第9話 第三帝国
あっさじーんさんが星になってから約3ヶ月後。私は、彼の事業の調子が気になっていた。
その事業とは、中古ゲームソフトをe-bayで海外へ転売するものだ。ちなみに毎月3割売れるらしい。よく意味がわからない。
彼は、ブランド品を買い占めるタイプの転売には手を出さず、こういったリサイクル要素のある有意義な手段で経済を回す。世界規模で考えられる彼らしい副業である。
心から彼の成功を応援している私は、事業の話を聞きたくなり、セットを立てることにした。
もちろん、それまでの"お気持ち"はすでに全て表明していただいている。
私 「あさじんさん、こんにちは。10万円分の融資のあと、転売の調子はどうですか?」
あさ 「転売の商品が20万円分くらいあったのですが、いま22万円分くらいです」
彼は母国語を話し始めた。
私 「すみません、意味がわからないので、別の表現でお願いします」
あさ 「商品が22万円分あるということです」
この後、私の求める答えを引き出すまでに30分ほどかかった。
要点をまとめると、
・融資された10万円の他に、それまで扱っていた商品が10万円分あった。
・当時合計20万円分あり、3ヶ月を経た今は23万円分の商品がある。
・円高という予想外(?)の弊害により、利益が減ってしまった。
・金欠のため、生活費として一部使い込んでしまった。
私は(これは介護士としての職務の範疇を超えそうだ)と思ったので、話題を変えることにした。
私 「いまMF四麻の面子を集めているんですが、木曜17時から3時間くらい一緒にどうですか?」
あさ 「鐘無」
暗号が返ってきた。
私 「負けたらお気持ちは貸しでいいですよ」
あさ 「はい」
機械のような返事だが、その裏側には確かな喜びを感じ取れた。
*
今回のセット面子は、かもしん如来、あっさじーんさん、私、そして初参加のたわし君だ。
たわし君は麻雀界では言わずと知れたインモラリストだ。彼についての説明は重大なコンプライアンス違反になるため割愛する。
飲酒時と麻雀時は暴れるので、彼からあっさじーんさんを守ることも今回の私の職務の一つだ。
この日のルールは「マイティフィーバー四麻」を採用した。
通常の四人麻雀に「白マイティ」を追加し、さらに「フィーバー」を採用したものだ。
フィーバーとは7の暗刻をもってリーチをすると、全員ツモ切り状態になり、リーチ者は流局まで何度でもアガれるというまたしてもトンデモルールである。
要はスロットを麻雀でやってみましょうという試みであり、脳みそを1ミリも稼働させないエクストリームスポーツだ。
こういった脳がはじけそうなルールを考案するのも、介護士としての仕事の範疇だ。
あっさじーんさんがこのマイティフィーバー四麻を気にいるかどうか、、、そんなことは火を見るよりも明らかだった。
*
正直に言うと、マイティ東天紅における彼の挙動はすでにマンネリ化しつつあり、私はさらなる独創性を求めはじめていた。そして彼は私の期待に答えてくれた。
まずは私に手が入り、フィーバー立直をお披露目した。フィーバーの連続ビンタにより、あさじんさんは意気消沈し、だんだんとダウナーに突入していった。
釈迦とたわし君からもどんどんリーチがかかる。マイティ牌があるため、すぐに聴牌するからだ。
聴牌しやすいのはあさじんさんも例外ではない。しかし、彼の場合は手そのものをお披露目してしまうという弱点があった。
「あっ!!!!くそっ・・・どうする・・・?ドウスル・・・」
「リーチか?!・・・いや!ダマだ!!」
アトミックテンパイだ。まるで麻雀漫画の心理描写を読んでいる気分になる。同卓者を楽しませようという彼なりの心遣いだ。
そんな徳積みのおかげか、あるときを境に彼にも手が入るようになった。
「ンン!ンンン~~~~~~~」
突然の発音練習が始まった。発音記号でいうと[m]だ。
「 おっ!!おっ!!おうっ!!!!!!!!!! 」
まるで雷に打たれたような表情をしている。発音記号[ɔ]の見本だ。
「んえああああ!!!!!!!!」
泣き崩れた。これは[ə]。もはやどんな手なのか想像も付かなくなってくる。
あさ 「ハァ・・・オチツケ・・・オチツケ・・・」
発音練習を済ませた彼は、キアラルの呪文を唱え始めた。。。
数十秒ほど唱えたのち、徐々に冷静さを取り戻していった。というより、むしろ別人が乗り移っていた。
あさ 「 Fever 」
かも 「ジークハイルじゃん」
私 「あさじんさん、そのポーズはあまり良くないよ」
あさ 「うるせぇ」
白を引いた衝撃で前世の記憶を取り戻したのかと思った。
たわし君は笑い転げている。
あさ 「フィーバー」 彼は繰り返した。
ルールに従って我々はツモ切り状態になり、かもしんさんが一発で放銃した。「ロン!!!」 統率は叫んだ。
私は点数を計算し、あっさじーんさんはとてもじゃないが描写できないような恐ろしい顔で、12000点3枚を永遠にアガりつづけた。
*
スーパーアーリア人となった彼はいつもの猿レベルではなく、人間レベルとして戦うことができ、ほぼトントンの成績を残した。一仕事終えたような清々しい表情をし、我々は焼肉屋へ向かった。
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【 第10話 期待値の鬼 】
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