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平塚市美術館「こどもたちのセレクション」エピソード11

 子どもたちが不思議だと思う、さまざまに想像を喚起する作品の区画、続いてご紹介するのは加藤芳信さんの作品です。
・加藤芳信『光の輪廻』(2009年 130.2×194.4cm アクリル・紙)

 すごいんです、点がたくさん、点で描かれている!これは所蔵品データベースに掲載されていないので、もう、実物を観ていただきたい!
 学芸員さんの解説によると「ただやみくもに点を打つのではなく、点が配置された後の色彩の効果を計算した上でひとつひとつの点を打っています」とのこと!

●作品はどれくらいの距離から見るか

 美術館などで「作品の見方」について「近くで見たり遠くで見たりしてみてくださいね」と教えていただくことがあります。実はこの作品を見ると、自然と近くで見たり遠くで見たりしたくなる人が多いんです。

 3歳 8ヶ月  近くだと「なんにもない」遠くだと「火事みたい」

と気づいて教えてくれた子もいます。

 子どもたちにとって「自分で発見したこと」は忘れない経験となり、確実な学びにつながることが多いです。だからこんなふうに、教えなくても、子ども自身の力で作品の見方が広がる、そんな作品と出会えることは、得難い経験なのではと思います。
 いろんな作品を見ると、自分で学びを得る機会が増えますね!

 0歳 8ヶ月  にっこり
 11歳    点のこさで色を表している

 最年少0歳と、最年長11歳。経験と知識の違いで見る視点が異なります。

 今回の展示期間中、大人のみのグループでご案内することが何回かありました。点描で埋め尽くされた画面に対し、「ワー、ゾワっとする」「パス!」と生理的に受け付けない~という方も多かったのが印象的です。思春期くらいから、そんな感じの反応があったような。

 「これは計算して出しているんですよねぇ」と、うねりのような色合いが生み出される不思議さに見入っていた方もいらっしゃいました。

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●「どうやって描いているのか」を考え始める

 中川久さん『Q-12-10-A(それぞれの細部が全体を凌駕し始める時)』(2012年 203.0×310.0cm アクリル絵具・和紙、綿)

 0歳 6ヶ月  じーっと見ていた。みどりが好き?
 1歳 5ヶ月  じーっと見た
 1歳 8ヶ月  指さして「あーあー」

 0歳~1歳の言葉での意思疎通がまだ難しい時期は、じーっと見たり指さししたりして伝えてくれます。

 成長するにつれ、知っているものに見立てたり空想したりして、ボキャブラリーも増えてきます。

 3歳 4ヶ月  かわいい、きれい、お花畑みたい
 4歳 9ヶ月  キャンディ

 作品の形状や色についての言及など、見てダイレクトに感じたことの発言も。

 3歳 5ヶ月  大きい
 7歳 1ヶ月  いろ(本人記入)

 大人だと気の利いたことを言わないといけないかな?なんて思ってしまいますが、こんなダイレクトな発言は、まさに第一印象かなと思います。

 そして「技法」についての言及が始まります。

 4歳 7ヶ月  色が好き。なにで描いたの?
 6歳 5ヶ月 遠くで見ると紙を貼っているよう

 小学校の中学年から高学年あたりの図工で「モダンテクニック」という技法を学ぶ機会があります。筆から絵の具を垂らす「ドロッピング」、ストローで吹き絵にする方法、紙を押し付ける表現「デカルコマニー」、筆以外の道具で描くなど、多彩な技法を知ることができます。
 この作家さんも、いろいろな道具、技法を使って描いていらっしゃいます。それにしても絵の具がこんなにクリアな色味で仕上げていく力量の凄さ。

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●「子どもを尊重する」ことと「教える」こと

 小学校・中学校の先生方の研究会におじゃますることがありまして、先日は「子どもが完成と言ってきたとき、そのまま受け取るのか、どこで完成とするか」を質問してみました。皆さん「それは究極の質問だよねぇ!」と、あちこちでお話の輪ができていました。

 私の実施しているワークショップは自由表現で本人の「完成」を基本としているので先生方より悩みは少ないと思うのですが、それでも、ただ「完成なのね」と受けとめるのではなく、発展できる技法やアイデアの提示はします。
 学校のように、教え、学ぶ場となると「もう一歩工夫する、深めてみる」ことを促すのも必要で、先生方の「子どもを尊重する」ことと「指導する」ことの狭間で思慮されている姿を目の当たりにする度、「この先生方に教えてもらえるお子さんたちはラッキーだなぁ」と感じます。

 中川久さんご本人が語っていらっしゃる動画も検索すると出てきます。興味がある方は作家さんのお名前で調べてみると、知らない世界を知ることができて楽しいですね!
 そして画面だけでなくぜひ美術館に来て本物を見ていただけたら。目の前にすると、また違った何かを感じると思います。

 平塚市美術館「こどもたちのセレクション」は2022年9月19日まで開催中です!

https://www.city.hiratsuka.kanagawa.jp/art-muse/20162006_00019.html
(本稿は美術館ご担当者様に確認いただき掲載しております)


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