孑孑日記40 洋書コーナーにて

 名古屋駅の高島屋の洋書コーナーで、買いもしない洋書を眺めていると、ふたりの外国人らしいお姉さんがやってきた。彼女らは英訳された日本文学の棚、すなわち僕が見ていたのと同じ棚を覗きこんだ。そしてすぐふたりでつぶやきあっていたのだが、そのなかではっきりと一方のお姉さんが、"In the Miso Soup……" と言ったのだった。In the Miso Soup? 日本語の本のうち、英訳されてそのタイトルが "In the Miso Soup" になりそうな本を、僕は1冊しか知らなかった。村上龍『イン・ザ・ミソスープ』。東京の街なかで孤独に苦しむ黒人がスプラッタする小説である(紹介がひどいのは承知している、ホンマごめん)。まさかそれ? でも、有名とは思えないし……と思いながらこっそり耳を傾けていると、もうひとりのお姉さんが、"Ryu Murakami?" と言った。たぶん言っていたと思う。In the Miso Soupと発言したお姉さんは曖昧に返事をした。Ryu Murakami? と尋ねたであろうお姉さんが、いちばん下の段から1冊手にとって、ペラペラめくってから戻した。そしてふたりは去っていった。その後もう一度棚を検めてみると、いちばん下の段には村上龍の小説が2冊、『コインロッカー・ベイビーズ』と『69 Sixy Nine』が陳列されていた。やっぱり彼女たちは、村上龍の『イン・ザ・ミソスープ』の話をしていたのだ!
 意外なところで人気のあることを知ることができて、少し気分が高揚した。そしていずれ買うために、その値段を確かめておいた。ところでそこで気になったのだが、三省堂書店名古屋駅店の『コインロッカー・ベイビーズ』は2600円+税だったのに、ジュンク堂書店名古屋駅前店では2300円+税だった。洋書の値段については、統一的な取り決めはないのだろうか?

(2023.9.14)

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