ良い映画館ですよね、今度見に行きます」

 女性客1「東雲さんが今そんなこと言って良いんですか?」 

 東雲「それもそうですよね、今日はありがとうございました」 

 空手教室の生徒のように深く礼をする東雲。  
見つめる北見。  
東雲、リュックから銀座ウエストの菓子折りを取り出してスタッフに渡す。

 東雲「よろしければ皆さんで召し上がってください」 

 ●246沿いの映画館・ロビー(昼) 

 午後の紅茶無糖と銀座ウエストのドライケーキを食べている北見。  
2階から館主が降りてくる。 

 館主「ねぇねぇ、北さん。うちのブログにレビュー書かない?現物交換。2月といえば〜」

 館主が、映画「戒厳令」吉田喜重(1973)、「けんかえれじい」鈴木清順(1966)、「愛のコリーダ」大島渚(1976)のDVDを机に並べる。  
裏を返して見る北見。 

北見「111分、86分、104分。『憂国』(1966)じゃダメですか?You tubeで皆見れるし、28分」 

 館主「ミシマ好きなの、意外〜」

 北見「私は、好きでも嫌いでも書きますし、書いたとして、褒めも貶しもしません」

 館主「北さんは、何を目指してるの」

 スタンプを押し出す北見。  
北見を見る館主。

 ●東京メトロ渋谷駅構内・エスカレーター

 新潮文庫の「花ざかりの森・憂国」に目を落としている北見。 


 ●246沿いの映画館・ロビー(朝)

 受付で、ホットドッグを食べている北見。新潮文庫「花ざかりの森・憂国」を読んでいる。 

 東雲「朝からそんなの読んでんの、しかも腸詰め」

 北見、文庫本を慌てて隠し、ホットドッグを見る。 

北見「切り裂かれる眼球も、雪崩る消化器も家畜の臓器らしいじゃないですか」

 東雲「ははは。北見さんってリアリストなんですね」 

 北見「夫は先に死ぬことにして、妻が絶対に裏切らないってどうして分かったんですか」 

 東雲「俺リアリストだから分かんねえ」 

 北見「ですよね」 

 東雲「9時からの回を一枚ください」

 シャネルの女物の財布から、一万円札を抜き出す東雲。  
財布を凝視する北見。

 北見「シャネル」 

 東雲「これ?」 

 財布から学生証を抜き出す東雲。  
学生証が将棋のコマのように、机の上に置かれる。

 東雲「こいつ、地下アイドルやっててめっちゃ儲かってんの!」 

 早稲田大学の学生証には、顔写真と氏名「東雲あいか」と記載されている。

 北見「奥様?」 

 東雲「妹!」

 北見「凄く美人ですね」

 東雲「でも、俺の好みではないよね〜」

 手荒に膝掛けを2枚貸し出す北見。トートバッグから、東雲あいかのチラシ束を取り出す東雲。 

 東雲「よかったらチラシ置かせてください」 

 返事を待たず、棚に置きシアターへと入っていく東雲。  
呆然とする北見と館主。  
戻ってきた東雲が、大声で言う。 

 東雲「デビュー曲が、『さらば夏の光』っていうハ長調のポップチューンで、その次が『エロス+虐殺』っていうテクノ歌謡なんです、よろしくお願いします。俺受付にいるんで、よかったらそのまま来てください」

 館主「何?プロポーズ?」

 東雲「まじ老害だわ、な!」

 北見「そうですね」 

 シアターへと入っていく東雲。上映が始まったのを確認する館主。北見に、「226事件慰霊碑」の記事画像をi phoneの画面で見せる。

 館主「見て、ここここ」 

 北見「公共放送の前のとこの」

 館主「女子高生のパワースポットなんだって」 

 スタンプを押し出す北見。 

 館主「恋を知る前に歴史に散った青年将校の霊が、私たちの恋を応援してくれるって」 

 北見「私、大学生なので」 

 館主「北さん、多分アカウント身バレしてるね……だってなぜ今、吉田喜重?」

 Apple musicで、「エロス+虐殺」を検索する北見。 

 ●渋谷駅前のスクランブル交差点にあるレンタルビデオ店(夜)

 東雲あいかと利彦がツイン・ヴォーカルをとるテクノ歌謡「エロス+虐殺」をヘッドフォンで聴きながら店内を周回する北見。北見、フローズン状のコールドドリンクを手にしている。

