忘れるのが吉なのか

以前、親友二人が離れていったと書いた。

そのうち一人はその後連絡をとって、相手も忙しい中折り返しの電話をくれて、関わっていきたい旨を伝えた。迷った挙げ句、相手は理解を示してくれて連絡を取り合うことになったのだ。とても嬉しかった。生涯関わりたい人に拒否されるなんてすごく辛かったから。

では、もう一人は?

うつ病が治るまで連絡を取り合わないことになっている。なぜならその人が私を拒否した理由が「あさひ野がうつ病だから」だったから。私が金髪なのも、ストレスから爆買いしたのも、実家で家族と同居で様々なストレスを抱えているのも、症状と毎日戦っているのも、その人に愚痴をこぼせば「重い」「理解できない」「なんて返したらいいかわからない」「一緒に沈んでしまう」「こっちも忙しいし構ってられない」となるのだ。本人がそう説明してくれたからその通りなのだ。

思うに、その人は共感力が強く、他者との境界線を引くのが苦手なのだと思う。実際うつ病になったと知らせたときもすごく心配してくれた。その人の身内が入院したときは平日も仕事後にお見舞いに行っていたという。一日置きくらいだったか、たしか。パートナーが入院したときは毎日お見舞いしていたとのこと。簡単にできることではない。共感力が強いからこそできる行動だと思う。

だからこそわかる。私が「死にたい気持ちになってる」「これは症状のひとつなんだけどね。つらい」とこぼせば、彼女は親友がそんな気持ちになっていることにショックを受け、同じように落ち込んでしまうのだ。そういう思考の持ち主なのだ。うつの経験者や周りにそういう人がいた経験があれば「すごくつらいよね」「家に家族はいる?」「私は生きていてほしいと思うよ、また顔見たい」「次回の診察で伝えようね」などと、湧水のように言葉が出てくる。でもそれができないのだ。本当に、本当に、メンタルを少しも病んだことがない人には分かりっこない話なのだ。

だからこそ、その人に「うつ病を理解してもらうこと」を私はそこまで求めていなかった。コロナが落ち着いて会う頃までに鬱病が治っていなかったら、鬱病に関する分かりやすい本でも送ろうかなと思っていた。分からなくて当然、それなのに心配してくれてありがたいと思っていた。できるだけ明るい話題の時だけLINEしていた。「返事できないときもあるけど、毎回読んでるからね」と言ってくれていた。

でもしくじった。「死にたい気持ちになっている」とLINEしてしまったのだ。それがおそらく決定打となった。その人から「距離をおきたい」と、「元気になるまで連絡を取りたくない」と言われてしまった。意思の強い人だ。それまで何度も悩んで出した答えだと言うことは言われなくても分かった。私は「抗うつ剤を卒業するまで連絡をしない」と約束し、そこでLINEはこと切れた。

でも社会復帰してからよ?今60㎎のんでる抗うつ剤を10グラムずつ減らして、フルタイムで働けるようになったらゼロになるの。何年かかると思ってんのよ。完治する場合もあれば、一生付き合っていく場合もある。完治するとしても時期は不透明。ほぼ離縁じゃないか。

その人はきっと、うつ病は完治するものだと思っていたのかもしれない。理解していないからこそ「距離おきたい」と言えたのかもしれない。楽しかったことだけ話すとか、半年にいっぺん近況報告するとか、手紙ならオーケーとか、少しのコミュニケーションを残す手はいくらでもあったはずだ。私の立場を考えれば、0か100かの選択肢ではなく、10とか20にすることもできたはずだ。

私は今困っている。その人と共通する話題はたくさんあるのだが、あまりにも多いために日常生活の至るところで思い出すのだ。距離をおきたいと伝えられ号泣したあの晩のこと、連絡したいのにできないこと、離縁になるかもしれない不安や数々のモヤモヤ…お陰さまでピアノが弾けなくなってしまった。共通点だったのである、ピアノが。私より少し上のレベルで、実力も近く、連弾したこともあった。全ては過去のキラキラした思い出。ただの思い出。それが今胸を締め付ける。LINEを遡っていたら、最近好きになったお洋服のショップまで同じだった。買った服を見るたびにその人とのことをまた思い出してしまう。ただただしんどい。

私は今、思い付きで、その人に「手紙だけ送ってもいいか」と連絡を取ろうとしている。うつの話しはせず、楽しかったことや出掛けたときのこと、ピアノのことだけ。明るい話題に絞ってでもその人と繋がっていたい。わがままだろうか。一度連絡しないと約束したのにそれを破って手紙だけしたいなんて。わからない、わからない。

幸い今週はカウンセリングの予定だ。カウンセラーさんに相談してから連絡するかを決めようと思う。早とちりはしない方がいい。

…にしても。あんなに大好きだったピアノをやっと弾く意欲が出てきたと思ったら、今度は親友のことで思い悩むなんて。弾きたい曲いっぱいあるのにしんどいよ。やれやれ…。


早くピアノを弾きたい あさひ野

この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?