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アマゾン「ショートショート」

「あらぁやだあ、血圧計壊れちゃった」
母が朝から騒いでいる。
「お母さん、電池替えた?」
「替えたわよお。もう、今日電気屋さんいかなきゃ」
「あ、お母さん、電気屋さんよりアマゾンのが安いかもよ。見てみたら?」
「へ?アマ‥‥ゾン?」
「うん、わ、もうこんな時間!いってきまーす」

「アマゾン‥ね」
母はつぶやくとチラシをおいた。

夕方帰宅すると、家は真っ暗だった。
母のケータイに電話をする。
「お母さん、今どこにいるの?夕飯はー?」
「ごめんね、ゆうちゃん、今から飛行機の乗り換えで急いでるの。着いたらまた連絡するから」
電話はぷつっと切れた。
「飛行機‥‥?乗り換え‥‥?」

「ただいまー」
父が帰ってくる。
「お父さん、お母さん飛行機だって言ってたけど、なんか聞いてる?」
「飛行機?いや、聞いとらん」
仕方なく出前を取って、とりあえず無事はわかったので、母の連絡を待った。

数時間後母から電話があった。
「ちょっと、ゆうちゃん、どこにもカワダ電気ないじゃないのー、アマゾン店が安いって言ってたけど」
「え?ちょっとまってお母さん、いまどこにいるの?」
「だからアマゾンよアマゾン。意外と寒いのねえ。いつも蒸し暑いのかと思って、お母さん薄着できちゃったわ」
「お母さん‥」
私は絶句した。

「け、血圧計、私が買っとくから、‥帰っておいで‥」
「えー、だって、アマゾン店が安いんでしょ」
「いいから!帰っておいで」
「わかったわ。しょうがないわね。カワダ電気も見つからないし」

「お母さん、どこなんだ?」
「アマゾン」
「は?」
「だからアマゾンだってば」
父はなんとなく察したらしい。

「ただいまー。アマゾン行くのにけっこお金かかっちゃったわー‥あら、血圧計、もう買ってくれたの?」
母が帰ってきてアマゾンから来た箱を目にする。
「お母さん、アマゾンてインターネットだからね」
「は?インターネット?だってゆうちゃん一言もそんなこと言わなかったじゃない。お母さんわざわざアマゾンまで行っちゃったわよー。ちゃんと教えてくれないとわかんないじゃないの」
「そうだね‥」
もう言い返すのにもげんなりして私は口をつぐんだ。

今どきアマゾン知らない人がいるなんてー。
それにしても、母の安さへの執念に驚いた事件だった。


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