【マンション麻雀】 退場させられた男 退場編
【 これまでの話 】
退場させられた男 前編
退場させられた男 中編
その麻雀ルームは殺風景な部屋で、10畳ほどの広さに1台のアルティマといくつかの観葉植物が置かれているだけだった。
私は扉側の席に座り、下家にスキンヘッド楠木、対面にジョブズ、そして上家に佐藤という並びになった。これで16回戦という取り決めだ。
お気持ち清算はすべてチップでやり取りをする。
これは私の通うハウスと同じ方式だ。あらかじめお気持ちをチップにしておけば「払えません!」などということは起こらないので、プレイヤーは安心して遊戯に集中することができる。
チップは青色が3p、白色が10p、黒色が30pの3種類を使い、それぞれカゴに300p以上入れてサイドテーブルに置いていた。祝儀も清算もすべてチップで行なえるのは便利だ。
「3ポイントと30ポイントのチップって似た色ですね。気を付けないと間違えちゃいそうだなぁ」
私が感想を漏らすと、佐藤が謝ってきた。
「ごめんね、作ってから思ったんだけど、間違えやすいよね」
「え?佐藤さんが作ったんですか?」
「うん。僕はここのオーナーだよ。」
最初に言えよと思ったが、私の「ここはフリードリンクなんですか?ドクペないかなぁ~」というお願いにドクペをオールインしてくれたので許すことにした。
*
初戦からそれなりに手が入っていたジョブズは、押し上げる爆運に乗って和了りまくり見事にトップを獲得。とても上機嫌にビールを給油していた。
しかし、ある1回の放銃から態勢を一気に崩すことになる。
2回戦 オーラス0本場 3巡目 ドラ6m
序盤、下家の楠木が3pを赤含み345pでチー。5sを赤含みでポンの2副露。
3着の楠木は2着の親番ジョブズまで7000点差あり、着順アップのためには満貫 or 3900直撃が条件である。
しかし、楠木とラス目の佐藤の点差もわずか3500点であることと、楠木の手が3900点2枚だった場合は祝儀の6ポイントも大きいということも考えると、私から和了ることも十分あると見るべきだろう。
私は放銃の6ポイントを払っても+30ポイントを確定させることが最善だと考え、スキンヘッド楠木にアシストしに行くことにした。どうみてもカタギに見えなくて恐いからではない、点棒状況的な理由が100%だ。
本当は6mを切りたかったのだが、持っていなかったのでドラ表示牌の5mから。楠木はこれを一瞥してスルー。
次巡は4mをプレゼント。残念なことにマンズはもうこれしか持っていない。
楠木は4mをチラ見してスルー。テンパイ率はより高くなった。
同順に楠木は右端から手出し7p。「次はピンズでも切ろうかな~」などと考えていたところで、ジョブズが6巡目に切った4mにロンの声がかかる。
ジョブズは舌打ちをしながら「うわ!もうかよ!」と点棒を投げた。
彼はパーなので、私の4mに合わせたわけではなくただ要らなかっただけだろう。
問題は、楠木がいまツモった牌が右端に置かれたままであり、7pは空切りだったということだ。つまり私の4mを見逃したのである。
本来、直撃を狙うのならツモ切りにしたほうが出やすいだろう。おそらく下家のスキンヘッドは、私の4mを見逃して直撃を狙ったことが露呈すると、ジョブズにキレ散らかされるリスクを考え、あえて手出しして「今たまたま張っただけで狙い撃ちしてないですよ」アピールを優先したのではないかと考えられる。
このときは少しの違和感があったものの、「もしかして美味しい面子か?」程度にしか思っていなかった。
*
ジョブズが5000点棒を放り投げると、その勢いが止まらぬうちに楠木が1100点キャッシュバック。待ってましたと言わんばかりの阿吽の呼吸である。
「着順込みで16ポイントね」
「わぁーっとるわ!!」
楠木が申告すると、ジョブズの頭の湯はすぐに沸騰した。河童だったら瀕死だっただろう。
彼の故郷のシンボル通天閣のように丁寧に積みあげられたチップも、ジョブズが手を思いきり突っ込んだことによってガラガラと崩落してしまった。
ぐちゃぐちゃのカゴからジョブズが投げたチップを見ると、10pの白チップ1枚と3pの青チップ1枚、それに30pの黒チップがそこにあった。合計43ポイント。青と黒を出し間違えている。
フリー雀荘での数百、数千程度のお気持ちポイントなら訂正するところだが、ここはとても大きなお気持ちが込められた場。指摘して顔が恐い楠木の反感を買うのも恐いし、そもそもジョブズの自己責任である。
難しいシチュエーションに遭遇し、私はトムドゥワンのように考えこんでしまった。
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