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”代表的な作品を作りたかったんです” ーーニュースメディアから独立した音声プロデューサーが移住の先に見いだした<未来の働き方>

移住ブームといわれ、住む場所を自由に選ぶ人たちが増えています。彼らはなぜ移住を選んだのか。実際に「動いたひとたち」の言葉からヒントを探るポッドキャスト、戦略デザイナー・佐宗邦威氏の「TRANSITION RADIO ー移住によるライフシフトを考える20分」

この記事では、その内容を一部ピックアップし、編集してお届けします。
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▶▶全編をチェックしたい方はぜひこちらからお聴きください!
🔊 ゲスト:野村 高文さん(Podcast Studio Chronicle代表)

■パーソナリティ佐宗邦威さんより
この番組では、軽井沢にベースを移した戦略デザイナーの私、佐宗邦威が、二拠点居住、多拠点居住など住まいを変えたゲストの方と共に、移住をきっかけにどのようなライフスタイルのトランジションを迎えていったのかお伺いしながら、新しいライフスタイルを見つけるヒントを探っていきます。
通勤や子育て、家事の合間にゆったりとした気持ちでお聞きいただけると嬉しいです。

■今回のゲスト
ゲスト:野村 高文さん(Podcast Studio Chronicle代表)
音声プロデューサー・編集者。
PHP研究所、ボストン・コンサルティング・グループを経て、2015年にNewsPicksに入社。NewsPicksアカデミア マネージャー、編集部デスク、音声事業プロデューサーなどを歴任。2022年に独立し、Podcastレーベル「Chronicle(クロニクル)」を立ち上げる。手掛けたPodcastに「News Connect あなたと経済をつなぐ5分間」「みんなのメンタールーム」「The Reading List 未来に残るビジネス名著」など。

なぜNewsPicksから独立したのか

佐宗:野村さん、今日はよろしくお願いします。

野村:よろしくお願いします。

佐宗:実は私、普段の生活のなかでから野村さんの声をいつも聞いているんですよ。「News Connect あなたと経済をつなぐ5分間」など、野村さんがプロデュースするコンテンツはどれも興味深いコンテンツばかりですよね。今日は、ファンとしてお話をお伺いするような気分で来ました。

野村:どうもありがとうございます。いつも生活にお邪魔しております(笑)。

佐宗:野村さんは2022年にNewsPicksから独立し、ポッドキャストレーベルである「Chronicle(クロニクル)」を立ち上げられました。まずそのあたりのお話から聞きたいのですが…。
そもそも、今このタイミングでポッドキャストに焦点を当てたのには、どういう経緯があったんですか。

野村:私はもともと10年以上、編集者の仕事をしてきました。佐宗さんと出会ったのも、前職のNewsPicks時代ですよね。結局NewsPicksでは6年半くらい編集者として勤務しました。本業はずっとテキストの仕事です。取材して記事を描いたり、文章を寄せていただいたり。
そんななか、2019年頃から、音声コンテンツを立ち上げたんです。

佐宗:なるほど。

野村:主軸はあくまでテキストの仕事です。でもリソースの1〜2割を使って、社内副業的なポジションで立ち上げを行いました。
いろいろな番組を作って改めて思ったのは、「ポッドキャストって面白いな」ということ。
そもそも私自身がコンテンツを作るのが好きだというのもありますが、何より、ポッドキャストって、今の時代にすごく合っているなと。

「どの仕事も大体80点が取れる」という課題感

佐宗:時代に合っている?

野村:この時代のマーケットに合っていると思ったんです。実は以前から、私はテキスト編集者として忸怩たる思いがありました。今の世の中はスマートフォンの小さい画面に視覚情報があふれすぎていて、あらゆるアプリが「私を見て!」とアピールしている。ニュースアプリも、メッセージアプリも、動画アプリもこぞって人々のアテンションを取り合っている状態です。そのなかに視覚コンテンツをまた出すという仕事が、なんだかまるで、お腹いっぱいの人に対して美味しい料理を提供してるみたいな感覚に襲われるようになってきて…。
かといって自分としては、情報を扱う仕事を辞めたくはない。そのときに、ひとつ音声というのは可能性があるんじゃないかと思いました。

佐宗:なるほど、面白いですね。実は僕、Twitterで野村さんが音声コンテンツの仕事で独立されることを知ったとき、「いいコーナー攻めるな」と思ったんですよ。
じゃあ野村さんのなかでは、音声にフォーカスした事業で独立するのが、ある意味必然的な流れだった?

