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南米の先鋭、ウルグアイ

川を越えてアルゼンチンからウルグアイへ。
国境の橋の手前で警備員に呼び止められた。

「この橋は自転車通行禁止だ」

えぇ~!!!

国境越えはあらゆる事態を想定して準備して行くもので、今回もぬかりなく万端と思っていたのだが、そうきたか。
どうすればいいのかと聞くと、待機中のトラックドライバーのところへ連れて行かれた。
自転車を積んでウルグアイ側まで連れて行ってくれないかと頼んだら、快く承諾してくれた。

こんな積み方は初めてですよ。

彼はウルグアイ人で、いかにも男らしい労働者。
「オレにまかせとけ!」といった感じで豪快に「ガハハハ!」と笑う。

待機時間が長いのかなと思ったが、すんなりと出発。

車内のわずかな移動時間でも彼はおしゃべりしたくてしょうがないといった感じで、でも僕のスペイン語力だとそこまで自在な会話はできない。
彼はジェスチャーとフィーリングでうまいこと伝えてくれて、よくわからないことでも「ガハハハ!」と笑い飛ばす。

無事ウルグアイに上陸。
イミグレーションの手前で自転車と荷物を降ろす。
「ウルグアイで困ったことがあったらオレに電話しろ」と電話番号までくれた。
お礼にいくらか払おうとしたが、いらねえよとばかりに「ガハハハ!」と陽気に笑いながら去っていった。

正式名称はウルグアイ東方共和国。

南米で最も物価が高い国、ウルグアイ。
特にここ最近はさらに物価上昇中だそうで。
なのでウルグアイは最低限の節約ルートのプランを練り、自転車走行は4日間約430kmほどに凝縮。

パラグアイとウルグアイの違いを知らずとも生きていく上でいっこうに困ることはないが、旅人としてはたしかめずにはいられない。
ふたを開けてみると、双方とも国名がグアラニーの言語を語源としているだけで、たいしたつながりはない。
スペイン植民支配時代にウルグアイにいたグアラニー人はパラグアイに移動したため、パラグアイはスペイン人+グアラニー人の混血国家となり、ウルグアイはヨーロッパ系移民国家となった。

アルゼンチン北東部からウルグアイにかけての大草原地帯はパンパと呼ばれ、肥沃な土壌で世界有数の農業牧畜業を育ててきた。
19世紀に需要が高まった羊毛、牛肉、小麦の輸出で富を生み出し、ヨーロッパ各国から移民が押し寄せ、現在も国民の9割がヨーロッパ系。
こういった点でウルグアイはアルゼンチンと非常によく似ている。
よって、ウルグアイはむしろアルゼンチンとの対比で見るべき国。

かたや破綻国家へと転落したアルゼンチン。
かたやウルグアイは社会保障を充実させた福祉国家となり、戦後の一時期は政情不安定で軍事政権になったものの、安定した民主主義国家を維持している。
1人あたりGDPは南米で最も高く、所得格差は低い。

両国とも恵まれた国土にあり、似た条件でどうしてこうも違う道を歩むことになってしまったのか。

街並みはさぞかし先進的かと思いきや、そこまで高水準には見えない。
路面はけっこうボコボコ。
ここもシエスタがあるのか、活気もない。

「SE VENDE」(売ります)と書かれている。

買う人いるのか、という以前に動くのかこれは?

風景はもちろんファーム。
南米のこの界隈の国々はとにかく農業立国なのだ。

1人あたり牛肉消費量世界ランキング

1位 ウルグアイ
2位 アルゼンチン
3位 ブラジル
4位 アメリカ
5位 パラグアイ

この界隈がいかに肉食野郎ぞろいなことか。
ウルグアイ人は1人で年間61kgの牛肉を食べる(日本人は9kg)。

ガソリンスタンドに併設されている店で物価チェック。
コカコーラ1.5Lが117ペソ(387円)。
ジュース1Lが95ペソ(314円)。
ハンバーガー(小サイズ)1個98ペソ(324円)。

