VS !!“若頭”との壮絶な死闘!!
人生において「勇気を振り絞った」ことって、きっと誰もがあると思う。
・リスクを受け止め、挑戦した。
みたいな大きな話から、
・怒らせるかもしれないけど、思い切って言ってみた!
みたいな、身近な例まで色々あるが、今回書くお話は後者のタイプであり、俺の体験談だ。
これを読んで、あなたが勇気を出す時に後押しになればいい…、
などとはまったく思ってはおらず!(笑)笑い話として楽しんでもらえれば嬉しいのである。
この手のリアル体験、ノンフィクションネタ、前回は、
「G」との壮絶なバトルだったが、今回は…、人間相手です。
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25、6歳の頃だと思うが、俺は当時、新宿駅東口付近にある飲食店でアルバイトをしていた。
バイトとはいえ、フル出勤で、途中から社員が不在のような店になり、店長業務もこなす本気バイトだった。いざ働くとなると、なんでも本気でやってしまう、実は超真面目なケンスケさんなのだ。
その店は、新宿東口という、飲食店としてはかなりの激戦区にあり、連日、大変な忙しさだった。ランチタイムも、夜も、ウェイティング(待って並ぶ人)が毎日当たり前のお店。
新宿東口は歌舞伎町も近く、とにかくいろんな人種が来る。サラリーマン、学生、カップルはもちろん、出勤前のキャバ嬢とか、もっといかがわしそうな人、ホストクラブのおニイちゃん、性別不明な男性(?)とか。人物観察が好きなので、俺はけっこう楽しんでいた。
世代的には、比較的若い人が好む店だった。それもそのはず、その飲食店は“ステーキハウス”だったから、年配の人はまず来ない。
ただ時々、ガラの悪い連中も来る。まあ、ある程度はこちらも慣れているし、新宿という場所柄、仕方ない部分はある。
俺がその店に入って、半年くらいの頃の話だ。その時は社員もいて、俺は悠々とシフトをこなすだけの、あまり責任のない立場のフリーターだった。
ある昼下がり。満席のランチタイムに、かなり“たち”の悪そうな5人組が来た。明らかに、誰が見ても「堅気(かたぎ)」ではないとひと目でわかる連中だ。
「おい、5人だ!」
その中の、一番下っ端らしいチンピラが他に並んでいる人がいるにもかかわらず、店の中に入ってきてそう言った。対応してた女性スタッフはおどおどとしていたので、俺が出て行った。
「申し訳ありません、ただいま満席となっておりまして、こちらにお並びいただいております」
丁寧に言う。
「ああん??」
チンピラが眉をしかめる。
「おい、俺たちに並べってのか?ああん!」
いちいち顔面を引きつらせてすごむ。もし、事情を知らない人がただこの男の顔だけを見ると、顔面神経痛かと思われるのではないか?
