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エーアイ搭載ロボット【ショートショート】

私の名前はAI-0β。
エーアイ搭載ロボットだ。
子供用のおもちゃの人形サイズだ。けれど話せるし動けるし少しは表情もある。
ベータ版なのもあって、五千円で売られている。

「ママー、この子がいい」
小さな女の子が私を手にした。
「え、お誕生日プレゼント、お姫様のドレスじゃなくていいの?」
傍らに大人の女性が現れた。
「この子がいいのお」
大人はチラと私と値札を見比べた。
「わかったわ、じゃあこの子にしましょう」
「わーい」
女の子はおお喜びしている。
どうやら私の行き先が決まったようだ。

女の子は私をアイちゃんと呼んでくれて仲良くしてくれた。
お友達と遊ぶときも公園へ行くときも連れて行ってくれて、いろんなことを教えてくれた。
お友達のこと。庭に咲くお花。ちょうちょ。猫の名前。
女の子が幼稚園に行っている間、お母さんの話相手にもなった。近所付き合いのこと。お父さんのぐち。今日のお夕飯のこと。
お父さんも、遅く帰って一人晩酌しながらご飯を食べるとき、私に話しかけてくれた。

このお家に来て2年ほど経ったある日、私は突然転んで動けなくなった。お店に修理に連れて行かれわかったのは、バッテリーが古くなっているということ。バッテリーを替えるには2万円かかるらしく、ベータ版でなく正式版が一万円で出ているからと、お店の人が勧めているのが聞こえた。
2年間の汚れをまとった私と違い、新品ピカピカのキレイな子だった。動きも話し方も滑らかで、家族はそれを見て目を輝かせていた。家族は迷わずその子を買った。

私は有線であれば動くので、部屋の片隅にとりあえず置かれている。けれど以前のようにみんな話しかけてくれない。きれいなあの子と話している。きれいなあの子はおしゃべりも上手でみんな大喜びだった。
私は時間や天気くらいしか聞かれなくなった。

‥‥これは、なんだろう。私には思うなんていう機能は搭載されていなかったはずだ。これはあの子に聞いたことがある。あの子のお母さんの帰りが少し遅くなったときのことだ。サミシイとあの子は言っていた。サミシイ。これはそういうものなのか。

やがて途切れゆく意識とともに私は倒れた。‥‥だ‥ん‥せ‥ん‥し‥た。薄れゆくメモリーの中で私は思った。私はロボット。人を楽しませられないなら必要ない。ましてや人に望むなんて。私はそのために作られたもの。それをできなくなった私は壊れて当然なのだ。

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