店内キッチンあります【ショートショート】

お、ここもいよいよか。
会社からの帰宅時に見ると、近所のコンビニにも「店内キッチンあります」ののぼりが立っていた。

ここ最近、コンビニの利用者の層が変わり、お惣菜などご飯になるものを求める人が増えている。そのせいか店内調理が人気なのか、セントラルキッチン調理でなく「店内キッチン」のある店がどうも好まれているらしい。

我が家の最寄りのコンビニは、昨年できたばかりだ。できた当初、コーヒーの無料券をもらい、飲みに行った。けれど、元々それほどコンビニを利用する生活をしていないせいか、月一回くらいの利用になっていただろうか。

たまには妻に楽してもらうか。明日の晩御飯はコンビニ料理にしてみようか。なんて、自分がコンビニ料理をつまみに飲みたいだけである。

帰宅して話すと、妻も息子も私の提案に目を輝かせている。お父さん、たまには気が利くじゃーん、って、おいおいたまにかよ。

翌日は土曜で、家族三人とも仕事も学校も休みだった。夕暮れ時、家族三人連れ立ってコンビニまで歩いていく。三人で普段散歩なんかしないから新鮮だ。夕涼みにちょうどいい。

いい気分で、ちょっと居酒屋へでも入るような気分でコンビニのドアを開ける。

店内キッチン製のお惣菜は‥‥あれ?おかしいな、見つからない。パウチに入ったお惣菜、セントラルキッチン製のサラダ、ホットスナックなど充実している。しかし肝心の、今日求めてきた店内キッチンで作ったものは見当たらない?どうしてだ。

お店の人に聞いてみる。
「あのう、外に店内キッチンありますというのぼりが立っていますよね」
「ああ、ありがとうございます。あちらにありますが何時間ご利用でしょうか」
「え?何時間?」
驚きながら私は店長らしき男性の指差したほうを見やると‥‥そこにほ、真新しいキッチンがあった。シンクにコンロも3口ついている。
よくよく見るとレジの下に「キッチン利用料金表」というのがあった。30分500円となっている。

ようやくわかった。あののぼりは、店内キッチンで調理したお惣菜を売っていますよ、ということではなく、店内にレンタルできるキッチンがありますよ、ということだったのだ。

これは‥そんなに利用客はあるのだろうか。基本いないのではないか?百歩譲ってキャンプ客‥いやいやこの辺りにはテントを張れる場所もない。更にもう百歩譲って、家のガスを止められた学生くらいではないだろうか。

私は一瞬言葉に詰まったが
「わかりました、また後日改めて伺います」
と言い置いてコンビニを去った。

結局その日の夕飯は、近所の居酒屋へ行くことにした。たまの贅沢もいいだろう。息子も楽しそうにしていた。これからは月一回くらいこんな日があってもいいなあと思った。



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