 ●スペイン坂にある元映画館のライブハウス(夕方)

 コテコテのポストモダン建築。いびつな鉄塊をくっつけたようなファサード。

 告知板に貼られた東雲あいかのポスターを通り過ぎる北見と館主。  
会場へと続く階段には、物販の列が長く連なっている。中年男性が多い。  
受付に立っている東雲利彦。館主と北見を見つける。

 東雲「北見さん。こんばんは」

 館主「僕は?」 

 東雲、北見のショルダーバッグのチェーンを引っ張って連れ去る。

 館主「僕は?」 

 遠ざかる二人を見送る館主。 

 ●2階・関係者席 

 最前列に並ぶ北見と東雲。  
会場BGMに、河合奈保子の「大きな森の小さなお家」が流れている。

 北見「『エロス+虐殺』は、良い曲だと思いました」

 東雲「だろ?」

 北見「男性のヴォーカルは、東雲さんですね」 

 東雲「ああ。バイトだ」 

 北見「東雲さんは一緒に舞台立たないんですか」 

 東雲「夫婦漫才みたいな」 

 北見「『さらば夏の光』は無かったので聴けませんでした」

 東雲「悪かったな。謝る」 

 北見「嘘言って反省とかしないんですか」 

 東雲「しない。河合奈保子が歌ってるなら見たいわ」 

 北見「さらば夏の光……」 

 東雲「誰も見たことナーイナイナーイ(河合奈保子「大きな森の小さなお家」の振付より)をさ、バーイバイバーイバイって。悪いか?」  

北見「特に悪意は感じないですけど」 

 東雲「だよな、そうなんだよな」 

 北見「何がですか」 

 東雲「歌ってほしいと思った時には、もうその人はここにいないんだよな」

 東雲の横顔を見る北見。見返す東雲。北見、ステージ正面を向いて言う。

 北見「ここ昔映画館だったんですよね」 

 東雲「もう昔?」 

 北見「私は、来られませんでした。ここで何か観ましたか」

 東雲「……ピーター・グリーナウェイとか」

 北見「なんで今一瞬考えたんですか」 

 東雲「思い出してただけです!」 

 北見「カッコつけましたね!」 

 笑い合う二人。 

 東雲「あと『アメリ』でしょ。ペドロ・アルモドバルとソフィア・コッポラ。『ロストイントランスレーション』は、良い映画だと思ったけど、『ヴァージン・スーサイズ』は、よく分からなかった。なんで死んだの、あの姉妹」

 北見「さあ。他人の死を分かったように撮るのが暴挙なのかと」 

 東雲「学校の先生かよ」

 北見「王家衛とかコーエン兄弟は観なかったんですか」

 東雲「俺さ、スティーブ・ブシェミに憧れて役者になったんだ」 

 北見「いつか記事で読みました」 

 東雲「そうか」

 北見「でもあなたの役はいつも女殺し」 

 東雲「俺が出てる映画何か観たことある?」 

 北見「途中、ジョニー・デップから、トニー・レオン路線に切り換えましたね。アクションもコメディもいける、目でも殺せる」 

 笑い出す東雲。 

 北見「東雲さん。クリストファー・ドイルに撮られる予定無いんですか?」

 東雲「……一つくらいしか観てもらえて無いかと思った」 

 北見「笑い事ですか」

 東雲「でも基本、俺出てんの恋愛映画ばっかだろ。んで俺は、大体金持ちかヒモ。んで、サディスト。都合良いよな。人バンバン殺すタフガイやっても、あの鍛え上げられた二の腕に抱かれたいとか思われるそういう」  
 

 Winkの「愛が止まらない〜Turn it into love〜」が流れ出し、ライブが開幕する。

 東雲「愛が世界を救うんだろ!くだらねえ。セックスがそんなでも無かったアメリが、どうして恋愛しただけでそうなった?それで幸せか?君と君だけの世界。俺だって、良いと思った人の為だったらお化け屋敷の骸骨にでもなるさ。でもなんだよ、良いってなんなんだよ!そもそも好きってなんだよ。君の為なら死ねる?皆さん、心中してみるか!生きて帰って、勝手に失恋でもしてろ!分かんねえんだよ、恋愛はオペラかよ!俺は、お前の人生便利屋か!俺は、映画が好きなだけなんだ!」 

