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愛想笑い

どうして 楽しめないの?
どうして 無邪気な笑顔を見せないの?

きちんとご挨拶ができて偉いねって
大人に対しても臆せず 上品な娘ねって

褒められながらも
まるで子供らしいあどけなさを
封じているかのような
少し陰のある 不思議な少女

ピアノも上手で、教養もあるのねって
聴いた通りに弾けるなんて、耳がいいのねって

周囲の期待がどの程度なのか
本能的に 知っていた

それを少しだけ超えることで
皆が喜んでくれると
本能的に 心得ていた

いつから私は
愛想笑いができなくなったのだろう

物心ついた頃 少女時代には既に
それよりもずっと価値があることが存在すると
確信していた

愛想笑いなんて
一時的なサービスにすぎない
その記憶なんて
すぐに人々の脳裏から消えてしまう

そう 其れは
世の中に溢れる「偽物(ニセモノ)」と
同じ運命を辿るのだ

どんな場面でも一目置かれることが
全てではないことは 十分理解していた
目立たないことも 戦略の内だ

それでも

時宜を得、TPOをわきまえること
印象に残る女性(ヒト)であること

それが如何に価値のあることであるかを
少女は知っていた

愛想笑いは
自身の価値を下げるもの

幼い彼女は 冷酷なほどに
意味のない笑顔を 軽蔑していた

いつの日か
心から笑顔になれる日々が
私にも訪れるのだろうか?

その小さな手は
未来なんて 到底掴むことができなかった

ただ期待どおりに
あるいは 期待を少しだけ超える程度に
鍵盤に指を滑らせることしか できなかった

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