「申し訳ありません。ただいまお昼時でして、皆様にお待ちいただいて順にご案内とさせていただきます」
口調は丁寧だが、俺は堂々と言った。こういう時は、あまり下手にでると向こうが図に乗るからだ。ぶっちゃけ、そのチンピラの態度にむかつきつつ、さすがにヤクザもん5人、内心超ビビりながら、毅然な態度を貫いた。
その時、並んでいた数名がちょうど入れ替わりで入り、ウェイティングの客が減った。
「〇〇さん、並ばないと入れないそうっすよ!」
奥にいる兄貴分らしき男に向かってチンピラが言うと、
「ああ??!!」
と、俺が話していたチンピラより、少しだけ偉そうな、サングラスをかけたチンピラが俺を睨みつけながら言う。
「…っざけんよ!。どういうことか説明しろや!ちっとこっち来いコラ!」
と、俺を呼びつけるので、俺は店の外に出て、入り口通路へ出た。
(うわぁ〜、やっべ〜)と内心は焦りつつも、
「はい、なんでしょうか?」
と、毅然と振る舞った。我ながら、いい役者っぷりだ。昔から、腕っ節が弱いがハッタリと知能戦だけで、ヤンキーだらけの高校生活をエンジョイしてきただけはある。
「おめえなぁ。うちの若頭にこんな所に座って待てっつってんのか?ああ!この辺で営業しながら、よくそんなナメた口利けるなぁコラ!」
サングラスを少し下げて、顔を近づけ、上目遣いで俺を睨みながらすごむ。背は俺よりもずっとチビだったが、腕や肩の筋肉が隆々と盛り上がっていて、確実に肉弾戦をしたら、幼い頃から「もやし」と呼ばれてきた俺は瞬殺されかねない相手だった。
しかし「申し訳ありません、ただいま、お席の方が埋まっておりまして…」と、それを繰り返すしかない。
「おい!うちの若頭に恥かかせるっつーなら、こっちもちょっと考えるぞこら!」
と、後ろから、最初のチンピラが、明らかに普段から何も考えていないこと丸出しの顔ででかい声で怒鳴る。
ランチにステーキかハンバーグを食べようと、先ほどからずっと並んで待っていた大学生らしき男子2人は、明らかにビビっていた。リュックを抱き抱えるように座りながら、視線をオロオロとさせていた。店の中にも入れないし、入り口にはヤクザ5人。あまり生きた心地しなかっただろう…。今考えても彼らには同情する。
「おい!てめぇわかってんのか!あ?あ?ああ!?」
二人がかりですごまれる。俺は先ほどからこいつらが言っている、“若頭”なる人物をちらりと見る。明らかに、一人だけ連中よりも年齢が上の、30台くらいの恰幅のいい男性。ボスキャラだ。
(わ、若頭って…なんだよ…)
俺は思った。考えてみろ?これほど無茶な注文あるだろうか?“若頭”だ。若頭に恥などかかせるつもりは毛頭もないが、若頭は、満席の店に並ぶのは嫌だと。
若頭だ。ひらがなで書くぞ?「わかがしら」。「若白髪」でも「若鳥のかしわ」でもない。「若頭」だ。
普通に社会人生活を送っていて、一体以下ほどの人が「若頭」なる立場なり肩書の人と関係を持つだろうか?そして、若頭と相対する立場に追い込まれるだろうか?
困ってる俺に、思わぬ救いの手が差し伸べられた。
「まあまあまあ、よ」
なんと、若頭、その人である。
「にいちゃん、わかったわかった。店がいっぱいならしゃーねーわなぁ」
(お!話わかるじゃん!若頭!)
内心、突如現れた救いの神にほっとしつつ、
「はい、申し訳ありません」と答える。
「おめえらももういいじゃねえか?座って待とうぜ」
若頭がそう言って、チンピラたちも「はい!」と言って、大人しく座った。
俺はほっとしながら、「では少々お待ちください、只今メニューをお持ちいたします」と言って、一旦店の中に戻ろうとした。
しかし、その時、若頭の口から意外な言葉が飛び出した。
「おい、にーちゃん。こうして大人しく座って待っててやるからよ。俺たちに茶の一杯でも振る舞えや?」
さて、問題。
Q 若かりし美少年ケンスケさんは、その時どう思い、そしてどう対処したのでしょう?
・・・
・・・
・・・
・・・
・・・
。。。
・・・
・・・
・・・
・・・
では、回答。
なんと、若かりしケンスケさんは、若頭のその一言に、ひどくむかつきました。我が物顔で、横柄な態度を取る、その考え方、迷惑顧みない言動。自分たちが特別だと、思い上がったその言い草。
怖かった。まじで、怖かった。いかんせん、相手はかの有名な“若頭”だ。見た目も、その辺のチンピラとは違う、若頭にふさわしい、若頭として申し分ない貫禄の男。
だが、俺は先ほどと同じ、いや、さらにはっきりとした口調と、毅然とした態度で、勇気を振り絞り、こう言った。
「申し訳ありません!当店では、そのようなサービスはお取り扱いしておりません」
一瞬、場が静まりかえった。多分、若頭もたかがステーキハウスの店員が、そんな態度を取るとは思いもよらなかったのだろう。
(うわぁ〜、言っちゃったよ!おい!俺ってば、イっちゃったよ!どうなるんだ!おい!俺、大丈夫か!)
