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小説

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麻草郁の小説を発表する場です。
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2019年12月の記事一覧

パンプス、夢、爪。バイト先の忘年会に行きたくない。

パンプス、夢、爪。バイト先の忘年会に行きたくない。

【小説です】

 私の部屋は、狭い。ドアを開けると靴箱があり、キッチンがあり、向かいにユニットバスがあり、六畳一間に全てのものが詰め込まれている。エアコンが壊れたのが、だいたい半年前、夏の暑い最中、急にリモコンが効かなくなった。ヴィレバンで買った折り畳みの台に乗って、手動のスイッチを押すと温風が出てきたので、それからずっと放置している。

 昨夜は、足の親指の爪を切りすぎた。デパスとマイスリーを飲

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遠くから見れば喜劇

遠くから見れば喜劇

 【短編小説】

 埃じみた空気がゆっくりと対流している。やわらかい琥珀色の光のうねり。タバコの脂でうす汚れたカーテンが、西日をあわく遮っている。どうして人の殺されたあとの部屋ってのはこう、映画の一場面のように均一で味気ないんだ。鑑識がフラッシュを焚く、証拠物は逃げ出しやしないってのに、まるでクラブの前でたむろって興奮してるパパラッチみたいだ。
 ポリエチレンの袋に入った凶器がおれの視界に入ってき

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フリンジ、マニピュレータ

フリンジ、マニピュレータ

「苦い、は知ってる、外殻を修繕したときに出るイオンガスがスーツの素材に反応して酸素が苦くなるんだ」
 ぼくはスーツのフリンジに光点字で返事を表示する。地球産のフレームに小惑星から採ったミネラルをまとわせた一点もの、脳を中枢とした後方に肢を伸ばす人間タイプの形態を模している、白くて流線型の体が自慢の愛機だ。
 同じ航路を飛んでいた彼の機体はボロボロで、ところどころにツギハギがある。マニピュレータの長

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