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ぬくもり

映画『釜石ラーメン物語』(今関あきよし監督作品)は、釜石でラーメン屋を営んでいた母が東日本大震災の津波で行方不明になり、音信不通になっていた娘(主演の井桁弘恵さん)が故郷に帰ってくるところから始まります。釜石ラーメンは、労働者が早く食べられるようにという配慮から細麺でできた醤油味に特徴があります。病気で倒れた父の代わりに、最高のラーメンを作るために奮闘する姉妹の物語です。

有名なラーメン映画といえば『たんぽぽ』(伊丹十三監督作品)は、売れないラーメン屋を立て直す物語。『ラーメンガール』(ロバート・アラン・アッカーマン監督作品)は、アメリカ人の女性が日本でラーメンの修行をするというストーリーでしたので、ラーメンの奥深さというよりも、生きる希望や情熱を燃やす人々を描く映画なのだと感じました。

この『釜石ラーメン物語』を見て思い出した事がありました。

東日本大震災から数ヶ月後、いつまでも壊滅的な状況に居ても立ってもいられず、東北行きのボランティアバスに乗り込み、泥だらけの民家を片付けるボランティアに行ったことです。床の上まで泥だらけの家の畳を剥し、床を丁寧に水で洗い流しました。ひんぱんに起こる余震に怯えながら、炎天下での作業を続けました。少しづつきれいになる自分の家を見ていた家の持ち主のおばあさんの顔が、少し明るくなったような気がしたのが心の支えになりました。

ですが、ほとんどの家は泥だらけのままで、やってもやっても終わりそうにない絶望感と疲労感が襲っていました。そんな時に気持ちを癒してくれるラーメン屋でもあれば良いのですが、あるのは東京から持ってきた冷えた弁当だけでした。夜になると、宿舎で常連のボランティアが酒盛りをはじめていました。そんな気分にはなれないので、布団をかぶって彼らの声をシャットダウンしました。


自分自身は東京に戻れば何不自由のない日常が待っているのですが、被災地では、レストランひとつない泥だらけの街での生活が続いていくのです。おばあさんは本当に救われたのか、正義を振りかざして災害地に乗り込んでおきながら、心の負債を空っぽの正義感で埋めようとしたのではないか、という思いにさいなまれました。


それでも、天災に人生を揺さぶられた人々は、何かに希望を見出して生きていくしかありません。何かを乗り越えようとする人々の姿を映画で見る事で、そんな人々と自分と重ねて、自分も頑張ろうと思うのです。人々の心の中を温めるぬくもりが、今日を歩き始めようとする力になるのです。


先日ハリウッドで行われたJapan Film Festival Los Angeles にて『釜石ラーメン物語』にNu-Ku-Mo-Ri Award (ぬくもり賞)が贈られました。「麺は細いが絆は太い。湯気の向こうに笑顔咲く。」と付けられた副タイトルに、ぴったりな名前の受賞に、とても嬉しい気持ちになりました。

授賞のコメントをする今関監督と、大島葉子さん等出演の俳優人


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