野村:思い切って音声に振ってみたという感じです。社内副業的に試した数年間の結果が好感触だったのは後押しになりましたが、それよりも、自分の時間をどんな仕事に使うのか、自分で決める意思を持ちたいという気持ちが大きかったかもしれません。
実は私は会社員時代、「どの仕事も大体80点が取れる」ということに定評がある人間だったんです。

佐宗:80点ですか。

野村:はい。まさにユーティリティプレーヤータイプです。NewsPicksの6年半でやった職種は、たぶん10種類以上。事業マネージャーをしたり、コミュニティづくりをしたり、イベント企画をしたり。お給料をいただいているうえで何かを要請されると、いろいろなことをやってしまうんですよね。
でも、自分の時間をどう使うのか、自分で決めてみようかなと。会社員の立場に大きな不満があったわけではないのですが、自分のなかの課題意識と向き合ったかたちです。

お金の不安とどう付き合う?

佐宗:ちょっと気になっていたんですが、野村さんが独立された当時って、ポッドキャストに課金の体系がまだありませんでしたよね。
独立の一報を耳にしたとき僕は、「キャッシュのところはどうするんだろうな」と疑問に思ったんですよ。野村さんご自身のなかでは、当時から、稼ぎ方のイメージはあったんですか。

野村:さすが、すごくクリティカルなご質問です。正直にいうと、少しだけありました。
実際今私は、企業が発信するいわゆるブランドポッドキャストをプロデュースしています。こういったもののニーズがあるだろうなと想定はしていたんです。ただ、どれだけ稼げるかの試算はできていなくて。少なくとも自分1人の食いぶちは稼げるだろうな…くらいの粒度で独立しましたね。

佐宗:では、独立ということ自体に目標があった?

野村:いや、起業志向があったわけではありません。ただ自分の動機のひとつに、”代表的な作品を作りたい”というのがあって。

佐宗:ほう、作品を。

野村:そう。著者じゃなくてもよくて、編集者としてベストセラーを作るとか、メディアを立ち上げるとか。自分の名刺代わりになる作品を作りたいという気持ちが強かったんですよ。

佐宗:怖さはなかったですか。

野村:まったくないと言ったらウソになりますね。安定収入もなくなるわけですし。でも最悪何年かやって失敗したら、また会社員に戻ればいいかなって。

茨城南部へ移住。「肌感」が変わった

佐宗:野村さんは、東京から茨城県の南部に移住されたんですよね。

野村:はい、2021年の1月に引っ越しました。

佐宗:移住しようと思ったきっかけは?

野村:本当に月並みな回答で恐縮なんですが、コロナです。東京にいると、通勤に時間がかかるとか、部屋がそんなに大きくないとか、保育園が少ないとか、そういった課題がある。移住すれば回避できるんじゃないかと思い至ったのがきっかけです。コロナを機に、家族もリモートワークができるようになったので、都内に1時間〜1時間半ぐらいで行ける場所に移ってみようかという話になりました。
実は移住先を決めるにあたって、佐宗さんが住んでいらっしゃる軽井沢も真剣に検討しましたよ。巡り合わせが違ったら、軽井沢に行っていたかもしれません。

佐宗:なるほど。茨城に住んでみて、生活はどんなふうに変わりましたか。僕は軽井沢に移住して、車生活になり、それこそポッドキャストをよく聞くようになりましたが。

野村:たしかに電車生活と車生活は、かなり違うなと感じます。電車が地理を点で捉える乗り物だとすれば、車は面で捉える乗り物。景色の見え方が変わりましたね。
あとは、ビジネスに対する捉え方も変わりました。東京でビジネスメディアを扱っていると、出てくる経済記事ってだいたいは、どこかのベンチャー企業がエクイティで何十億円調達しました、みたいな内容ですよね。あとは、GAFAがこんなビジネスをしています、とか。だから私は東京にいた頃、そういう情報こそが"経済のど真ん中"みたいな感覚でいました。ですが、むしろそれらは例外だと気づいたんです。

佐宗:例外。

野村:日本にはスモールビジネスがたくさん広がっていることに、ようやく気づいたんです。エクイティで調達なんていうのは本当に稀で、大体の場合は融資ですし。そのあたりの肌感が変わりました。

