【エッセイ】野性

 ねこは姉が来るのをじっと待っていたらしい。
 姉が馬小屋に入ると、廊下にねこが座っていた。ねこは、大きなねずみをくわえていた。ねずみはすでに死んでいるようだった。
 姉は思わず「ひゃあ」と言った。
 ねこはそれに構わず、姉に見せつけるように動かないねずみを前足で転がしたり、口で放ったりしてもてあそび始めた。非人道的な行いであるが、ねこもねずみも人ではない。
「いや、見せなくていいです。別に……」
 丁重に辞したのち、別の作業をしている間に気が済んだらしく、ねこは物陰に隠れ、ねずみをたいらげた。カリカリと、何かをかみ砕く音がしていたという。
 エサは与えている。毛が膨らんでいるせいもあるが、最近は前より太っているようだと姉は言う。おそらく、それほど空腹ではないと思う。
 それでも、ねずみが目の前にいれば狩りたくなるのが本能というものなのだろう。
 近頃は、蛾やコガネムシを食べる姿を目撃したと、姉がとても嫌そうに私に報告してくる。小さなクワガタが出たときは、姉が逃がしたのでねこに食べられずに済んだそうだ。
 どれほど食べ物や寝床を与え、人間には爪をたてなくなろうと、動物の内に宿る野性までは飼いならすことができないのかもしれない。
 もしかして、私が近づくと迷惑そうな顔をして少し居場所を移動するのも、撫でたり抱き上げられたりする身の危険から逃れようとする野性の本能の現れなのだろうか。

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