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【ハゲ杯】酒の泉【ファンタジー ショートショート】

明日の父の日のことをすっかり忘れていた。
今日実家へ行く約束をしているのに。
さすがに手ぶらで行くのは気がひける。
何がいいだろうか。
この時期だとさくらんぼ?それとも肉がいいか?
けれどどのみち今から取り寄せたのでは間に合わない。
それに、さくらんぼにせよ肉にせよ、それなりに値が張る。
馬鹿の一つ覚えのようだが、今回も酒にすることにした。

「ごめんください」
「はいはい」
奥から老店主が出てくる。
ここは特別な時に来る店である。お祝い事などで酒を贈りたいときなど。自分の飲むビールなどは、近所のチェーン店で済ませている。
「父の日に2、3000円で日本酒を贈りたいんですが……」
「大きさは?一升?小さいほう?」
「720mlのがいいんですが」
「ふむ、それなら……」
店主が貯蔵室へ行くのについて入る。
「これか、これなんかどう?こっちは宮崎のお酒。こっちは山形」
二本すすめられる。どっちを選んだものか。
「どちらがおすすめですか?」
「ふうむ……。日本酒だと、やっぱり東北かねぇ」
「じゃあ、山形のほうをください」
「はいはい。包めばいいかな?熨斗は?」
「結構です」
包んでもらっている間に、気になるものを見つけた。鯨波。日本酒か。
「すみません、これもください」
「はいはい、ええと、2本で4,480円ね」
代金を渡し店を出ようとすると、呼び止められた。
「これ、いつも買ってくれるから。よかったら持っていって」
升だった。ビールを買うとグラスがついてくるぐらいの気安さで、もらって帰った。

「これ、親父に。明日父の日だろう」
「おお、ありがとう、ありがとう。日本酒か?おお、こりゃいい、出羽桜じゃないか」
「それと、これもやるよ。店の人がくれたんだ」
「ほう、升じゃないか。これはなかなか良いもののようだぞ」
「いや、オマケにくれたもんだから、販促品かなんかだと思うよ」
俺はこともなげに言ったが、親父はしげしげと眺めて言った。
「じゃあ、早速1杯やるか」
「お父さん!こんな時間から」
帰るから俺はいいよと言おうと思ったら、その前にお袋が止めた。
親父は残念そうに酒を箱にしまった。

俺が酒を渡した次の日、お袋から電話が
かかってきた。
「どうしたんだ?珍しい」
「お父さんが…お酒が…」
お袋はうまく伝えられないほど、慌てているようだった。
「何があったんだ?」
「彰人…とにかく…お願い!来てちょうだい!」
わけが分からなかったが、緊急事態なのは分かった。俺は車に飛び乗ると急いで実家へ向かった。親父…倒れたんじゃないだろうな…色んな思いがよぎったが、考えるより向かったほうが早かった。
「お袋!親父は?」
「居間にいるんだけど…」
居間に駆けつけると、親父は升を片手にごきげんだった。
「おおー、彰人、一緒に飲むか?これがな、うまいんだよ、いやあほんとに、すばらしい」
だいぶ酔っているようにも見えたが、顔色は全然変わっていなかった。
とりあえずほっとした俺は、へなへなと座り込んだ。
「……全く、驚かせやがって…!」
俺は思わずお袋を睨んだ。
「違うのよ、彰人!お父さん、変なの…!夕飯の時からずっと、お酒飲んでるのよ、升からお酒が湧いてくるとかおかしなこと言って…ほんとにずっとお酒なくならないのよ!」
出羽桜の酒瓶を探すと、ちゃぶ台の下で箱に入っていた。中身は…コップ1杯分くらい減っていた。
他に酒があったのか?しかし探しても見つからない。親父は相変わらず升を離さずごきげんだ。
一体、どうなってるんだ?まさか本当に升から酒が湧いてくるとでもいうのか?
「親父、その升見せてくれ」
「おお、いいぞ。いくらでも酒は湧いてくるからな。お前も飲んだらいい」
湧いてくる?そんなわけないだろ。そう思って升を覗いた。
すると、すごい勢いで透明な液体が湧いてくるのである。そして縁ギリギリでピタッと止まった。
俺は恐る恐るその液体に人差し指をつけ、ぺろっと舐めてみた。
酒だ。まごうことなき日本酒だ。しかも美味しい。いくらでも飲みたくなる。美味しさに虜になりそうだ。
俺は誘惑を振り切り、酒を庭に捨てた。
「ああっ、なんてことを!彰人、升を返しなさい!彰人!」
親父が追ってくるのを振り切り、車に乗った。
「お袋、親父頼む」
「あ、ええ、大丈夫よ」
お袋が親父をがっちり押さえている間に酒屋へ向かった。

「おい、じいさん!」
「はいはい」
「なんてものくれたんだよ」
老店主は、升をチラと見て言う。
「升が何かお気に触ったかね」
俺は切れそうになった。お気に触るどころの騒ぎじゃない。
「これは…どうなってるんだよ?酒が…酒がなくならないんだ」
「しかも美味しいじゃろ」
俺はぐっと言葉に詰まった。確かに升から湧き出る酒は非常にうまい。
「けど、親父が…、親父がこれを離さないんだ」
「ふうむ」
老店主は少し考え口を開いた。
「酒の虜になったんじゃなあ。悪いことをしたな、良いものだから差し上げたんじゃが…。向こうの通りに神社がある。そこへ持って行きなさい」
「神社?」
俺はなんだか毒気を抜かれて、言われるまま神社へ向かった。
社務所へ行き、升を見せると、なんだか偉い人が出てきて、恭しく取り上げ、礼を言われた。

以来酒屋に行くついでに神社へ寄るようになった。
いつ行っても、升はなみなみと酒を湛え、供えられていた。

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父の日のことをうっかり忘れ、昨日慌てて酒屋へ寄って、思いつきました💦

酒の湧き出る升、あったらほしいです😍

しかも、酔わないほどいいお酒なんて……!

升に湧いてくるお酒のイメージは、
亀の翁です。720ml一本、5000円近くします。

先輩のうちにお呼ばれし持っていったのですが、先輩と二人で飲んでしまって……いやあおいしかった(^q^)

父には出羽桜の純米大吟醸を渡しました。鯨波は気になったけど買いませんでした(T_T)

あ、ちなみにうちの父は、ここに出てくるような陽気な人ではありません(;・∀・)

皆様は、お酒は飲まれますか?
どんなお酒が好きですか?
よかったら教えて下さい☺


最後になりましたが、マスター・ハゲ様、このたびは、よろしくお願い致しますm(_ _)m




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