DIVE XR FESTIVAL 9/22・夜の部のイベレポ…になれなかった感想群(後編)

↑ のつづきよ!

洛天依も海を越えてきた

日本のバーチャルたちが中国へ進出している。ではその逆は?
もちろん、あって然り。中国生まれのボーカロイド・洛天依が初めて、日本の地でライブを行ったのだ。

はっきり言って演出がセンス抜群で最高だった。代表曲だという『66CCFF』は「Google日本語翻訳を挟んであいさつをする」という小粋で気配りにあふれた導入から曲入り。
かと思ったらナチュラルに日本語版に音声チェンジ。そのまま日本語曲の連発披露。
そして最後は「日本語であいさつ」をしてフェードアウト。
この流れ、「ボーカロイドというツール」であるが故に言語の壁など一瞬で超えられるという事実の提示が、ほんとに鮮やかでめっちゃ舌を巻いたんですよね。

そしてボーカロイド血統なので、当然のように3Dモデルの質も動きもハイレベル。おまけに衣装バリエーションも豊富。チャイナドレスよかった。

はっきり言ってスキがない。日本顔負けなバーチャル存在が、今後世界各地でどんどん増えていくのかと思うと、正直ワクワクが止まらない。こういう「未知」をたくさん見せてくれたことが、DIVE XR最大の意義だと思う。

りんなとHUMANOID DJが投げ込んだ石

初音ミクと洛天依以外にも「完全なるバーチャル」な出演者がいた。おそらく会場内でも知ってる人は少数だったように感じる。HUMANOID DJは僕も初見だった。

「AIりんな」は日本マイクロソフトが作った会話ボットだ。その出自はVTuberどころかボーカロイドとも一線を画す。「対話できる人工知能の女子高生」は、実は今年の3月に高校を卒業し、4月にavexからメジャーデビューしていた。今回が、アーティストとしての彼女の初舞台だった、ということだ。
完全な合成音声の歌声は、しかりヘタすればボカロをも凌ぐほど「人間らしさ」を感じた。その上で彼女は確たる実体をステージ上で見せず、彼女それ自体がステージ演出とでもいう振る舞いを見せた。「ユーザー公募による替え歌」も野心的だった。りんなはツールとアーティストとキャラクター、祖の全てのはざまに立っているように感じられた。

HUMANOID DJはもっとシンプルにシステム寄りだ。しかし「マシンのボディを持つキャラクター」を得て、まるでそういうアーティストのようにふるまっていることに、特に違和感は感じなかった。ステージ演出に関しては間違いなく今回で一番クールだった。レーザーをケーブルに見立てる演出、正直シビれた。
「観客の表情を読み取って動的に盛り上げる」という仕組みは、残念ながら効果的に働いていない様子だったが、やろうとしていることは伝わった。改良していけば十分化けるポテンシャルがあると思う。

りんなもHUMANOID DJも、今回の参加アーティストの中では一番のキワモノで、リアクションは上々とはいえない空気ではあった。でも個人的には、「こういった存在がボカロやバーチャルタレントと同じ土俵に立つ」ということ自体に、強烈にドキドキした。
アーティストの形が、ゆっくりと溶けて、新しい形に変わりつつある。

初音ミクという頂点

ここまで意図的に言及を伏せてきたものがある。ひとつは初音ミクだ。

「いまさら」感は正直あった。初音ミクは間違いなくこの場に立つべき存在だが、しかし「強いていま」立つ必要があるのか?とも思っていた。そのくらい、初音ミク/ボーカロイドはレガシーに位置していると考えていた。

だけど、半透明スクリーンの上に現れ、軽やかに舞い歌う姿を見て、その考えは即座に失せた。DIVE XRの初音ミクは、自分が知る上でかつてないほど「そこにいた」。その上で、一瞬で衣装チェンジを行い、そして重力も体力も感じさせない動きをしていた。軽やかすぎる。自由すぎる。
有り体に言えば「完全」だった。「そこにいるのに完全」という、とてつもないものを見せられて痛感した。

制約がない。ツールでありながら偶像でもある初音ミクは、技術が進展する限り無限に進化し得る。おそらく、これからも。

すごい、と思う以上に、一種の空恐ろしさを感じた。これから「バーチャル」を名乗って舞台を目指す存在は、全てこれと対峙しなければいけないのではないかと。

正直、それはとても過酷なことのように思えた。未だに頂点にいる初音ミクに、どうすれば追いすがれるのだろうかと。

それでもKizuna AIは先頭に立つ

だけども、最後に登場したKizuna AIを見ていると、「もうすぐ手が届く」と思えた。

彼女のアゲかたはピカイチだった。『future base』『melty world』『AI AI AI』そして『Sky High』というつなげ方は、彼女の軽快なMCも相まって完全にブチ上がっていた。僕のみならず、会場全体が。