 走り出す東雲。  
周囲を見渡したのち、駆け出す北見。

明転する舞台。リップシンクで踊り出す東雲あいか。

 ”Car radio流れる せつなすぎるバラードが”(以下省略)

 雨降る仮想都市渋谷で、東雲を探し追う北見。東雲あいかのライブ会場でヲタ芸を披露する観客。東雲あいかのパフォーマンス等が、細かなカット割りで連ねられていく。

 ●2・26事件慰霊碑近辺(夜) 

 うずくまる東雲を見つける北見。北見には、かつての美貌の東雲が見えている。

 北見「フォトジェニックすぎるんですけど!」 

 東雲から少し離れたところに座る北見。 

 東雲「俺のこと見つけられるなんて都合よすぎない?」

 北見、現在の東雲の像を取り戻す。 

 北見「このあいだ『憂国』を観て、エキゾチックジャパンみたいな感じで腑に落ちなくて、これはdisってる訳ではなくて。なんて言うか、観られることを想定しすぎているというか」 

 東雲「そこにあるものを撮るのか、そうじゃないのか」

 北見「自分には見えたものを可視化するのか……それでウィキペディアで他の2・26事件関係の映画を調べてみて」 

 東雲「全然話し変わってんじゃん。で、何観たの」

 北見「吉田喜重の『戒厳令』と大島渚の『愛のコリーダ』と鈴木清順の『けんかえれじい』」

 東雲「北見さん、ああいうの観て笑うの」 

 北見「知らないですけど、ある程度笑うように仕向けられてるかと。ここ、パワースポットなんですってね」

 一点を見つめる東雲。 

 東雲「あそこにいる人誰?」

 北見「撮影部と録音部と監督と」 

 東雲「いや、二人だから」 

 北見、東雲の視線の先に顔を向ける。 

 東雲「白いサラシ着て目隠しされてる」 

 銃声が鳴る。悲鳴を上げる北見。 

 東雲「じゃ、帰るか」 

 北見を立ち上がらせる為に、バックの紐を引く東雲。 

 東雲「行くぞ、帰るぞ……青年将校に好かれてどうすんだよ」 

 地面に座る東雲。

 東雲「ほら、見てみ。今、あいつ北見さんに急いでラブレター書いてるぞ。万年筆のインクタンクは満タン、タイプライターならダンダンタタン。”恋”という字を”変”と書き間違えて今、破り捨てました。次は、どうしましょうか。お電話かしら。しかし、住所も電話番号も分からないのでした。あら、愛の左側に火を灯し、魚や雲を泳がせても、それはアイ。今度は、愛の左側にお口やお目目を置いてみましょう、愛の左側にお口やお目目を」 

 北見「なんの話ですか?物騒なんですけど」 

 東雲「漢字の部首の話」 

 北見「今思いついたんですか」 

 東雲「いつか誰かが書いたんだよ、俺とか誰かに言わせたくて」 

 北見「はい」 

 立ち上がり歩き出す二人。北見、振り返り手の平を返さずに敬礼をする。

 ●元映画館のライブハウス

 終演後、フロアの中央で関係者を労う東雲あいか。  
満員のフロア。北見と東雲が入ってくる。

 東雲あいか「お疲れ様です。物販過去最高行きました。”Car radio流れる切なすぎるバラードが〜”ってこの主人公が聴いてたバラードってなんなんですかね?」 

 静まるフロア。 

 東雲あいか「この曲ではないということだけが分かってるっていうか」 

 関係者が、80年代以前の有名バラード曲のタイトルを上げていく。

 東雲あいか「ありがとうございます。そう、今日は何の日か知ってますか?」 

 関係者一同「ビスケットの日」

 東雲あいか「凄い!有名みたいで楽屋に来てくれた皆さんから頂いたビスケットがいっぱいあるんですけど。今日、兄が来てて」

 拍手の音。 

 東雲あいか「あーすみません。兄はサブレを置いていきました、そんな兄が苦手です」 

 笑う北見。不満気な東雲利彦。

 東雲あいか「本日はありがとうございました」

 Winkの「Sugar baby love」がかかり始め、一同踊り出す。

 Wink「Sugar baby love」

 ”Sugar baby love

愛なんて 知りたくないわ”(以下省略)

