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雨の色 #旅のようなお出かけ

雨の中見渡す景色は灰色に鈍っていた。

こんな日には決まってあの言葉を思い出す。


「私、雨の色が好き。」

雨の色。その言葉を聞くまではそんなこと考えたことも無かった。

「雨の色って透明じゃないか。」
すると彼女は微笑んでこう答えた。

「透明だけど透明じゃないの。雨はその時の世界を映し出してるんだよ。」と。

「雨に映る世界は現実よりも美しくて、鮮やかになる。だから、それは雨の色なんだよ。」とも。

海へ行く約束をしていた日は、朝からどんよりと曇っていた。
今にも泣き出しそうなねずみ色の空を見て
「雨の海もきっといいよ。」そう言いながら彼女はクルマの助手席に座った。
「そんなもんかな。」呟きながら僕もクルマに乗り込んだ。

ポツポツと降り出した雨は海岸沿いのパーキングに着く頃には、ザアザアと音を立てるぐらいの本降りに変わっている。
空と海の境目も分からない。
そんなくすんだねずみ色の景色を、2人ぼんやり眺めていた。

しばらくそうしていると、彼女がふと
「思ったとおり。やっぱり雨の海もいいね。」
そう呟く。僕は内心、そんなことは思っていなかったけれど「うん。悪くないね。」と答え、また外の景色に目を移した。

雨が小降りになると彼女は、傘もささずにクルマを降り、砂浜へと歩いていった。
僕が慌ててクルマを降り、彼女を追いかけると、
「ちょっとだけ待って!」と、大きな声で彼女が言った。
風邪ひいたらどうするんだよ。そう思った時、
雲の切れ間から太陽が顔を覗かせ、ねずみ色の世界が徐々に虹色に変わっていく。

波打ち際で振り返った彼女に目を遣ると、
彼女を包む優しい雨も虹色に変わっていた。

このまま時間が止まればいいな。

そんな気持ちを飲み込んで僕は言った。

「そろそろ帰ろう。」と。

何故かと言えば、こんな彼女が大好きだったし、

これからの長い時間一緒に過ごしていきたかったからだ。



僕は雨の色を少しだけ知った。


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