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減点方式【ショートショート】

私は人を減点方式してしまう。生まれてから50年来それは変わっていない。
減点方式なんて言うと、人を評価していく嫌な奴と思われそうだが、誰だって人に対して評価くらい下しているだろう。そうやって考えると私なんて、出会いは100点で始まるのだから、良いほうじゃないだろうか。
そう、私のプライベートで付き合いのある人は、100点から始まった精鋭揃いなのだ。

職場などやむを得ず付き合う人はそうでもないが、友人、恋人などは、100点の人を選んできた。選ぶというよりは信奉に近い。と言っても、私は人好きで、人の良いところを探すのが得意なので、100点のハードルがとても低いのだ。

妻ももちろん100点満点、いいや、それ以上の女性だった。
かわいらしく、よく気がついて、仕事もできる素晴らしい人であった。‥家事は‥どうだったかな。まあいい。
しかしながら今の彼女のていたらくはどうだろう。結婚してまもなく専業主婦になったというのに、結婚から20年が経とうと言うのに料理はいっこうにできない。子供達の手が離れたから宅食でも取ろうかという有様である。子供達の幼い頃は、私は手作りを望んだが、彼女は便利だからと市販のベビーフードを食べさせていた。専業主婦なのだから時間はたくさんあるだろうに。掃除も大雑把なものである。丸く掃くから隅のゴミは忘れ去られたままである。せっかく大きな家を買ったというのに台無しである。洗濯物も子供の小さい頃は私が帰宅してから入れることもあった。今などハンガーに吊り下げたまま収納をしている。
とまあ細かい減点がたくさんあり、おかげで今の彼女はマイナス五万点である。
私はそこまで書いて、減点ノート兼日記帳を閉じた。

それを私は半開きのドアの影から見ていた。最初にあのノートを見たときは憤ったが、今となってはなんとも思わない。
最初、主人は、厳重に鍵をかけた引き出しにそれをしまっており、家族が寝静まった後にしかそのノートは開かなかったが、今では書斎であれば割と堂々と開いている。ドアが半開きですら気にしないのである。バカにしているとしか思えない。

ある日私は主人の書斎の机に「私の書いた減点ノート」を置いた。主人の行動と減点要因、減点数が、本当に仔細に書いてある。3年分で3冊のノートになった。
そしてその上に手紙を添えた。
明日の晩帰宅してから、彼はこれに気づくだろう。

翌日、いつも通りに夕食を出し、その後入浴を促し、彼が入浴している間はいつも通り洗い物をしていた。
違ったのは私の荷造りしてあっただけ。でも、私に興味のない彼は変化に気づきもしない。私がパートを始めたことも気づいてすらいない。
洗い物を終え、テレビを消して、静かに私は出ていく。
あとは手紙を読んでもらえばいい。
ちなみに私が付けた主人の点数はマイナス五億点である。


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