 バーカウンターに座り、フロアの様子を観ている東雲。  
マイクを持ったカウンター越しのバーテンダー(40)が、鈴木早智子の曲中台詞をリップシンクする。

 バーテンダー「”夢で何度も言えた言葉なのに あなたの瞳を見ると唇が凍ります…好きです”」 

 北見とあいかが組みになって踊っている。 

 東雲「好きって何なんでしょうね」 

 バーテンダー「寅さん見なきゃ!」

 美貌の利彦が言う。

 東雲「俺、一目惚れしないんで。あと、マドンナ、代替の可能性しか感じない」  
バーテンダー「可愛そう」

 東雲「(驚いたように)そうですか?」

 バーテンダー「それは、一目惚れさせてる方の傲慢じゃない?」 

 東雲「俺は、そういう役なら誰とでもやるし、何でも言う。でももうやめた」

]利彦、現在の像に戻る。 

 バーテンダー「幸運をお祈りするわ」

 ●明治通り(夜) 

 タクシーを拾う東雲兄妹と北見。 

 助手席に座る東雲(兄)、後部座席に並んで座る北見と東雲あいか。  
明治通りを北上するタクシー。  
助手席の利彦、バッグミラー越しに映る二人を見る。 

 利彦「お前ら似てんな!」

 あいか「お兄ちゃん、女知らなすぎ」

 利彦「は?」 

 北見、取りなすように言う。 

 北見「それはその」

 あいか「いいよ、こんなのの言うこと真に受けないで」

 千登世橋に差し掛かると、あいかはタクシーを停めて北見の手を引き降りる。  
夜道を並んで歩く北見とあいか。

 あいか「お兄ちゃん、あれ人間とは思えない」 

 ●東雲兄妹の実家(回想) 

 リビングで革靴を磨く利彦。  
セーラー服のあいか、玄関に靴がないのを確認する。  
外で隠れ待つ、学ランの少年を家に上げるあいか。

 靴を持って、2階へと上がる二人。部屋へ入るや否や、襲いかかってくる少年。抵抗するあいか。 

 玄関に革靴を置く利彦。玄関に鍵を掛ける。

階段を駆け上がる利彦。  
あいかにまたがる少年を払いのけると、あいかの顔面を一発殴る。

続いて、少年を殴りながら、階段まで追い詰め、少年を転落させる利彦。

滑り落ちた少年は、操り人形のようなポーズで倒れている。

 ●あいかの部屋 

 1Rのこざっぱりとした室内。あいかが紅茶を入れている。

 あいか「それで、私の前歯インプラントなの」 

 北見「はあ。その男の子はどうなったの」 

 あいか「転校した」 

 北見「そう」

 あいか「そう、転校した」

 北見、あいかの宅録機材を眺めている。  
宅録機材の説明を始めるあいか。

あいかは、機材を北見に持たせながら説明する。一通り説明を終えるあいか。 

 あいか「北見さん、お兄ちゃん、パンツ脱がないと眠れないとかありえなくないですか」 

 北見「それは知らない」 

 ベッドサイドに置かれたロレックスを手に取る北見。  
北見を見つめるあいか。見つめ返す北見。

 北見、利彦、あいかの交互独白「『映画』の中で踊りあった二人は、その夜、肉体的に結ばれなくてはならないらしい。プレリュードとしてのダンス。それが常だ。そして、これは『映画』なのだろうか、それとも」

 ●西武豊島線・車両内(昼) 

 北見とあいかが並んで座っている。

 ●練馬区内の遊園地(昼) 

 園内を並んで歩く北見とあいか。

 ●歓楽街にある映画館(夜) 

 映画館の向かいはストリップ劇場、裏手にはソープランドがある。映画館はビルの3階にあり、1、2階にはパチンコ店が入っている。 

 入り口に看板を出す東雲。すれ違う客に挨拶を返している。東雲は、映画館に入っていく。  
まもなくして現れる北見。  
看板には「日活ロマンポルノ特集第2週 神代辰巳 第一夜 『黒薔薇昇天』」と銘打たれている。 