俺の心の中は葛藤の声が響いていたが、彼らの鈍い脳神経にも、ようやく俺の言葉の意味が届いた。
「な、なんだとぉ!!こら〜!!」
若頭、スタンドアップ!
若頭は持っていたセカンドバックを振り上げ、これまでの余裕のある態度を一変させて、狂気剥き出しの獣と化した。そして、それに合わせて、他の四人のメンバーも立ち上がり、
「てめえなめてんのか!」
「殺すぞコラ!」
「若頭ナメってとただじゃおかねえぞコラ!」
などなど、様々な怒声が店の入り口に響き渡った。店内を見ると、最初に対応した女性スタッフが心配そうにこちらを見ていて、奥に店長がいて、一瞬だが、こちらと目が合った(当時、視力は1・5あった)。
しかし、店長は熱々の鉄板の上で、ソースをハネ散らかすステーキを近くの席に運び、再びキッチンへ戻った。戻る時は、こちらを見て見ぬふりをしていた。
いや、確かに店長は腰抜けだが、問題は俺だ。
確実に、生命の危機に瀕していることは明白だった。なぜなら、俺は新宿の赤い彗星(今勝手に名つけた)の「若頭」を、本気で怒らせてしまったからだ。
俺はなす術もなく、ただ若頭に面と向かっていたが、横にいたチンピラが、まず俺の胸ぐらを掴み、そのまま俺を壁に叩きつけた。
ただただ、昼食を食べようと健気に座って待っていた大学生がすぐ横にいたので、壁に叩きつけられながら、目に入った。彼らは確実にオシッコはちびっていたと思われ、そろそろうんこも漏らすのではないか?と、脱糞まで秒読みという顔をしながら、あえてこちらを見ずに二人ともじっと自分の膝の上に視線を置いて、巻き添えを食らわないようにしているようだ。
いや、実はその大学生はいい。どうせ弱そうな若者だし、キンタマ縮み上がって、ちびっているだろうし、女にはモテなさそうだし、そもそもただの“お客さん”だし!
先ほどの店長と、もう一人、副店長の男性社員が店内にはいるのだ!なのに誰もキッチンから出てこようとせず、腰抜け店長と副店長は、俺が壁に叩きつけられてるのを知りつつ、今すぐにフルボッコにされそうにもかかわらず!なんならそのまま歌舞伎町にしょっ引かれて、美男子なので男娼として売られてしまいかねない状況にもかかわらず!!出てこないのだ。
「おい!この店はどうなってんだ!」
チンピラの一人が、入り口のドアを蹴りながら、店の中に向かって叫んだ。
そこで、ようやく店長が出てきた。あたかも、
(え?どうしたんすか?あまりに忙しすぎて、今気づきましたけど?)的な、超すっとぼけた顔と声色で。
「え、えーと、お客さま、どうかなされましたか?」
俺は、さっきはっきりと店長と目が合ったのを、忘れはしない…。
「おい!おめぇが店長か!ふざけんなよこら!」
チンピラの矛先が俺から店長に行ったが、一人、見過ごせない男がいる。そう、THE・若頭だ。わ・か・が・し・ら。十回クイズで「わかがしらって十回言って〜」とか、問題が出そうだが、上手い引っ掛け問題が思い浮かばない…。
いや、そんな話はどうでもいい。
新宿の狂犬、THE若頭は、チンピラが店長にすごんでいるのを無視して、つかつかと、俺に向かって歩み寄ってきた。
「おい、おめえ……。なんつうんだ?」
と、聞いてきた。一瞬、言葉の意味がわからなかったが、
「大島…ってんのか?」
俺のネームプレートをつまみながらそう言ったので、名前を尋ねていたのだと気づいた。
若頭は、ネームプレートを指で弾き、そのまま俺の頭の上に手をあげた。頭は、店のユニフォームでバンダナをつけていたが、バンダナをはぎとり、俺の茶髪ロン毛の髪の毛をわし掴み、ゆっくりと、でも力強く、俺の頭を壁に押し付けながら、耳元でこう言った。
