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恋人と趣味を共有したいですか?

高校の保健の授業で先生が言った。どういう流れかは全然覚えていないけれど言った。
なぜ保健の授業でそんな話になるのか。ワークライフバランスとかQOLとかそういう感じのことが発端だった気がする。
新婚で幸せ満開をさらけだしていた先生が、単にどちらかを発表したいだけだったのかもしれない。
先生はどっち派だったっけ。
このあとクラス一箱分のみんながどちらかに手を挙げたけれど、私はどっちだったっけ。
「えーどっちにする?」
「どっちかなー。」
「でもさー。」
と、周囲の席の子たちと盛り上がった記憶だけがある。

ぶっちゃけ、付き合ってみると、ヒトとモノによるのだと知った。
当たり前か。
相手の趣味のなかでも共有できるものとできないものがあり、自分の趣味のなかでも共有したいものと干渉されたくないものがある。共有の度合いにもよると思う。
ふむ、当たり前だな。

私たちは今のところ共有派だと思う。
「積極的共有」というより、干渉してくれるな!一人で楽しみたいんだ!というようなことはないし(、干渉したくない!ということも特にない。)
というより、「私の趣味」は共有されている。
私たちは趣味への態度も、そもそもの趣味の種類もあんまり似ていない。
例えば、彼はドアの外に心の安らぎを求める方で、私は逆だ。
そういう点でもどちらかというと私に合わせてもらっているのだ。
全部ではなく、一部だけど(という自己弁護をいれたい)。

私だけが大好きな漫画やアニメの展示会も誘えばついてきてくれるし、グッズのガチャも一緒にひく。なんなら率先してひいてくれるときもある。
私にはできないかもなあ。
もしかしたら、彼はとてつもないギャンブラーで、「ガチャをひく」という行為自体に快楽を感じているのかもしれないけど。

そういえば、付き合ったばかりの頃、彼は言った。
「百さん(私)の趣味を僕も一緒に楽しみたいから、おすすめの本貸して?」
そんなホイホイに引っかかった私は、もう丸2年も彼に本を貸している。進んでいる気配は一向にない。読む読む詐欺である。借りパクである。
私は同じ小説を何度も何度も繰り返して、カバーやページがボロボロになるまで読みたいので、貸した本はたまに返してもらう。でもまた貸す。
よくわからないサイクルを繰り返している。

読む読む詐欺だと気づいたときはとても悲しかった。付き合った頃は「大好きだから私の趣味を共有したい!!」の位置に点打った愛情グラフが、「そこまで好きじゃないから、まあどうでもいいやーー」までぐぐぐっと落ちたんだなと思った。
でもたぶん、ただ単に私は小説を読むのが好きで得意で、彼は苦手なだけだ。
それに気がついてからは、おすすめの本の紹介や貸出という形ではなく、別のカタチで趣味を共有している。
ただただ溢れ出るネタバレと私の感想をぶつけるというカタチ。
苦手に寄り添ってくれる頑張りも嬉しかったけれど、私はこのカタチがもう十二分に嬉しい。
私は、一度小説の世界に入ったらかなり奥深くまで浸ってしまい中々出てくることができない。
それは単に私がなんでもナニカの影響を受けやすいからかもしれないし、現実からは影響を受けたくないのだという頑固さの反動かもしれないし、現実逃避として小説世界を使っていた名残なのかもしれない。
感情も多分に影響を受けて抜け出せなくなる。
ハッピーエンドで満腹感と幸福感しかない小説はそれでいいけれど、もやもやしたり悲しくなったり、はたまた言語化できないような沼ができたりする。
その吐き出し口が彼になった。
私の断片的なあらすじまとめと、支離滅裂なめくるめく感想と思いとを最後まで聞いてくれる(もしかしたら話半分かもしれないけれど)。
そして最後の、喉元に突きつける短刀のような「どう思う?」にもきちんと答えてくれる(もしかしたら適当かもしれないけれど)。
それが私を現実に戻す。
そうか、そうなのね。そういう意見もあるね。そうか、あの世界はフィクションだよね。というふうに。
つまりは彼がいるところが今のところ私にとっての現実なんだと思う。
同じ世界に入って、感想を言い合う関係にも憧れたけどこれはこれで趣味の共有かもしれない。

………いや、違うな。押し付けだな。

眠れない夜でも、明かりを消したあとはもう小説(紙媒体)は読むことができない(できないというかめんどくさい)。だから電子漫画を読む。
眠れない夜はなぜかネガティブな内容ばかり気になって、さらに眠れないという見事な悪循環をうむ。なんてことだ。
そんなとき、自分がどんなに眠たくても私が寝ていないことに気がついたら、笑わせ、きちんと現実世界に戻してから寝かせてくれる。近くにいても遠くにいても彼は私の枕なんだなー。

noteで、なにか普遍的な話をしたくて、スタートをきったつもりでいても、結局いつも私にとっての特別なゴールに落ち着いてしまう。
それだけ私はたくさんのものをもらっているんだな。
どうやら私はもらってばかりらしいな。





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