 ●映画館内 

 レジにやってくる北見。 

 北見「サモサを一つお願いします」

 東雲「競合他社に金落としていいの」 

 凍りつく北見。レジ台から見下ろす東雲。 

 北見「相互扶助の世界かと」 

 サモサを用意する東雲。 

 東雲「こんなの食うんだ。グミとかばっか食ってると思った」 

 北見「あとハイネケン」

 東雲「未成年じゃないことを証明してください」

 学生証を出す北見。  
学生証を丹念に見る東雲。 

 東雲「この写真、伊勢丹で撮ったろ……本当に青学じゃないんだ。社会学部。へー。ここの男ってみんな品良さそうだよな……女もそれ以外も」 

 北見「早く返してください」 

 東雲「後ろいないからいいでしょ……実はフランス語とか喋れんだろ」 

 北見「話せません!」 

 東雲「バレエ踊る」 

 北見「踊れません!」 

 東雲「お」

 北見「違います!」

 東雲「に」 

 北見「違います!」 

 東雲、トレイにケバブとハイネケンを載せて北見に渡す。劇場内に入っていく北見。支配人の中年男性(45)、東雲に声を掛ける。 

 支配人「東雲君、上がってもらって大丈夫だけど観てってもいいよ、電車遅延してて皆来れないみたい」

 ●劇場内 

 座席に掛ける北見。がらんどうの劇場内。ブランケットとクッションを二つ抱えた東雲がやってくる。 

 東雲「ほら。使えよ」 

 北見「どうもありがとうございます」 

 立ち去らない東雲。東雲を見上げる北見。 

 東雲「痴漢とか嫌だろ」 

 後ろの席に座る東雲。 

 北見「セクハラですか」

 北見の左右隣席に各々クッションを置く東雲。

 東雲「北見さんのバッグ高そうだから置き引きとかも困るでしょ」 

 チラシ束をめくる北見。 

 北見「やっぱり本当にする必要はないと思うんですけど、どうですか」 

 東雲「俺全部前貼りだったから分かんねぇ……最初、前貼りの貼り方分かんなくて本当に前だけ貼ったら肛門まで隠せって怒鳴られた」

 笑う東雲を見る北見。

 東雲「俺はしない」 

 北見「どうして」 

 東雲「みんな女優消しすぎ、消えちゃった」 

 正面を見る北見。 

 ●映画館ロビー

 無人のロビー。

劇場から漏れてくる笑い声と結婚行進曲の音。 

 ガラス張りの喫煙ルームに入っていく数名の観客。  
北見と東雲、ドリンク片手に喫煙ルーム内を見ながら話している。   

東雲「あの爺さん絶対LARKだろ」 

 北見「わかばじゃ駄目ですか」 

 東雲「小指の爪伸ばしてて?」 

 北見「わかばだと深爪なんですか」 

 東雲「じゃあ隣りの眼鏡のは」 

 北見「キャメル」

 東雲「アメスピだな」 

 東雲、喫煙ルームに入っていく。

 ●喫煙ルーム

 東雲「どうも」 

 男性客1「このあいだ阿佐ヶ谷でフィルム切れたって言ってたから心配してたよ」   

東雲「そうみたいですね……1本いただけますか?ちょうど切れちゃって」 

 男性客1、背広からLARKの箱を出し、東雲に1本渡す。がっかりする北見。 

 男性客2「あの子、246のとこにいる子だよね」

 東雲「妹の友達で」 

 男性客3「そそられるやつだ」

 東雲「そういうもんなんですか?」 

 男性客2「応援してます」 

 東雲「ありえませんって。俺、一回やらかして妹に殴られて前歯インプラントなんですよ」

 男性客2「妹が女王様ってやばいっすね」 

 東雲「いや、ただの暴力?これ、ありがとうございました」

 立ち去る東雲。北見、東雲にコートを預け喫煙室に入ってくる。 

 北見「すみません。どなたかアメスピかキャメルお持ちじゃないですか?」

 男性客2「アメスピなら」 

 東雲とアイコンタクトを取る北見。男性客2、ポケットからアメスピを出して北見に1本渡す。 

 男性客2「珍しいですよね、女性一人で。勇気とか要りませんか」 

 北見「私がここに居て勝手に恥ずかしがってるのってあなたなんじゃないですか」

 男性客2「ああ。そういう感じ?」 

 男性客2を平手打ちして立ち上がる北見。コートのシワを伸ばす東雲。

 北見「これが映画なら、煙草おでこに押し付けるところですからね」 

