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ハウスメイトはアフガン人④-遠い国がぐっと身近に

アフガニスタンという国。今まではニュースを通じてでしか、存在を感じることがなかった。そのニュースも、内戦や難民など暗い話ばかりだった。

アフガン人の友人たちと一軒家をシェアして住むことで、今まで意識していなかったことが見えるようになった。

私の友人であるBeheshta、Sadaf、Zuhal。Syracuseには彼女たち以外にも、大学で学んだり、地域で働いたりしているアフガン人が大勢いる。
彼らは、母国に帰ることができない。2021年に武装組織タリバンが政権を掌握したからだ。BeheshtaたちがSyracuseで学んでいたまさにその時、母国の状況が一変した。タリバンは、女性・女子の教育や就労の機会を制限し、彼女らの人権を抑圧している。

BeheshtaもSadafも、卒業してしまえばその時点でビザが切れてしまう。就職先を見つけることができなければ、アメリカに居続けることはできない。しかし、帰るところもないのだ(実際にはあるけれど、帰れる状況ではない)。

母国にいた時も法律の専門家として働いていたBeheshta。知的で優しく、本来なら母国の発展のために様々な面で貢献できるはず。だが、帰れない。Syracuseでは、たとえ希望の職種でなかったとしても、無給でも、ビザのために働いていた。

Beheshtaは、感情をあらわにすることは少ない。いつも明るく、時々おどけたることはあっても、帰れないつらさや母国の政情などへの意見も口にすることはない。

でもある時、お互いの将来について話していると、今までこらえていたものを吐き出すように彼女が言った。

「なんでアメリカは私たちを助けてくれないの?アフガニスタンに来て、勝手に去って行って、今はアメリカにいる私たちのビザが切れそうだというのに何もしてくれない。アフガニスタンをあんな状態にしたのはどうして?」

仕事が見つからず、ビザがきれてしまう…と戦々恐々とする気持ちはわかる。でもその先、切れたとしても自分には帰るところがない、というとてつもない恐怖。まさに崖っぷちに立ち、谷底をのぞき込んでいるような気持ちではないだろうか。アメリカで仕事が見つからずとも、日本という帰れる場所がある私には、想像がとても追いつかない。

今はNYCで働くSadafも弁護士だ。きれいでおしゃれが大好きな彼女の理想は、アマル・クルーニーだ。レバノン出身の著名な人権派弁護士で、夫はジョージ・クルーニーだ。

私がふざけて「そうね、ジョージ・クルーニーみたいな夫を見つけたら教えてね」と言ったら、「ちがうよ!私は彼女みたいな仕事がしたいの」と強い口調で言われた。(ふざけてごめんなさい)

そのSadafとおしゃべりしていた時、彼女が叫ぶように言った。

「母国に帰れない気持ちがわかる?私の大好きな両親に、弟に、いつ会えるかわからないんだよ!次にいつ顔を見て話すことができるか、全くわからないんだよ…」

BeheshtaもSadafも、ほぼ毎日のようにスマートフォンのビデオ通話で両親らと会話している。でも、顔と顔を合わせ、抱きしめ合うのとは全く違う。いつ会えるか、次があるのかもわからないなんて、私には耐えられるだろうか。

でもそんな状況を憂いているだけではない。BeheshtaはSyracuseで、アフガンの女の子向けのオンライン教育プログラムを立ち上げた。

女性、子供、移民など常に弱い立場を気にかけ、彼らのために何ができるかを考えて行動しているBeheshta。どこにいようと、自分ができることに邁進するBeheshta。


BeheshtaとSadafと一緒に、Syracuse随一のおしゃれレストランでランチ

時々、日本のテレビでアフガニスタンの景色が放映されると、すかさずスマホで録画してBeheshtaたちに送る。
するとすぐに返事が返ってくる。

「わああ、懐かしい景色。いつもアフガニスタンのことを気にかけてくれてありがとう!」

どんな時でも相手への気遣いと、今自分ができることへの貢献を惜しまない。
彼女たちと知り合い、アフガニスタンは私にとって、いつも気になる国・行ってみたい国の1つとなった。彼の地でも私たちと同じように、学んだり遊んだり、悩んだり喜んだりしてる人たちがいる、ということがぐっと身近に感じられるようになった。

Beheshta,Sadaf,Zuhalたち、そして他のアフガン人も安全に安心して帰国し、家族たちに会える状況が一刻も早く実現するよう心から願う。

短期間とはいえ、彼女たちと一緒に生活した経験は何物にも代えがたい宝物だ(陳腐な言葉だけど、これ以外見つけられない)。

今回は、留学ではこんな経験もできるよというのが伝わればと思い、このエピソードを取り上げました。


 


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