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【エッセイ】あこがれのサウナ

 近ごろサウナが流行っているらしい。
 なんでもサウナはたいそう身体に良く、正しい入り方をすれば「ととのう」という状態になり、自律神経が整うとやら、ストレス解消になるとやら、いいこと尽くしだとか。
 温泉にはよく行くが、お湯につかるばかりでサウナにはあまり入ったことがなかった。もったいないことをしていたものだと、さっそくサウナに足を踏み入れようとした。
 したのだが、ひるんでしまった。
 正確には、足を踏み入れたが、すぐに出てきてしまった。
 近くの温泉でも、となり町の温泉でも、サウナにはヌシがいるのだ。
 ヌシが鎮座するサウナは、新参者が入っていくには気後れするような雰囲気だった。
 気にしすぎなのはわかっている。ヌシがこちらのことなど気にも留めていないのもわかっているが、初回は気楽に入りたいので、すぐにあきらめてしまった。
 その後、何度かリベンジを試みたが、いつ行ってもいる。いったいいつどこから来て、いつどこに帰っていくのか。サウナと水風呂を豪快に往復する彼女たちは、もしかしたらあのちいさな熱の部屋に棲みついているのかもしれなかった。
 サウナへの興味は、焦らされれば焦らされるほど募るばかりである。
 次にトライしたときにまたヌシと出くわしたら、もう腹をくくろうと思う。あるいはあきらめようと思う。その時には、座っているのはヌシではなく、自分にしか見えない妖精なのだと自分に言い聞かせよう。
 そうしなければ、いつまでもサウナの恩恵は受けられない。
 わたしは早く「ととのう」というものが欲しい。

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