【こだわり農家見聞録~其の弐~】徳永農園(新潟県柏崎市)
皆さんこんにちは、
アサヒパック広報の小林です!
こちらは、日ごろ弊社製品をご愛顧いただく農家様の”想い”や”こだわり”を取材し、まとめた記事です。題して「こだわり農家見聞録」。
今回はその第二弾。お話を伺ったのはこちらのお客様です。
取材に快く応じてくださり、ありがとうございます!
「職業」として選べる農家を目指して
後継者がいない…。全国の中小企業のほとんどが直面している問題だ。
経済産業省と帝国データバンクによると、日本の全事業者で「中小企業」に該当するのは全体の99.7%、そのうち「後継者不在である」と回答した経営者は65.1%にも上ったそうだ(※1)。
視点を農林業にフォーカスしてみる。
農林水産省2020年の調査では「後継者を確保している」と回答したのは24.3%、「直近引き継ぐ予定がない」事業者を除き、全体の約7割の農家は「後継者がいない」と答えている(※2)。現実の問題として、近い将来の「廃業」を選択せざるを得ない農家は後を絶たないはずだ。
だからきっと、さぞ嬉しかったことだろう。
インタビューの序盤、代表の徳永逸雄さんは『最近後継者ができた』ことをはにかみながら教えてくれた。今回取材に伺ったのは新潟県柏崎市の株式会社徳永農園。日本海のほど近く浜忠(はまつだ)という、ごくごく小さな集落に位置しているこの農園には、なぜだか不思議と、人も、活気も、集まっているように感じられた。その理由はどこにあるのだろうか?取材を通して見えて来たのは社長、徳永さんの「経営者」としての前向きな姿だった。
~農業「経営」という視点~
筆者は職業柄、農家の方々とお話をする機会が多い。
普段はデスクにある電話で世間話もとい、ご注文を受けつつパソコンをポチポチしているし、時々このように取材へ赴き、記事にまとめる業務も行っている。これはあくまで個人的な思いだが、手塩に掛ける作物のこだわりや苦労を語る皆さんは、一様にどこか楽し気で、だからこそ、可能な限りそれを文章にしてお伝え出来れば、と考えている。
そういうわけで、目の前で話を始めた徳永さんがまず、自社の「経営」について口にされたのを聞いて、正直少し驚いてしまった。
地域の圃場整備をきっかけに平成10年(1998年)、地元企業を退職して農業経営を開始。実家が代々農業を営んでいたこともあり『いつかは農の道へ』という想いがあったそうだ。5年後の平成15年(2003年)には法人化、そして令和3年(2021年)3月には有限会社から株式会社へと移行を果たした。
会社として社員を雇用するのであれば当然金銭的負担は大きいわけだが、若者が農業から離れていく現状を鑑みれば、この決断は正しかったと考えている。
『農業を仕事にしたい』と思ってはいても、実際に生活していけないのであれば諦めざるを得ない。これは農家からすれば「新たな労働力を確保できない」こととほぼ同義だ。徳永さんが仰るとおり、職業として、特に若い世代の勤め先として「選択肢たり得る」というのは、極めてシンプルな解決策で、だがそれ故になかなか難題とも言える。
〜「変わらないこと」と「変えていくこと」〜
「不易流行」という言葉がある。
俳人・松尾芭蕉が「奥の細道」の旅中に辿り着いたと言われる理念で、
・不易:いつまでも変わらない本質的なことの中に
・流行:その時々に変化するものを取り入れていくこと
と解釈されている(諸説あり)。最近はビジネスの世界で使われることも多く、企業のブランディングや戦略構築の際に念頭に置かれる考え方だ。
「農業経営で利益を確保し、社員にしっかり還元をする」。
先の考え方に当てまめるなら、これは徳永農園における当初から変わらない不易の一つだろう。その利益を確保するため、対照的に変化させ続けている流行、それは「何を作り・どのように売るか」だ。現在売上の軸になっているのは地元スーパーでの「インショップ」と、そして「ふるさと納税」の返礼品。どちらも時代の潮流を的確に捉えていると言っていい。
「インショップ」とはいわゆる地場コーナーのことで、スーパーの中で農家が直売できるスペースを指す。もちろん売り上げの2割ほどはスーパーの取り分になるが、「地産地消」が推奨される昨今、地元の「顔が見える」生産者が作った、新鮮な作物をお得に購入できるとあって人気を博している。年間を通して15品目ほどを出品しているそうで、その中にはツルムラサキ・金時草など珍しい野菜も並ぶ。
後者、「ふるさと納税」ではお米と切り餅を返礼品として提供しており、こちらも好評だ。この制度が始まった当初、おそらく多くの事業者が聞き慣れない名前や仕組みに二の足を踏んだことだろう。だが、徳永さんに迷いはなかったようだ。
インタビューを通じて感じたのは経営者としての「情報収集力の高さ」と「用意周到さ」だ。一例を挙げれば、地元で古くから活動する「柏崎専農経営者会議」というお米の専業農家グループに20年以上所属しており、新しい情報はいち早くキャッチ出来るようになっている。
米の品種選定にも余念が無い。徳永農園が位置するエリアは昔から水捌けがよく、気候変動も相まって近年は夏時期の水不足に陥ることが多かった。そこで数年前から極早稲である「葉月みのり」と晩成種「新之助」の割合を増やすことで、梅雨と秋雨を上手く利用しリスクを最小限に抑えている。
目指す目標を掲げ利益をしっかりと確保しつつ常にアンテナを張り、その時々に合わせた準備を怠らない。ここには確かに「選択肢になり得る農業」が存在している。
〜「徳永農園」を次の世代へ〜
徳永農園が位置する浜忠集落は、良好な土壌・ミネラルを豊富に含む雪解け水・昼夜の寒暖差など、農作物の栽培にとって好条件が揃う中山間地域に位置している。
また地元柏崎市で製造されている「元気ゆうき君」という堆肥を畑・田んぼに使用。これはスーパーや魚市場、鮮魚店などから出た魚のアラを主原料に作られており、これにより循環型の農業を目指している。
加えて「安心安全」にもこだわり、減農薬・減化学肥料の減減栽培、特にお米では特別栽培米の認定も受けており、手間を惜しまない姿勢が光る。そして近年はそのさらに先、柏崎市産コシヒカリのブランドである「米山プリンセス」の認証基準を目指し改善を重ねている。
そう笑っていた徳永さんだが、なかなか上手くいかないことも多く、特に先述した夏場の水不足には大いに悩まされている。近くには溜池もあるが、現在は養鯉業者が錦鯉の養殖で使用しており、なるほどこれは新潟県中央部独特の状況で、水の使用についての折衝が当面の課題となっている。またご自身の年齢もあり、体力的に難しい作業も増えてきた。だからこそこうして今、後継ぎが出来たことを心から喜んでいる。
それに加え、春には近くの農業大学校から新卒で社員を採用し次世代の育成にも力を注ぐ。新たな若い力に足並みを揃えるように、現在はドローンによる農薬散布や機器の更新など新技術の導入を積極的に計画している。
「安心・安全で、美味しい作物を少しお安く」、そしてしっかりと「利益を確保し、可能な限り社員へと還元」していく。不安定な世の中にあっても積極的な「農業経営」を続ける社長徳永さんの「不易流行」は今、新しい世代に着実に引き継がれようとしている。
※本記事は弊社発行「こめすけ 41」に掲載の内容を加筆修正し、再構成したものです。
※取材は2021年7月に行いました。