在原業平の「都鳥」と若山牧水の「白鳥」 旅が育んだ歌の深み
在原業平の生きた時代は9世紀(生没年825~880)。『古今集』の成立(905年頃)前夜といった感があります。漢詩が優先された時代に、業平は和歌を盛んに詠み、『伊勢物語』では東下り(関東地方への旅)をしています。立身出世に背を向けて都を離れ、仕事とは縁のない漂泊の旅を続けて、さまざまな恋愛経験を積む。ほかの人にはできないようなことができた特別な身分でもあったわけですが、生まれとか立場とかそういうものから自らを遠ざけて、業平は一人の歌詠みであろうとしたのではないかと思えます。