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小説家としての半生と反省④長編小説のアイデアを出す秘策編

この記事を読んだら、誰でも長編小説を書くアイデアが出てくる! とまで言うと誇大広告なので、ヒントにはなると思って(でも、ちょっと騙されたと思って)読んでみてください。できれば、前段の②③あたりの記事も読んでいただけると、より理解が深まると思います。

さて、小説家の村山由佳さんが、渡辺淳一さんに言われたというこの言葉。
「特殊を描いて普遍に至るのが文学だよ」

では、まず「特殊」とは何なんでしょう……?
適当に奇抜なことを設定をしても、それを一冊の長編小説に仕上げるのは至難の業です。そこで、私はこう考えました。

「特殊」は文化や時代によって、変わるものだ。
ということは、ある文化では「ふつう」とされていることでも、異邦人にとってみたら、とんでもなく「特殊」に見える可能性があるということです。比較的、相対的な言葉のようです。

たとえば、私のデビュー作は、アメリカから転校してきた野球のプレーヤー(高校生)が、日本の硬式野球部に入って戸惑う、という話。
アメリカ人にとってみたら、坊主頭で、声出しを強いて、バントなどの犠牲的な戦術を重視し、上下関係が厳しい日本の野球部はめちゃくちゃ「特殊」に見えることでしょう。
ある人からしたら「ふつう」と思いこんでいる風習でも、別の人から見たら「特殊」に見える――その落差と衝突が物語を生みます。

私の小説の一貫したテーマは異文化コミュニケーションです。そこで、2作目をどう書いたかというお話。

まずテーマを、高校野球の合同チームに設定しました。
高校野球では、人数が9人に満たない野球部が、二校、ないしは複数校集まって、合同チームを組むことが認められています。公式戦にも出場可能なのです。


たとえ外国人を登場させなくても、同じ日本で暮らす同年代のあいだでも異文化コミュニケーションの設定は可能です。どうせ合同チームをつくるのなら、正反対の価値観(文化)をぶつけてしまえばいいんだと気づき、同じ都立高同士でも、ヤンキー商業高校と超エリート進学校を登場させました。
片方から見た「ふつう」は、もう片方から見たら、とんでもない「特殊」になります。

こうすれば、部員同士のケンカというありきたりの展開も、ありきたりではなくなります。ヤンキーは暴力暴言や気合い、根性で訴える、エリート校の部員は理屈とデータに訴える。同じ日本人の同年代なのに、そもそも「言語」が通じないのです(どちらが優れているかという問題ではないです、ある場面では気合いや根性、体力や筋力が重要だし、ある局面では理屈やデータが重要になってくることもあるでしょう)。

結果、コントラストとテンポが生まれる。どうせなら、もっと極端にしてしまおうと思い、部員が8人のヤンキー高校と、部員が1人のエリート校という設定も生まれました。
もうこうなると、するすると物語は進んでいきます。
「なんで1人になってまで野球をつづけているんだろう……」という謎がおのずと生まれます。そして、最初はお互いがお互いのことを「特殊」「わかり合えない」と思っていたものが、同じグラウンドで同じ競技にたずさわっていくうちに「普遍」に至る

「普遍」は「ふつう」とは違います。「ふつう」は上記の通り、相対的なもので、人の価値観、見方、時代によって変わるものです。
でも、「普遍」は(たぶん)時代を経ても、文化が違っても、変わらないものです。じゃあ、小説で書くべき「普遍」って何でしょう?

小説って、あんまり地の文で「うれしい」「悲しい」「美しい」「好き」「愛してる」「平和を愛する」「人を殺しちゃダメよ!」「頑張れ!」って直接的に書かないものです。あけすけに言ってしまえば、人を人たらしめる普遍的な感情にどのようにして至るか、ということなんだと思います。

正反対の価値観同士の異文化コミュニケーション――。このテクニックは、今でも重宝して使っています。スポーツ小説だけにかぎりません。むしろ、恋愛小説でこそ、効力を発揮する気がします。

私の次回作は、潔癖症でミニマリストで、神経質に部屋を片付けなければ気が済まない男子と、ずぼらで汚部屋に住んでいる女子の恋物語です。

よくテレビのトーク番組でやってますよね。神経質vsずぼらって。
人類の永遠のテーマのような気がします。正反対の二人は、どのようにひかれあって、どのように「普遍」に至るのか、二人にとっての「普遍」とは何なのか?

宣伝みたいになってしまって、すみませんが、興味があったら読んでみてくださいね!

そして、偉そうに語っていますが、みんな当たり前に使っている創作方法だと思います。たとえば、「昭和」vs「令和」の価値観の戦いなら、今期放送中のドラマ「不適切にもほどがある!」になるわけです。

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