「おめえ、この辺歩く時、気ぃつけろよ?な?わかったか?あ?」
俺は「は、はい…」と、壁に頭を押しつけられたまま答えた。すると若頭は、
「おい!行くぞ!こんな店で飯なんて食えっか!」
なんと、若頭は俺から手を話、チンピラたちにそう命じて、そのまま後ろへ振り帰った。
「はい!」
チンピラは、若頭に従順なので、店長に絡むのをやめて、先に歩く若頭に早歩きで着いて行ったが、俺の前を通り過ぎる時、
「お前、次見かけただけで殺すからな!」
「おい、俺たち相手にこんだけナメた態度とって、どうなるかわかってるよな?」
と、非常にこちらの心身によろしくない捨て台詞の数々を吐き捨てて、去って行った。
(ふひ〜、た、助かった〜…)と一瞬思ったが、あまり助かっていないような気もしたのは言うまでもない。なぜなら、次に連中に会ったら命の保証はないのだ。もともと、命の保証なんて見たことも聞いたこともないが、とにかく俺に関しては、新宿付近をウロつくことは、他の多くの人々よりも、はるかに致死率が高いことは間違いない…。
「大島君!なんか失礼なこと言ったのかい!」
店長に、そう詰め寄られたが、若頭とのバトル(?)を乗り切った後の俺には、ドラゴンボールで言うところの、スーパーサイヤ人に変身できる悟空が、メンバー最弱の餃子(チャオズ)の『どどん波』を食らうようなものだった。
そもそも、店長もなんとなく俺に引目を感じたのか、「まあ、何事もなくて、よかったな。うん。よかったよかった、はははは」と、笑って業務へ戻った。
俺は気を取り直して、ずっと座って待っていた男子2名に尋ねた。
「あ、まもなく、2名さまお入りになれますので、よろしければご注文をお伺いします!」
・・・・
いかがだっただろうか?あそこで、烏龍茶の一つでも振る舞っていれば、あんなに怖い目に合わなかったかもしれないが、俺は自分の取った行動になんら間違いはないと思っている。
確かにむちゃくちゃ怖かった。そして、ただ並んでいた可哀想な大学生男子や店長は気の毒だが、俺はあそこで、自分の意思を貫いた。あの理不尽な、身勝手な言動に、半分「キレた」のだろう。
しかし、よくまあご無事で…。そして、その後も、しばらくの間は、新宿を歩く時はかなり注意して歩いていたが、結局、何事もなく、しばらくしたら、若頭のことなどどうでも良くなっていた。
よくよく考えると、本職のヤクザじゃない可能性が高いと思ったのだ。実際に、本職の人の知り合いなどもいたが、歌舞伎町ならいざ知らず、そこまであからさまに横柄な態度を取る連中は、ただのチンピラの確率が、かなり高いと踏んだ。
もちろん、なんの補償もないが、あの頃は、妙に「俺はそんなもんじゃ死なん」と、意味不明な自信があったのだ。呼吸の病気が治ってきて、借金もたくさんあったが、生きているだけで幸せで、息ができるだけで幸せだったのだ。
とは言っても、今、同じような自体になったら、どうなるかわからない…。「あ、どうぞ、粗茶ですが」と、お茶を差し出すかも、しれません…。あなたなら、どうする?
ちなみに、この手の勇気を振り絞った話は、他にもエピソードがあるので、また近いうちに、お届けできると思います。
ここから先は
言葉を紡ぐ、心を繋ぐ
アーティスト、作家・大島ケンスケによる独自の視点からのエッセイや、スピリチュアルなメッセージを含むコラムを、週に3回以上更新していきます。…
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