夏野ある

夏野ある

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胸に星の破片

25歳、夏、私の胸に蕾ができた。 文字通り、花の蕾だ。痛みはない。 どうやらこれから私の胸に花を咲かせるつもりらしい。 傲慢にも程がある。 その蕾を見つけてからというもの、私は漠然と、「花が咲いて枯れる時、私は死ぬんだな」と思うようになった。 小さい頃から私の胸には「しこり」があった。 胸といっても胸骨のちょうど真ん中辺り。小さな小さなしこりだ。成長するに従って、そのしこりは少しずつ膨らみ、そしてある日芽を出した。 それから25歳の今に至るまで、厄介な生命は私と共にあった。

    • 『六畳、白紙、文字を摘む。』

      「六畳、白紙、文字を摘む。」 白紙が私を部屋に閉じ込めた。 9時を少し過ぎた頃、私は起きて霞んだ目で真っ先にスマホを見つめる。大学の講義がちょうど始まった頃だろう、出席点のある授業だったが、焦ることはなかった。二度寝をしようか迷ったが、5分ほど天井を見つめた後でトイレへ向かった。 大学に入学したはいいが、正直やりたいこともないし、今更授業に出なくても別によかった。 私は、漫画家になりたかった。幼い頃に観たアニメはいつも私の手を引いて、現実から遠ざけてくれた。私が逃避した先

      • 「好きなことがあること」について

        物心がついた時から「ゲーム」は存在していて、特に小学生の頃、放課後の遊びといえば外でサッカーをするかゲームをするかだった。 ただ、ゲームは時に「悪者」としても存在していて、親からは「勉強しなさい」かもしくは「外で遊んできなさい」とばかり言われていた。そして「ゲームはするな」と言われていた。 勉強も外で遊ぶことも好きではなかった当時の僕は、漠然と「好きなことをしない」ことこそ正しいような、感覚があった。(とんでもない極論だが。) なんにせよ、勉強をしとけば怒られることはなかっ

        • 全知全能の大人は誰一人として

          これは自分でもわからない感覚なのだけれど。 子供の頃、大人はなんでも知っていると思っていた。なんとなく生き方のコツのようなものを掴んでいて、過去の経験を元にして未来のことを想像していた。例えば、学校から帰ってくると「今日体操服洗うよ!」と言われる。着ていたのは私で、学校に行っていたのも私なのに、学校に行っておらず着てもいない母親の方が体操服を洗わないといけないことを知っている。これは、母親が時間割をチェックしていたことや、朝体操服を持たせたことに由来しているのだろう。 し

        胸に星の破片

          ヒブンショウ

          文字、いつも、眼前、飛び交う。うざ。謎。 何故? 気持ち?自分の。もしくは他人の。 邪魔だな、考えてること飛ぶのよ。嫌だ嫌だ。音が聞こえるなあ、ブ〜ン、黒い文字、青い縁取りのイモムシ、モヤモヤ、

          ヒブンショウ

          カンヅメ

          電話を切ってすぐ、かけてきたジジイの名前を忘れて以来、常にメモとペンを持って生活しないと不安になるタイプの人間になった。 私は俗に言う「メモ魔」で、なんでもメモを取らないと気が済まないタチだ。レストランに行くと、食べたいメニューは全てメモを取る。ハンバーグが乗った鉄板の右上が牛の形に浮き上がっていたとか、和風おろしソースにしたとか、そういうことをメモしていく。食べてる時間よりもメモを取る時間の方が長いことはもちろん気付いているのだが、「食べてる時間よりもメモを取る時間の方が