「無駄な時間」を楽しめる

佐宗:ちなみに野村さんは、東京には週どのぐらいの頻度で行かれてるんですか。

野村:平均して週2ぐらいですね。まったく行かない週はほとんどなくて、毎週何かしら予定があるという感じです。

佐宗:時間の使い方は、東京にいた頃と変わりましたか。

野村:うーん、東京にいる頃より、いろんなテンポが少しゆっくりになってる感覚があります。
東京にいる頃は、5分とか10分に結構シビアで。次の予定までに5分空いたら「メール1通返せるな」みたいな。当時は会社員だったこともありますが、SlackとかMessengerには未読メッセージが常時溜まっていたので、常に追われていました。
でもこっちに来てからは、ちょっとでも時間が空いたら、フラフラ散歩してみたり。

佐宗:同じような経験を僕もしています。ある意味、無駄な時間を楽しめるようになったというか。

野村:そう。たぶん場所を変えて、環境的にも情報量が少ないからこそ、モードが変わるんですよね。朝に散歩をすることも増えました。
散歩中に音声コンテンツを聞くことも多いですが、聞くのが目的ではなくて、普通に無目的に近所をフラフラできるようになりました。

移住して実は困ったことは…?

佐宗:今日必ずお聞きしたかったことがあって。東京から移住してみて逆に困ったこととか、大変なことはありますか。

野村:ありますね。100%ハッピー、メリットしかありませんなんて言うつもりはなく、失ったものもあると思っています。
たとえば、文化的な充実度はどうしても落ちますよね。私は展覧会が好きで、都内にいた頃にはよく美術館に行っていたんですよ。目的を決めて行くこともありましたが、今何やっているのかなとふらっと森美術館に入ることも多かった。今はそれが難しくなりましたね。
展覧会というのはひとつの例で、ほかにも街の最新の文化を知ったり、今東京でどんな新サービスが出ているかを知ったりするのも難しくなった。感度が落ちたのは否めません。誰かのツイートや記事をきっかけに、なんとかキャッチアップしていますが。

佐宗:いま聞いていて面白いなと思ったのは、編集者という仕事ってすごく感度を求められる仕事ですね。そのあたり、葛藤みたいなものはあるんですか。

野村:まさにおっしゃる通り、編集者という仕事は、世の中で一体何が起きてるかっていうのを相当敏感に捉えなきゃいけない仕事だと思っています。
だから葛藤がないと言ったらウソになりますよ。ただ自分のなかで、インプットのポートフォリオが変わってきた、というようなイメージなんです。

佐宗:インプットのポートフォリオ、ですか。

野村:移住前の私のポートフォリオは、東京で得られる最先端の情報がほぼ100%でしたが、その比率は今間違いなく落ちています。でもむしろ東京の外に広がる、あまりインターネット上に現れていない世界の話がインプットに入ってくるようになりました。
自分の作るものは変わりますが、これはこれで何か企画につながるのではないかと思っています。

佐宗:日本にいる、いろんな目線を持った人に言葉を発信できるという感じですかね。

野村:そうですね。日本って、都会と都会以外の場所が別個の存在としてあると思うんですよね。私は愛知県三河地方の田舎から出てきた人間だから、東京以外の場所の価値観を十分知っているつもりではいたんですが、10年以上東京で過ごすうちに他の世界に対する解像度が下がってきていたんです。そのことを、東京を離れて改めて感じました。

デジタル社会に現れないものを、どう発信していくか

佐宗:これから編集者として、もしくは音声プロデューサーとしてやってみたいことはありますか。

野村:具体的にネタに落とし込めていませんが、面白いかもと思っているのは、デジタルが中心になりつつある世界を見直すことです。デジタルになっているものって、たぶん世界のごく一部でしかない。Google検索で出てくる情報、YouTubeに上がっている情報、SNSで取り交わされる情報は、本当に一部。残念ながらニュースメディアもそうです。
これまでの自分のキャリアを否定するつもりはないですが、狭い視野で世界を認識しすぎていたな、と。

佐宗:先ほどの、ビジネスにおいては融資が圧倒的多数だという話にもつながるところですよね。

野村:まさにそうです。だからデジタルで現れないものを、どういうふうに発信していくかというのが、今考えているところです。

佐宗:楽しみにしています。今野村さんのポッドキャストだけで言うと、都市型のコンテンツが多いかなという感じはしますが。

野村:まさにご指摘の通り。10年以上都市型のコンテンツでやってきたからこそ、コンテンツにその感覚がまだ反映されていないんですよ。ただ、自分が生活者として見ている世界が変化してきているので、いずれ、比率として増えていくんじゃないかなと思っています。

(構成:安岡晴香

野村さんには、他にも海外移住へのビジョンなど、さまざまなトピックでお話を伺っています。ポッドキャストにて、ぜひ全編をお楽しみください。
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