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浦和レッズファン感謝祭で60人の顔を青ざめさせ、新聞に載った小学4年生のゴール【映画監督・石井裕也連載】

第5回「浦和レッズ」

 今となってはサポーターにとっての聖地とされる、浦和レッズのホームスタジアムである駒場競技場のすぐそばに住んでいた。小学4年生の頃の話である。

「レッズフェスタ」なる浦和レッズのファン感謝祭のような催しに、近所のサッカー少年たちが僕を含めて50人集められた。なんでもプロのサッカー選手11人と対戦するのだという。

 こんなことを書くのは憚られるのだが、試合は本当に苦痛だった。見ているほうは楽しいのかもしれない。何のために戦っているのかまるで理解していない50人のちびっ子が夢中で走り回っている光景は見世物としては面白いのだろう。だが、やっているほうは全然楽しくない。ボールなんか回ってこないし、走れば誰かにぶつかる。

 当時Jリーグで最下位に沈んでいたレッズの選手たちは、本来ゴールキーパーの選手がフォワードをやったり、ひょうきんな選手が実況パフォーマンスをやったりと、当然ながら遊び半分であった。

 ミスターレッズと称される福田正博選手は大好きだったし、トリビソンノ選手のゴリゴリとしたプレースタイルも好きだった。それでもやはり、その試合は苦痛でしかなかったのだ。

 2対2の同点で試合が終わる寸前だった。レッズの選手たちは、このまま引き分けで終えて仲良く帰ろう、みたいな雰囲気だった。なにせファン感謝祭なのだ。ちびっ子たちも半ばサービスしてもらって2点取れたし、帰って家族に自慢しよう、みたいな雰囲気だった。

05浦和レッズ

 その時だった。たまたまゴール前にいた僕のところに、なぜかボールがころころと転がってきたのだ。瞬間的に体が動いて、なんとなくボールを蹴ったのだが、なんとなくゴールに吸い込まれてしまった。11人のプロサッカー選手と49人のちびっ子たちの顔が一瞬にして硬直し、青ざめたのを今でも覚えている。少なくとも僕にはそう見えた。多分、やってはいけなかったことを僕はしてしまったのだ。特に最下位に沈むチームに対しては……。引き分けで試合を終わらせるべきだったのに、僕の痛恨のミスのせいで、ちびっ子チームが勝ってしまったのだ。

 試合後のロッカールームで記者にインタビューされたのだが、ただでさえ罪悪感を抱いていたのだから新聞なんかに載って悪目立ちするのは御免だったし、とりあえず僕は自分が小学4年生であることと、福田選手が好きだということ以外は何も言わなかった。

 にもかかわらず、翌日の某スポーツ新聞にはこう書かれていた。「『僕がレッズに入って強くします』と決勝点を決めた石井君は大はしゃぎ」と。

 学年も間違えて書かれていたし、当時は本当に恥ずかしい思いをしたものだ。

 メディア・リテラシーの必要性というものを学んだ記念すべき日となった。

(連載第25回 AERA 2018年10月29日号)

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