書評:アウトサイダー・アート入門 (幻冬舎新書)
書評:アウトサイダー・アート入門 (幻冬舎新書) 椹木野衣(さわらぎのい)著
美術書籍の評価を勉強する上に、購入するには良い
著名な著者だが、美術書籍の評価を勉強する上に、購入するには良いのかも知れない。そして、タイトルが、「アウトサイダー・アート入門」ではなく、例えば「表象文化概論」、または、その一端的なモノであれば、良いのかも知れない。
本稿では、この書籍「アウトサイダー・アート」の部分についてのみ、評させて頂きたい。
著者の視点だが、戦後アートへの批評・評価へ向かい、その視点の先はともかく、本稿では、この書籍「アウトサイダー・アート」の部分についてのみ、評させて頂きたい。
率直申し上げて、この書籍はアウトサイダー・アートの全体像を押さえていない。
そして、アール・ブリュット(Art Brut)」とその流れにある、ほぼ同義語であるアウトサイダー・アートの定義的にも、理論的な構成がどうなのか(?)。
学会誌であれば、査読者の困惑を感じるし、幻冬社の編集者の校閲のご苦労も感じる。
そのポイントを挙げると・・
第1章 「老人たちの内なる城」
第1章 「老人たちの内なる城」として、フェルディナン・シュヴァル、サイモン・ロディア、ヘンリー・ダーガーを扱っている。
果たして、なぜ、このタイトル「老人たちの内なる城」なのか?
第2章 火山学の三松正夫
第2章 火山学の三松正夫について言えば、筆者は著名人との閾線はどう認識しているのか?そして、宗教家の出口なお・王仁三郎だ、この部分の記述も表面的だ。著者は、メインの職籍が教育者であるからこそ、宗教団体である大本教においても、正確に理解して、ていねい扱う必要がある。他学のことだが。
第3章に於ける、田中一村
第3章に於ける、田中一村(高度な美術教育を受けた上での画壇からの逃避し孤高の人となる)をピックアップは?どうなのか(?)、それのあたりから、筆者の知りうる視点で書かれている、その田中一村の関連としての奄美大島のハンセン病の医師の姿や、そして、最後は、山下清だ。そして、山下清とMoMAとを比較するような言動で締め括る。
山下清とMoMAとを比較する
「山下清と八幡学園(福祉型障害児入所施設)の子どもたちをして、世界の美術の殿堂ニューヨーク近代美術館(MoMA)に拳を突きつけよ。それこそが、来るべき新しいアートの世界への扉を開くための鍵となる」
そう言った内容の書籍だ。
学生が、美術書籍の評価を勉強する上に、購入するには良いのかも知れないが・・他のアウトサイダー・アートの書籍とは次元違う。
率直に申し上げて、
田中一村の項目において申し上げれば、では、ゴッホ(生存中は厄介者だ)はどうなるのか?
ここでアウトサイダー・アート(アール・ブリュット)の定義をあらためて、考えて頂きたい。
(日本の芸術世界でのゴッホの入り口は、白樺派の図版だろう、それは、欧州で著名人だからすごい!という事だろう、なぜなら、ゴッホの評価が欧州でも、まだ、確立されていない時代だからだ。)
その辺りから、体系化は難しいし、入門書にしては、全体像を押さえていない。
そして、日本では、アウトサイダー・アートの歴史はないと言えるかも知れない。それは、美術界の人々の差別化ではなく、アウトサイダー・アート(アール・ブリュット)を必要としてこなかったからだ。
山下清は、仕事として絵を描いている(対価がおにぎりにしても)
繰り返しになるが、アウトサイダー・アート (光文社新書/2003-) – 服部 正 (著)からの引用として、「パラレル・ヴィジョン」(Parallel vision: Modern Artists and Outsider Art/20世紀美術とアウトサイダー・アート)世田谷美術館-1993、この時点が、国内でのアウトサイダー・アートの認知された記述が見られる。「著者の服部正氏が言うから、それは正しいのだろう」(p14)、ではなく、椹木氏の、いつものご自身のアプローチで、自信を持って語って頂きたいのだ。参考文献の多さもさる事ながら、他の書籍からの引用も多い。ただ、高等教育機関(大学)のスタッフで、また、出版社に勤務され美術評論も、ご専門であるが、詳細な専門域が異なるのだろう。
そして、前述したが、アウトサイダー・アート入門というタイトルでは、なく、例えば、表象文化概論系の一旦を担うタイトルであれば成立する内容かも知れない。
(追記)このアウトサイダー・アート(アール・ブリュット)の世界は
このアウトサイダー・アート(アール・ブリュット)の世界は、もっと、繊細で、泥臭い人間的な部分が満ちており、それは、今も展開されている。入門と言えども、簡単にまとめられないのだ。
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