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たくさんの好きとたくさんの嫌い/ヤマシタトモコ「Love,Hate,Love.」

つい先日のこと。とても大好きだった人が、ふと呟いた。

「好きな人と一緒に住みたい」

どうして?と尋ねると、その人はこう言った。

「洗濯物の畳み方が僕と違ったりするかもしれない。そんな些細な発見で笑いあったり。僕が知りたいのは、そういうことなんだよ」

私は人と住むのが苦手だ。生まれた時から一緒に住んでいる家族ですら(家族だから、という乱暴なくくりは嫌いだし、家族だからと言ってなんでも許されるわけではないが)厳しかった。一人を愛し、これからも命ある限り一人で生きていくのだろうと漠然と思っている。残念なことに、寂寥感や焦燥感もない。

だから、あの人が言った言葉にはとても驚いた。

あの人はそういうことが知りたかったのか、と。気づけなかった私はなんて愚かなのだろう、と。

「Love,Hate,Love」はヤマシタ先生の話の中では異色と言ってもいいほど甘酸っぱい。自分の才能の限界を知ったバレエダンサーと、52歳の大学教授のピュアな恋愛物語。貴和子と縫原のちぐはぐな恋模様を見ていると思う。「知りたい」という気持ちが恋なのだろう、と。

知りたい気持ちが恋ならば、私はどうすればいいのだろう。どうすれば、きちんとあの人を好きになれるのだろう。どうすれば、この気持ちをきちんと説明できるのだろう。どうすれば、終わりが訪れるのだろう。

貴和子は縫原に出会って、好きなものと嫌いなものが増えていく。これからも好きと嫌いを繰り返して、縫原のことをもっと好きになっていくだろう、と彼女は思う。

私も、たくさんの好きと、たくさんの嫌いを抱えて生きている。

私が好きなもの。夏が追い出されていく気配と、祖父母の家の屋根で感じた風、自転車に乗りながら見る夜空、それから、片膝を立てて食べるバニラアイス。

私が嫌いなもの。早起き、朝ごはん、人がたくさんいる場所、あの人に選ばれなかった私、選ばれようと努力をしなかった私。

私にとってあの人は、好きと嫌いの間にいるのだと思う。

ふたりの行く末に、あの頃の私たちの未来を重ねてみる。きっと訪れない、訪れなくていい未来に、少しだけ胸が痛んだ。

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