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メメント・モリ〜生命保険の勧誘を受けて死生観をもって仕事をしたいと思った件

昨年、弁護士業を再開したときに、事務所用の電話を開設しました。
クライアントとのやりとりはほとんどメールなので、電話をかけてくるのは8割以上が営業の方。ウェブマーケティング、広告、そして保険の営業が多かったです。

私は、営業職の方たちがどのように仕事をしているのか興味があるため、営業のアポイントメントはよほど忙しいとき以外は基本的には断りません。

そして、営業トークを聞きながら「なるほどなぁ」と勉強しています。(人間観察が趣味というのもあります)

そのなかで生命保険・傷病保険のご案内を受けることも何度かありました。

そんな直截な言い方はしませんが、
要するに「あなたが死んだら、いくら遺さないと家族が困りますか?」、「病気になって働けなくなったときのためにいくら蓄えていますか?いくら不足しますか?」ということをヒアリングして、保険のプランを提案するのが彼らのお仕事です。

正直、「なんで今日はじめて会ったあなたにそんなこと言わなきゃいけないわけ?」と抵抗感を感じたことも。

自分や家族の病気や予期せぬ死は、精神的なショックはもとより、経済的にも生活の打撃となることは確かです。

私も、自分の入院や家族の病気や死に際して、保険金を受給した経験がありますし、「こういうときのために保険ってあるのだなぁ。助かった」と思ったこともあります。

だけれども、保険の営業の方に「将来の備えが大切です」みたいなことを言われても、なかなか素直に「はいそうですか」とならない。

なぜだろうか。考えてみました。

私の場合は、夫を病気で亡くしているという経験があり、そのときの保険金の授受についても色々な経緯があったため、営業の方が言う「もしも」「万が一」について、「もうすでにコトは起きてしまったのだ」という思いがあります。

なので、そのことを抜きにして、「もしも」とか「万が一」と言われても、「もう実際に起きてるし!そのとき私がどんな気持ちだったか、あなたにはわからないでしょうね」と拗ねるような気持ちが湧いてくるのです。

書いていて気づきましたが、大きなトラブルがあったわけではなくても、私なりに誰にも言えなかったしんどい思いがあって、そのことが痛みとしてまだ残っているのかもしれないです。

かといって、初対面の保険の営業の方に、自分のプライバシーや人生遍歴を語りたいわけでもなく。結局、この話題については、私の側に痛みやもやもやする違和感のタネがあるということなのです。

人の死や病気をテーマにした保険商品を販売するというのは、いやおうなしに相手の死生観に触れることなのだなぁと、きっと色々なお客さんの反応があるだろうなぁと、自分が営業を受ける側になって改めて実感しました。(トップセールスの方たちは、そういうこともたくさん勉強し、経験を積むんだろうな)

で、私は保険の営業の仕事をする予定はないので、ひるがえって自分の仕事について考えるわけです。

相続分野の案件が、まさにこのテーマを扱います。

自分の死後、どのように財産を継承したいか。

その意思を文書として残しておくのが<遺言>です。

遺言の難しさは、それが実行される(=自分が死を迎える)のがいつになるのかわからないという点に尽きます。

かといって、死期が現実的に迫ってきてから準備するのでは、間に合わないことも多いです。(闘病中で余命宣告をされた場合など、体力的、精神的に遺言のことまでエネルギーが及ばない)

「終活」などと言って、元気なうちに老後や死後のことを考えておこうという動きもあり、私もそれには賛成なのですが、やはり<死生観>を抜きに語れないと思うのです。

その方にとって、死を想う(メメント・モリ)とは、どのようなことなのか。もっとも根源的な信条のひとつだと思います。

遺言・相続の分野は、法律的、税務的にも細かいテクニカルな知識と経験が必要な分野ですが、その前に私自身がどのような心構えと死生観をもってクライアントの人生に関わっていくのか、改めて考えてみようと思います。

生前にすべてきちんと整理して、遺された人になるべく負担をかけないように。住まいやモノの整理、遺言、葬儀の手配からお墓の準備まで。きっちり済ませて旅立っていく方もいます。

他方で、お金もモノも人とのやりとりも、わけのわからないカオスのまま全部やりっぱなしで突然亡くなってしまい、遺された家族がさんざん苦労するケース。

亡くなってから隠し資産や隠し子(!)が発覚したり、あると思っていたのに全然財産がなかったり、死後にまわりをびっくり仰天させる方も。

どれも、その人らしい生き方だと思うのです。

「さすがの死に様を見せてくれた。あっぱれ!」と思ったり、
「もう本当に、困った人だなぁ」と思うと同時に、「でもやっぱりあの人らしい」と懐かしく感じたり。

なので、「のこされた家族のために遺言を書いておきましょう」とみなさんにオススメするつもりもありません。

死んだ後のことなど知らないぜ!
というワイルドな(?)生き方だってOK

ただ、時の流れがどんどん加速しているように感じるいまの時代。

あえて時間をとって、それぞれの<メメント・モリ>を省みる機会があってもよいのかなと。

今年の抱負のひとつに、
<それぞれの死生観に基づいて遺言や相続について考える>
というワークショップを開催することを挙げておきます。

そんなきっかけを与えてくれた保険の営業の方にも感謝ですね。

(了)

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