昨年末の『Hello, World!』に匹敵するレベルでアガった。なんというか、彼女のパフォーマンス、もう完成しているなって。これが「VTuberのトップランナー」だって。

VTuberはまぎれもなく生きている存在で、2019年現在は「ガワ」と「中身」の対応関係は1対1が大前提とされている。いわば通常のタレントと同じで、それは初音ミクのように無際限の拡張ができる状態ではない。

だけど、キズナアイはその壁を「別の人格インストール」という形で、現在進行形で広げていこうとしている。「オリジナルが消えるのでは」と危惧し、猛反発する人もいる。実際、この日も「どの子」が出ていたか、実は断定できる自信はない。

だけど、この日と、去年の年末にダイバーシティ東京で「キズナアイ」を見てきたいま、自分の中で一つの確信が生まれた。

「キズナアイは、初音ミクに一手近づけている」と。

群体か、あるいは概念か。キズナアイは、唯一性に依るVTuberから少しずつ次の段階へ進もうとしているのかもしれないと、大歓声の中考えていた。


全てが「バーチャル」のもとに横並びになる

DIVE XRに対する感想を見ていると、総じて「絶賛」の空気は感じにくい。人によってはかなりネガってるような印象も受ける。

これは仕方ないとは思う。なぜなら、あんスタや洛天依、HUMANOID DJやりんな、そして初音ミクなど全部がごちゃっと集結したことで、純粋なVTuberイベントではなかったからだ。
もちろん、全体的にインタラクティブ性は低めだったことなども要因の一つだろうけど、「来場者の目当てにバラつきがあった」ことは、評価が散漫としている主因だと思う。あんスタ登場前後で、最前列の人員構成がガラッと変わったのは象徴的だった。

ただ、自分はこの「全部横並びになっている」光景がとてつもなく胸に響いた。VTuberも、ボーカロイドも、アニメキャラも、AIも、全てが「バーチャル」というカテゴリで並ぶ瞬間がついに来た。これ、ものすごく重大な転換点だと思うんですよ。

そして、この面々の中では、VTuberはまだまだ「伸びしろがある」という段階にとどまっていたように思う。
総合的なパフォーマンスは初音ミクと洛天依が群を抜いていた。
会場を巻き込んだインタラクティブな盛り上げはARPが巧みだった。
過去の映像とはいえ、「そこにいるキャラクター」という点であんスタはやはり強烈だった。
VTuberの「外」にあるバーチャルは、様々な面で抜きんでていたのだ。

もちろん、VTuberたちは十分すぎるほど魅せていたし、自分はその姿に感動をおぼえる。だが、世の中はVTuberファンで満たされているわけではない。「外」に出ていったVTuberが、これらのバーチャルと並べられて評価された時、果たしてどうなるのだろうか?

そこには不安がある。それはファンとしての心情だ。だが同時に計り知れない期待感がある。VTuberが、本当の意味で広まろうとするタームに入ってきたことに対する期待だ。

全てが「バーチャル」のもとに横並びになる。VTuberにとっての、本当の意味での勝負は、まぎれもなくこれからだ。

それに気づかされたからこそ、DIVE XRというイベントに「エモついた」わけです。


余談:WHITEHOLEのゲリラプロモーション

さて、フェスティバルを終えて幕張メッセの外に出ると、なにやら妙な一団がいました。

会場近くの案内板に、プロジェクターで映写されるWHITEHOLEのMV。そして、階段を登った先に展開していた、「WHITEHOLEのスタッフ」を名乗る人たち。
なんとまぁ、会場の外でWHITEHOLEのゲリラプロモーションが実施されていたのです!

ライブ後の会場外で行う、ゲリラ映写と、Twitterフォロー&RTキャンペーン(缶バッジプレゼント)。まさに草の根活動です。思わずフォロー&RTしちゃいましたよね。二段階のゲリラが個人的に好きでした。

聞けばWHITEHOLEは、この時点でデビュー2週間ほどだったそうです。大御所が集まりながらも、ニュービーも混ざってステージに上がっていた。こんなところも、DIVE XRが「横並び」だったのだなぁと思わされた次第です。

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