ウチを見に

カーテンの隙間から漏れる日差しで朝が来たことを知る。アラームに先回りする稀有な朝。

内見へ行く。最寄りと職場に線対象な位置にある駅へ。最寄りから電車で1時間はかかるにもかかわらず、どこか足取りは軽い。現地集合であるから、生まれつき方向に音感のない私は若干の不安を抱いてはいるのだが。

物件の近くには川があるらしい。それが惹かれるポイントで、つまり私は水を見る生活がしたいのだ。
川はすべて海へと繋がる。とある文筆家の言が頭の中を過ぎる。そして、女と入水した作家の顔。

内見した物件は3階建て鉄骨造マンションの2階で、階段のすぐ隣にある部屋だった。上階の住人の上り下りが気になってしまうことが容易に想像つく。
清掃前だからかところどころ薄汚いが、わりに良い物件であった。
住人に餌付けでもされているのか、猫がこちらを警戒もせず駐輪場の柱で股をかいてる様が特に良かった。
案内してもらったヤマダに諸々の自分の情報を渡し、良い物件があれば連絡をくれるという約束のもと別れた。

川へ向かって歩き出す。川を一望できる場所があるか。それがなにより問題なのだ。のろりのろりと足を前に進めるにつれ、川の全容に近付いていくような心地がした。そして、突如として出現する壁。右を見ても左を見ても、壁。面前には壁のみ。
背丈を超えるだけのコンクリートが川の眺望を閉じ込めていた。いや、閉じ込められたのは私の方か。

残念だが、この物件ではない。

この記事が参加している募集

最近の学び

この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?