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『骨ん中の繭』

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このフィクションが、どうか、どこかの現実で出現しますように。  令和6年5月12日 吉田昂平。
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2024年6月の記事一覧

13.『同日 谷田遥香②』

 寂しい横顔に突き刺さるジョークの一つでも。わたしが今できることは笑わせること。佐伯がわ…

吉田昂平
1か月前
1

14.『同日 加藤瑛眞②』

 電灯がカカカと音を立てている。空は相変わらずの色で、雲にオレンジが急速に、着実にじんわ…

吉田昂平
1か月前

15.『同日 谷田遥香③』

 –––蝉って意外とこの時間帯にも鳴きますよねえ  雨が降り出していた。窓にへばりつく雨…

吉田昂平
1か月前
1

16.『花火大会前日 加藤瑛真』

「おいで」  エイマは白いカゴの中の枝をチクチク歩いて「おいで、おいで」と私の言葉を繰り…

吉田昂平
1か月前
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17.『花火大会前日 大原志乃』

 この町であんな事件が起きたなんていまだに信じられない。  7月31日午後18時30分頃…

吉田昂平
1か月前

18.『花火大会前日 谷田遥香』

「慧くんのこと好きじゃないかも」  瀬下は緑のジュースを口から吹き溢してしまった。買った…

吉田昂平
1か月前
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19.『花火大会前日 谷田遥香②』

 –––じゃあちょっとだけ質問。リラックスして答えてね 「はい」  瀬下には申し訳なかったがなんとかいてくれてはいる。  荻さんとモヒカンにわたしは挟まれて、向いには志乃ちゃんとモジャモジャ、瀬下が真ん中で挟まれてる。なんか緊張する。  –––まず、名前と、年齢。趣味とか、あと特技とかあったら  テーブルに手持ち用カメラ。やっぱり、すっごく緊張する。 「谷田遥香15歳。趣味は散歩と、あと映画鑑賞とか音楽鑑賞とか、です」  –––特技は? 「特技は、えっと」  –––難しく考え

20.『花火大会前日 谷田遥香③』

「で、まだ言いたいことある? 無いなら帰れば?」 「言われなくったって帰るっちゃ!」  席…

吉田昂平
1か月前

21.『花火大会当日 山本健介』

 花火大会当日 山本健介  いってえ。蹴られたとこがいてえ。でもなんか、生きてるって感じ…

吉田昂平
1か月前

22.『花火大会当日 両野彩花』

 同日 両野彩花  –––こぽんこぽん、あわの音。こぽんこぽん、あわの音。  もう苦しく…

吉田昂平
1か月前

23.『北沢靖人の日記』

 同日 北沢慧  ボールは後ろへ転がっていく。勢い余って尻もちをついた。地面はかたく、…

吉田昂平
1か月前

24.『花火大会当日 北沢慧』

 チャイムの音がした。背中にびっしょり汗をかいていたから階段を降りて、着替え、玄関に向か…

吉田昂平
1か月前
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25.『花火大会当日 大原志乃』

 同日 大原志乃  慧くんはこの浴衣の色のことなんて言ってくれるだろう。褒めてくれるだろ…

吉田昂平
1か月前

26.『花火大会当日 谷田遥香』

 同日 谷田遥香  口の中は甘い。頭の中は台詞が犇きぐるぐるうるさい。シーンはこの町で起こった本当の出来事の断片のよう。  本当の出来事に台本の出来事が絡まって、自分と瓜二つの虚像が事実の近くで暴れ、ほつれていく。  シナリオや場面が視界や思考を歪ませる。歩くと少しは楽になるけど家に帰ると蘇り、ご飯を食べるとき、寝るとき、湯船に浸かってるとき、話しかけてくるように側にいる。おかげでここ数週間は毎日撮影のことを考えていられたけどそろそろしんどい。はやくこの歪みを吐き出さなけれ