軽くアルゼンチンの3倍以上。
アルゼンチンで公定レートで買い物したとしてもなおウルグアイの方が高い。

近頃は物価の安さをいいことに宿に泊まりがちで、そろそろキャンプしたいと思っていた。
ややゆるみがちだった日々、物価の高さが旅にメリハリをつけてくれる。

この界隈の国はどこもそうだが、広大なファーム地帯はすべて私有地でフェンスが張られており、キャンプしやすくはない。
唯一フェンスが途切れてテントを張れるのが、川。

夜、いつも天の川の天上にさそり座が横たわり、夜明けにオリオン座が上がってくる。
オリオンはサソリに刺されて殺されたので今も恐れて、さそり座が夜空に輝いている間はオリオンが姿を現すことはない。

虫なのかカエルなのかわからないが、カラコロと不思議な鳴き声が夜通し聞こえた。

ウルグアイの国土は日本の半分弱。
大部分がパンパで、高山はない。

人口は347万人。
大半がスペイン系とイタリア系、その他ヨーロッパ各地からの移民の血を引く。

ウルグアイといえば、「世界一貧しい大統領」として一躍有名になったムヒカ大統領が記憶に新しい。
2010~15年に大統領に就任、官邸に住むことを拒んで郊外の農場で暮らし、収入の9割を寄付し、自身は月1000ドルほどで生活していたことからそう呼ばれるようになった。

国連会議のスピーチで、経済発展ばかりを求める現代の消費社会を批判、人類にとっての幸せを考えることを説き、人々の心を突き動かすメッセージとして世界中に広められた。

「世界一貧しい大統領と呼ばれているが、自分は貧しいとは感じていない。貧しい人とは、少ししか物を持っていない人ではなく、無限の欲望があり、いくらあっても満足しない人のことだ。」

日本の文化や歴史についての知識も深く、2016年に来日、映画も撮られた。

ウルグアイは、クリーンエネルギー大国でもある。
電力の97%を自然エネルギーでまかなっている。
以前は化石燃料への依存度が高かったが、ここ20年でシフトチェンジに成功している。

河原の茂みでこっそりとテント泊。

夜、何度か動物が近づいてくる足音がしたが、何だったのかはわからない。

コロニアデルサクラメント。

17世紀にポルトガルによって建設された都市で、ポルトガル様式とスペイン様式が混在する旧市街が残されている。

いきなりここへ連れてこられてここは南米だと言っても信じてもらえなさそう。

ここまで先住民が排除された旧植民支配地は初めて見るかもしれない。
巨大なカテドラルこそないが、ヨーロッパのラテン系カトリックの街そのもの。

首都モンテビデオ。

ブラジルのポルトガル勢力と、アルゼンチンのスペイン勢力にはさまれた小国ウルグアイ。
ブエノスアイレスにいたスペイン人が、ポルトガル勢力を阻止するために建設した都市がモンテビデオ。
軍事拠点、商業都市として発展した港町。
名の由来は、マゼランがこの地にたどり着いた時、西にそびえる小高い丘を見て「Monte vide eu」(我、山を見たり)と言ったとのことだが、諸説あり。

ウルグアイは国土も人口もパラグアイの半分以下なのに、モンテビデオはアスンシオンよりはるかに首都らしい首都。
それだけウルグアイは首都への人口集中が著しいというのもあり、ラテンアメリカでもトップクラスに生活水準が高い都市というのもある。

街並みは完全にヨーロッパ。

古い石造建築がきれいに維持されている。

ウルグアイは大麻合法。

大麻合法化したのは、かのムヒカ政権。
ムヒカは他にも、カトリック文化にもかかわらず人工中絶や同性婚も合法化するなど、なかなか突き抜けたリベラルっぷり。

モンテビデオに向かう途中、中心地に達する手前の郊外はアルゼンチン並みに荒れており、貧しく見えた。
中心部でも、ホームレスがそこらで寝ている。
データ上は格差が少ないと語っているが、現実はそこまできれいじゃない。
モンテビテオではスマートシティ化が促進されているそうだが、街を歩いていてもそういった実感は伝わってこない。
路面はデコボコだし、物理的なインフラはそこまで整備されているように見えない。
それでも、早いうちからあらゆることをデジタル化、AI化していく試みは今後必ず国を有利にしていくだろう。
日本も静岡でスマートシティの実験がおこなわれているようだが、我が国はとにかく新たな変革に対して慎重すぎる。
何でも新しいこと試してみたらいいんじゃないかな。


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