 喫煙ルームの扉を開ける東雲。 

 東雲「個室トイレ空いたので御好きにどうぞ」 

 北見のショルダーバッグのチェーンを引っ張って連れ出す東雲。

 東雲「よく言った、出るぞ」 

 ロビーに出てくる男性客2。

 男性客2「今からハメ撮り?」 

 東雲「俺は俳優だ!」 

 東雲を置いてドアを閉める北見。 

 ●階段

 足早に降りてくる北見。追う東雲。バッグのチェーンを掴む東雲。  
立ち止まる北見。 

 北見「死ねばいいのに!」

 東雲「……長生きしろよ」 

 俯いて歩き出す北見。泣いている。そのあとを距離を詰めずに歩く東雲。鉄階段の鳴る音が響く。  
階段を下る二人。 

 東雲「悪かった。迂闊だった、俺が言い出したゲームだ。謝らせてくれ、いいか」

 北見を立ち止まらせて、北見の正面に先回りして言う。

 北見「黙ってくれませんか」

 東雲「……なんか食う?」

 東雲を振り切り歩き出す北見。

 北見「奢られるの嫌いなんで」 

 東雲「誰も奢るとは言ってない!」 

 北見「私は今から鰻を食べに行きます」 

 東雲「マジかよ、ハルキスト?」

 北見「別に何も」 

 東雲「でも直子より圧倒的に緑だな。俺変わってんのかな?」

 無言を貫く北見。 

 東雲「俺、一回りくらい下だったらワタナベ君やりたかったわ。どう?」 

 北見「早稲田って感じはします」

 東雲「読んでんじゃん」 

 北見「無意識のやつで、剽窃です!」

 東雲「正解!」 

 北見「妻とか消えすぎ」 

 東雲「そうか?」

 ●渋谷・スクランブル交差点近くの鰻屋(夜) 

 フルーツパーラーに隣接した店舗。  
カウンター席で黙々と鰻重を食す北見と東雲。 

 着信音が鳴る。東雲、スマホ画面を確認し立ち上がる。 

 東雲「急用できた。これで払っといて」 

 1万円札をテーブルに置き、出ていく東雲。 

 東雲、ビルの階段を昇り2階のフルーツパーラーの入り口を通り過ぎる。

 鰻屋で会計を終えた北見、階段を昇りフルーツパーラーへ入っていく。入っていく北見を階段から見下ろす東雲。  
店員の案内で、テーブル席に通される北見。

 遠くから北見の様子を窺う東雲。 

 北見、涙を拭きながら怠惰にパフェを食べ進める。  
コーヒカップを下ろして、店員とアイコンタクトを取り、追加注文を入れる東雲。

 東雲「あそこの人と同じのをお願いします」

 別々の席で、同じパフェを食べ進める二人。東雲は北見を見るも、北見は、東雲に気づかない。

 ●歓楽街にある渋谷の映画館(夜) 

 看板に、日活ロマンポルノ特集第2週 神代辰巳 第二夜『恋人たちは濡れた』と銘打たれている。 

 ●歓楽街にある映画館・受付 

 受付業務をする東雲。  
やって来る北見。テーブルにお釣りを置いていく。 

 東雲「パフェ食ったろ」 

 無言で立ち去る北見。 

 東雲、北見のショルダーバッグのチェーンを引っ張り北見を引き止める。

 東雲「よかったら来て欲しい」

 東雲あいかの葬儀案内状の文面。

 ●青山霊園(昼) 

 喪服を着た北見と東雲が並んで歩いている。  
いくつもの区画を機械的に迂回を繰り返す北見と東雲。  
立ち止まり腕時計を外す東雲。 

 東雲「ロレックス、あいつの形見に持っててくれないか」 

 北見の左手首に、ロレックスをはめる東雲。  
歩き出す東雲と北見。

 東雲「今度、金に困って恋愛映画にでも出たら多分あいつと君のことを思い出すよ」 

 北見「他に売るものあるんですか?」 

 東雲「ああ、見つけた」 

 北見「そうですか。そうでしたか」 

 ●青山霊園・タクシー休憩所(昼) 

 タクシー車内。

ドライバーが、喪服の二人に気がつきカセットテープをセットする。  
車内に川越美和の歌唱による「涙くんさよなら」が流される。 

 北見が後部座席に乗って来る。  
走り出すタクシー。

進行方向を見る北見。北見の肩越しに、走ってくる東雲が見える。 

 「涙くんさよなら」

 ”涙くんさよなら さよなら涙くん また逢う日まで 君は僕の友達だ この世は悲しいことだらけ 君なしではとても行きていけそうもない だけど僕は恋をした”(以下省略)

