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趣味は「生活」


「山瀬の趣味は、生活だ」
この一文を読んだとき、あっと思った。いろんなことがストンと腑に落ちた。

ジェーン・スーさんの著書「闘いの庭 咲く女 彼女がそこにいる理由」(文藝春秋)はスーさんが13人の女性と対談なさったことをおまとめになった本である。この中で山瀬まみさんと対談された際の文章の中に冒頭の一文があるのだ。

自分もまさしくそうだ、と思った。日々の暮らしを送ることそのものがずっと昔から好きだったが、それを「趣味」と言っていいジャンルのこととも思わずにいた。食べることが好きなのでスーパーで野菜を見ながらどういうお惣菜を作るか考えているだけで楽しいし、買ってきたそれらの食材をひとつひとつ冷蔵庫や食料棚に収めていると充実感を覚える。乾物屋さんなどへ行くと作って食べたいお惣菜があれこれ浮かび、頭の中で鐘がキンコンカンコンと鳴る(母に病院へ行けと昔言われた。笑)。食べた後、お皿をひとつひとつ洗って拭き上げて綺麗になると心の中まで拭き上げられたような気になる(だから食洗機を欲しいとはあまり思わない)。窓を開け風を入れて箒で塵を掃き出し、雑巾をかけると気持ちがさっぱりする。掃除機より箒が断然好きだ。あのザッザッという音が耳にとても心地いいのだ。洗濯ものが洗い上がりひとつひとつパンパンと丁寧に叩いてきっちり干すと何やら達成感すら覚える。

誤解しないでいただきたい。上に記したような暮らしをしていても、よく雑誌で取り上げられている「丁寧な暮らしを送る素敵なかたがた」のような趣は微塵もない。特別几帳面なわけでもない。モーニングルーティーンに出演されているかたのような瀟洒な住宅に住んでいるわけでもない。昭和の古民家で、ぶら下がり健康器に部屋干しの洗濯物がかけられているような室内だ。出汁を自分で取ったり全てのものを手作りにするとか、そんなこととは程遠い。クックドゥーや顆粒だしや冷凍食品にどれだけお世話になってるかわからない。掃除は好きだけれど、家の中に物も多いので片付けたところで部屋はごちゃついている。じゃあ反オシャレとばかりに質実剛健を目指しているのかというとそういうポリシーなども全くなく、素敵なグッズがあればそういうものにも手を出して使うし、100均で間に合うものは大いに活用する。だから家の中を見渡しても特に統一感はなくバラバラである。
以前にも我が家の暮らしについて触れた投稿はこちら↓

私は職業柄、家へ持ち帰って準備せねばならぬことが山ほどある。また、創作の時期には部屋にこもって産みの苦しみでうんうん唸る。曲をアレンジして楽譜を描くとき、五線譜を埋め始めるまでが苦しい。全体の構想がまとまらないと五線譜を埋めるにまで至らないのだ。そういう時に「生活」というのはとても良いガス抜きになる。イーッとなったところで、いったんキッチンへ行き麦茶を沸かす。グラグラ湧き立つお湯を見つめ好みの濃いめになるように少し多めに麦を入れて煮出す。ヤカンを水に浸して冷やす頃にはキッチンは麦茶香ばしい香りいっぱいに包まれている。そしてまた仕事部屋へ戻って曲に向き合うと、不思議なもので先ほどまでどんなにふり絞っても出てこなかったアイデアがふと湧いたりするのである。

日々、行き詰まるとこんなふうに生活にまつわる小さな家事をおこなう。軍手ぞうきんを手にはめて家具の埃を拭き取ったり、夕飯の下拵えに野菜を刻んだり、灰汁抜きしておいたり、アイロンをかけたり、猫のトイレ周りを掃除したり…。そういうちょっとしたことをしているとぐるぐる巡っていたことを頭からいったん考え事を取り出すことができて、その後また新鮮にそれらと向き合える。そして「なんでこれがさっきは出てこなかったんだろう」というアイディアがポロッと閃いたりするのだ。

そういう、平たく言えば「小さな気分転換」のようなものは人それぞれあると思う。それがなぜ私の場合は「生活にまつわる日々の家事」なのかはよくわからない。思うに「手を動かすと頭が活性化する」「美味しいものでテンションが上がる」「清潔になると気持ちが上向く」というところがポイントなのだろうか。そしてそれらがただの気分転換にとどまらず私の「趣味」なのだなということが、冒頭に紹介したジェーン・スーさんの著書の文章と山瀬まみさんの発言で気づくことができたのだ。

趣味は何個かあると人生の助けになるといわれる。一人でできるもの、複数人でできるもの、屋内でできるもの、屋外でできるもの。この4通りあると良いと聞いたことがあり、なるほどと思ったものだ。生活が趣味だとこれを全て網羅できるじゃないか笑。夫は生活が趣味とは今は言い難い人ではあるが、仕事をリタイアするのは私より彼の方が先になると思われるので(夫はシニアなどで職場に残る気はなく定年きっちりでリタイアするつもりらしい)、この趣味にうまく巻き込んでいければ良いなと思っている。と勝手に思っているのだが嫌がられるだろうか笑。

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#創作大賞2024 #エッセイ部門

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