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『We Margiela マルジェラと私たち』アップリンクで上映

メディアに姿を見せないミステリアスな存在とともに、それまでのモードに反旗を翻す禁欲的なデザインで脚光を浴びながらも2009年に引退を発表したデザイナー、マルタン・マルジェラと彼のブランド“メゾン マルタン マルジェラ”をめぐるドキュメンタリー映画『We Margiela マルジェラと私たち』が4月5日(金)よりアップリンク吉祥寺にて、4月13日(土)よりアップリンク渋谷にて上映します。

webDICEの監督インタビューの記事の前文として映画の感想を書きました。

ファッション通では全くないが、ハイブランドのダメージジーンズが嫌いだ。コンセプトがわからないし見苦しい。カウボーイのズボンをなんども洗濯すれば裾はほつれてくるし、穴も開く、それを自然に着るのはいい。ただ、あえて生地をダメージするのは、洋服に対するリスペクトを感じられない野蛮な行為としか思えない。という自分だが、マルジェラの古着のジーンズを解体し、再構築するジーンズは理解できる。古着の再生というエコロジーさと洋服に対するリスペクトを感じる。

映画に映されるマルジェラがデザインした過去の服を解像度の低いビデオ映像で見ていてわかったこと。それは、マルジェラは洋服が本当に好きなんだなということ。今更こんなことをいうとファンの人には呆れられそうだが。そして哀しい映画だった。1988年にブランドを設立、2002年にディーゼルを擁するオンリー・ザ・ブレイブ・グループに買収され傘下になってから今年で17年。映画では、当時のスタッフたちがインタビューに答える。今の自分を語るのではなく、当時無我夢中でマルジェラたちとともに仕事をし輝いていた時期を語る構成が続く。

現在のメゾン・マルジェラのアーティスティック・ディレクターはジョン・ガリアーノ。デザイナーが変わっても、背中に見える><は、当初の匿名性のコンセプトから乖離し、形骸化して><自体がブランドになっている。今のマルジェラの洋服のファンはマルタン・マルジェラ本人のデザインでなくてもよく、><が背中にあればいいのだろうか。背中どころか財布にだってある。そうだとすれば、バンクシーの人気と同じものを感じる。バンクシーの絵というかステンシルの絵柄自体は特段に美しくもないが、描かれた場所と時期のコンセプトが素晴らしくメッセージ性がある。でも、日本では、そのメッセージ性が剥奪されても、発見されたこと自体が話題となる。

やりたいことだけを妥協せずにやり続けたがメゾンの経営はいつも苦しかったのだろう。マルジェラは1997年から2003年にかけて、共同経営者のジェニー・メイレンスの計らいによりエルメスのクリエイティブ・ディレクターを務めた。そのエルメスでのマルジェラのデザインは先鋭性を失ったとも評された。映画には出てこないが別のインタビューでメイレスはこう答えていた。「メリットはあった。少なくとも、会社は元が取れたんだもの」。映画の中でも、人気に比例しない額の収入しか得てなかったマルジェラに対して、メイレンスが寂しそうな声のトーンで、「マルタンは買収された額を知って初めて自分たちの価値がわかった」という言葉が中小企業経営者の自分としては一番胸に詰まった。

監督を務めたメンナ・ラウラ・メイールのインタビューhttp://www.webdice.jp/dice/detail/5749/


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