 ●練馬区の遊園地で個人撮影会をする北見とありさ(回想) 

 8mmフィルムカメラを廻す北見。その様子をセルカ棒で撮り、はしゃぐあいか。  
遊園地の遊具に乗っているあいか。カメラを北見から奪うあいか。プールではしゃぐ北見とあいか。アイスクリームを分け合う北見とあいか、等。

 ●渋谷・サテライトスタジオ内(昼) 

 散乱したスタジオ内。部屋の隅に立ち尽くすラジオパーソナリティー。 

 ラジオパーソナリティ「みなさん、落ち着きましょう。こんな時のために、事前に東雲利彦さんからリクエストいただいております」

 廊下を走り逃げる東雲。

 ●渋谷・坂の途中にあるサテライトスタジオ前(昼)  
  

 走って遠ざかる北見。頰に手を当てるものの微動だにしないエイミ。 

 エイミ「司会!やばい、司会!」 

 タクシーを拾いに公園通りから渋谷駅へと向かうエイミ。

 ●渋谷駅タクシー乗り場(昼) 

 タクシーに乗り込むエイミ。 

 ラジオパーソナリティー「東雲さんからのリクエスト2曲目、Winkで『愛が止まらない〜Turn it into love〜』」

 タクシー車内にWinkの『愛が止まらない〜Turn it into love〜』が流れて来る。

 エイミ「とりあえず公園通りまで出てもらっていいですか?」

 走り出すタクシー。 

 エイミ「人探してて」 

 ●渋谷・スペイン坂(昼) 

 比較的優雅に階段を降りる北見。

 誰もいない階段を駆け下りていく東雲。

 ●渋谷・スペイン坂(夜・回想) 

 雨の中、東雲を追う北見(20)。

 ●渋谷・センター街(昼) 

 一切通行人にぶつかる事無く走って来る北見。

人並みをかき分けて追って来る東雲。

 ●渋谷・センター街(夜・回想)

 雨の中、東雲を追う北見。 

 ●渋谷・神南小学校前交差点(昼)

 肩で息をする東雲に、近寄る占い師の老女。 

 占い師の老女、北見が向かった方向を指差す。 

 エイミの乗るタクシーから占い師の老女が、東雲の耳元に寄って何か吹き込んでいる様子が見える。気がつかないエイミ。 

 ●神南小学校前(昼) 

 東雲の肩越しに、北見の後ろ姿が見える。  
安堵の表情を浮かべる東雲。

 東雲「北見さん」 

 軽く走って北見に近づいてく東雲。

 東雲、北見の手首からロレックスをスリ師のように奪い、地面に叩きつける。

 時計は、壊れて動かない。 

 東雲「こっちが本物だから」 

 手首から外したロレックスを北見の手に預ける東雲。  
北見、預けられたロレックスを地面に叩きつける。 

 一切ダメージを受けず、動き続ける時計。

時計を拾い手首にはめる北見。

 北見「私、北見じゃ無くて、北、美咲なんです」 

 東雲「俺は、そんなことも知らなかったのか」 

 北見「知れて良かったですか?」 

 東雲「良かった。良かったと思う」 

 タクシー車内のエイミ、北見と東雲を見つける。  
タクシーから出て来るエイミ。北見に駆け寄るエイミ。

 エイミ、壊れた時計を拾い集め、東雲を恐れながら、北見をタクシーまで連れていく。 

 タクシーに乗り込んでくるエイミと北見。 

 窓ガラスを叩く東雲。

走り出すタクシー。 

 東雲「青山霊園区画1−8ー14ー1、 エ!」 

 遠ざかるタクシー。タクシーの進行方向と逆方向に歩き出す東雲。

 ●青山霊園(昼) 

 蝉の音。雨に濡れる墓石群。ビニール傘を差し喪服姿の東雲が、歩いて来る。  
東雲家の墓前に佇む黒いワンピースを着た北見。

やって来る東雲。  
東雲、北見に傘を貸し、線香をあげる。 

 墓石を凝視する東雲と、目を伏せる北見。二人の手首にロレックスが光っている。

 ●エンドロール 

 舞台上で、Winkの「Sugar baby love」をリップシンクで踊る北見とあいか。(Fin)

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