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コミュニケーションが好きで日本語教師をやってるのに、オンライン授業はやりづらい!という話

勤めている日本語学校の授業がオンライン化して4か月くらいになる。

緊急事態宣言後もコロナは落ち着く気配を見せず、オンライン授業のために大急ぎで導入されたZOOMの機能に沿って、誰もが授業スタイルの転換を強いられた。

「こんなのがやりたくて日本語教師になったんじゃない」

というしんどさが、日本語学校の先生には多かれ少なかれあるんじゃないだろうか。

日本語教師として働くには様々な活躍の場がある。インターネットならプライベートレッスンや動画サイトへの投稿によって、個人でも収益を得ることができる。

そんな時代に日本語学校で対面授業をやっている教師がいるのはなぜだろうか。もちろん、個人活動にまつわる業務の煩雑さや得られる収入の安定など、学校に属する方がいい理由はいくつか想像がつく。

しかしそれよりも何よりも、学生と接する対面授業はほかに代えがたい魅力があるのだ。日本語教師なら、みんな好きなはずだ。と、勝手に決めつけているが本当にそう思う。そうじゃないですか?


日本語学校の授業はコミュニケーション主体で進んでいく。

私の高校時代を思い返せば、クラス40人の生徒は静かな聴講者だった。先生のユーモアに笑っても、自分達で好き勝手にアイデアを出してぶつけ合うようなことはあまりなかった。最終的に問題が解けるようになることが大切で、結局のところ、受け身な授業態度だった。

日本語学校の授業では、導入から教師は学生に質問を投げかける。

「このクラスで、お酒が大好きな人はだれですか?」
「ここから大阪駅まで、電車でいくらかかりますか?」
「今、地震が起こったらどうしますか?」

すると誰かが答えてくれる。「〇〇さんはお酒が好きです!」と声が上がると、「いいえ△△さんのほうが……」と反論も出る。さまざまなアイデアを知りたい質問なら、話したい学生の答えをひととおり聞いたら、おとなしい学生にも指名してみる。

「この2つの文法の違いは何だと思いますか?」

例文を並べて、しょっちゅう尋ねる。「何ですか?」よりも「何だと思いますか?」のほうが、やや答えてくれやすい気がする。

こんなふうに、学生の発話が多いのが日本語学校の授業の特徴だと思う。科目によっては教師より学生のほうが声を出している。

教案には想定される学生の反応が織り込まれている。そんな授業のやり方が楽しくて、準備が大変でも1コマ1コマはあっという間で、学生とのコミュニケーションに救われて、それがやりがいになっている先生達が、きっとたくさんいるはずだ。

だけど、オンライン授業では、それが難しくなってしまった。


ひとりひとりと目が合わないオンライン授業。

ZOOM越しではどうしても、先生1人:学生20名というクラス全体の空気感が作りづらい。

自分からミュートを外して発言してくれる学生はいい。しかしクラス全体を巻き込まなければ、と思って「〇〇さん」と指名した瞬間、先生とその学生が1:1の関係になってしまう。当てられなかった学生は黙って答えを待つことになるが、沈黙の時間が長くなるほど、それぞれの意識が離れていってしまう。

教室ならば、なかなか答えられない学生の隣に立っておいて、遠くの学生を指名することもできた。クラスメイトの答えをヒントに使ったり、物言いたげな学生の視線を受け取って「次に聞くからね」とアイコンタクトを送ったりして、ひとりの学生が考えている時間を待つことができた。

オンラインでそんなことをすれば、ひとりが答えられないからといって別の学生を指名すると、先に当てていた学生との関係はそこで終わってしまう。「あとでもう一度聞くからね」とか断ってから回せばいいのだが、どうも意図が通じにくくて、ひとつの質問にかける時間が間延びしてしまうのだ。

そして、そもそもひとりひとりと目が合っている感じがしない。

学生達の顔が表示されているディスプレイと、こちらのカメラとは位置がズレている。カメラを見て話せばあちらの顔が見えないし、顔を見れば向こうからは目が合っていないように感じられるだろう。

さあ、今日はこれで終わります。と言うと、学生達は次々と「ありがとうございました」「先生、おつかれさまでした」「さようなら、先生!」と元気にあいさつして手を振り、退出してゆく。ああ、こんなに元気なみんなに対して、私はまた一方的に話しすぎてしまったなあ。そんな心残りを胸に「はい、よい週末を~」と手を振り返す。

できることなら、1コマをクラス人数分に等分して、時間を割いてあげたい。どうせ1:1になってしまうなら……。いや、もっとうまいやり方があるんだろうけど。

このあたりが私の感じる「理想の授業」とのギャップだ。

こういうことがしんどいなあと感じている先生。

もしいたら、私も同じです。

そんなギャップに負けず、えいやっと新方式に対応されていて、みんな奮闘しているんですよね。

いやそんなことより教材をデジタル化していかなければならなくて日々準備が大変なんだよなあと忙しくされている先生。

それも本当にそうです。ちゃんと睡眠をとってください。


日本語教師のみなさん、今週もおつかれさまでした。



カバー写真:海洋堂 ホビー館 /高知


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